魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第二章 夏の宴と死者の森

44 赤い森1



 赤い森は、近付けば一目で分かった。

 マゼンタスが北部の極地に位置していて夏の太陽の影響を受けにくいとはいえ、一応同じセレスティア国内ということで夏は夏。木々には緑の葉が茂って、空は青々としている。

 しかし、赤い森の景色は違った。
 立ち入る者の目を奪うのは真っ赤な葉。見渡す限り一面に広がる赤は、脳を興奮させて、こちらの判断力を狂わせるようで。


「圧巻ですな……!」

 感心したようにアーベルが言う。

「寒色の中でも青や緑が沈静色として心を落ち着かせる作用があるとされるのに対し、赤はその真逆。人間の神経を昂らせ、心拍数を上げる効果を持つ」

「気味が悪いです、先生」

「そうでしょう!我々に警戒心を抱かせるこの風景…… 近隣の住民は赤い森を死の森と呼ぶこともあるらしい。実際、自殺者も多いそうですから!」

 コレットは何も答えないまま、バスの中に残る生徒たちの方を振り返った。

 アーベルの計画では、参加者たちは三つのチームに分かれて森に入る。そこで、行方不明者を探しながら森の反対側に設けられたポイントを目指し、チームの色が付いた旗を抜き取って引き返す。

 色分けはアーベルが赤、リンレイが黄色、コレットが青色となっていた。旗の設置自体は昨日早くに到着したというリンレイが済ませてくれたそうだ。

 カラスが旋回する森の上空を見つめる。
 こんな場所に今から可愛い教え子たちを放り込むというのだろうか。居るか居ないかも分からない行方不明者を捜索するという目的で。

(………いいえ、危険だわ)

 手のひらの中で銀色の方位磁針の針がクルクルと回り続けている。コレットはぎゅっとそれを握り締めてアーベルの方へ向き直った。


「今からでも間に合います!別の活動に変更しませんか?以前もお伝えしたように、この森の中は魔力が安定しないと聞きます。加えて、方位磁針が狂って自分の位置すら見失う可能性がある……!」

「それが自然ですよ、クライン先生!魔法使いが戦うことを強いられる時、環境や天候は選べません。これは自然からの挑戦状です!」

「私たちは実戦に来たわけじゃありません!」

「まぁまぁ、お二方とも」

 睨み合うコレットとアーベルの間にリンレイが割って入る。

 強い不安を感じていた。
 いくら、各チームに教師陣が付いて回るとしても、率いるのはまだ子供である学生たちだ。魔力があって魔法を学んでいるとしても、彼らは危険を回避する方法など知らない。ミドルセンの結界に守られたプリンシパル王立魔法学校は、そもそも危険に脅かされることなど無いから。


「では、こうしませんか?」

 朗らかなリンレイの声にコレットは顔を上げる。

「クライン先生が心配する気持ちも分かります。場慣れのためとはいえ、見知らぬ土地は恐ろしいですからね。だから、日没までに打ち切りましょう」

「日没……?」

「今はちょうど正午です。生徒たちは今、バスの中で昼食を取っていますから、午後の時間を使って捜索活動を実施、そして日が沈む前に帰る…… どうですか、アーベル先生?」

「皆さん、慎重ですなぁ!ライオンは生まれたばかりの子を崖から突き落とすと言うではありませんか。多少の荒波は、」

「アーベル先生」

 名を呼ぶと、二メートル近い大男は眉を顰める。
 ベテランに物申すコレットの声は少し震えていた。

「私たちが預かっているのは獣の子ではありません。未来がある優秀な生徒たちです」

「…………」

「引率者として、ミドルセン校長との約束を果たす義務があります。どうか……冷静なご判断を」

「ッフン、良い目をするようになりましたね」

 鼻を鳴らしてルピナス・アーベルはコレットに背を向けた。どうやらリンレイの提案で納得してくれたらしい。

 北部の日の沈みは早い。
 日没までの時間は甘く見積もっても四時間ほど。あと四時間耐え抜けば、この森での捜索を終えることが出来る。ピリッとした緊張が再び身体を駆け抜けて、コレットは腰に装備した拳銃を指先で触れた。

 何もなければそれで良い。
 ただ、皆で揃って帰ることが出来れば。


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