魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第二章 夏の宴と死者の森

45 赤い森2



「………なんだか、身体が重いわ」

 最初に異常に気付いたのはナナだった。

 もともと、コレットのチームはノエルやモモをはじめとした口数の少ないメンバーが大半なのだけれど、そんな中でも二年生のナナと三年生のケリーは楽しそうにお喋りに花を咲かせていた。今思えば後輩たちが不安にならないようにと、気遣う気持ちもあったのだと思う。

 しかし、二人が静かになってもう五分が経つ。
 後ろを歩くナナとケリー振り返った。


「少し休憩する?」

 ナナはふるふると首を横に振る。

「いいえ……ただ、ちょっと、寒くない?気のせいかもしれないけど、森の中を進むにつれて気温が下がっている気がするの。それになんだか、風邪を引いたみたいにダルいわ」

「おう、ナナ。オレも同意だ。頭が回んねぇし悪寒を感じる。なんだこれ……」

 ケリーの言葉に一年生三人も足を止める。
 五人の中でも小柄なタイプのモモとアニアはすでにかなり滅入っている様子で、言葉にはしないものの歩く速度に如実に表れていた。

 コレットは深い霧が立ち込める前方を見据える。チームごとに出発の時間をズラして森に入ったけれど、全くもって他のチームに遭遇しない。それどころか、声や物音すら聞こえない。静かな森の中だから、何かしらの音は聞こえても良いはずなのに。

(やっぱり森の影響……?)

 まだ昼間だというのに薄暗くなって来たため、各自の魔法で進路を照らすように提案する。初歩的な魔法であるにも関わらず、コレット自身も二度ほど失敗してようやく手元に柔らかな光が灯った。

 魔法を使うには元となる魔力に加えて、ある程度の集中力が必要になる。どんな魔法を何のために使いたいのか、といった具体性を持った想像が強いられるのだ。そして、今のこの状況は最適な環境とは言い難い。


「きゃあっ!」

 驚いたように叫んだアニアの方に顔を向けると頭を抱えてしゃがみ込んでいる。どうしたのかと尋ねたところ、大きなカラスが近くを横切ったと言う。

「先生、霧が濃くなってきました。少しあの小屋で休みませんか?」

 ノエルの指差す先には小さな木造の小屋が建っている。存在を忘れられたように苔むしたその建物は、近付いてみると鍵が掛かっていなかったので、有り難く皆で中に避難することにした。

 屋内に入っても相変わらず冷気が漂っている。
 コレットが魔法で火を起こすと、やがて部屋の中はじんわりと暖かくなって、内外の温度差で窓ガラスが白く曇った。

「オレたち帰れるのか……?」

 珍しく弱気なケリーの声に一同は推し黙る。
 安心させなければと口を開くより前に、二年生のナナが立ち上がった。窓ガラスの方へと近付くと、細い指をスッと掲げる。

「ねぇ、みんなで名前を書いておかない?」

「え?」

「辛気臭い顔するのは止めましょうよ。せっかくのサマーキャンプなんだからさ、ここに来たっていう証拠として名前でも残したらどうかしら?」

「所有者の分からない建物に名を残すことは法に触れる可能性もあるわ。姉さんの思い付きで刑罰を喰らうのは反対」

 それまで黙っていたモモがきっぱりと拒否すると、ナナは眉を下げて呆れた顔をする。

「べつにペンで書くわけじゃないもの。少しでも楽しい気分にしたいんだから、水を差すようなこと言わないでよね」

 ガラスに向き直るとナナの指先がスルスルと透明な板の上を走る。可愛らしい文字で刻まれた自分の名前を見て、満足げに頷いた。

 ケリーもまた、寒さに震えながらその下に名前を書く。「ガキの頃にいろんな場所に落書きしたのを思い出すな」という感想が聞こえた。

 頑なに拒否するモモの名前を姉のナナが勝手に追加して、アニアもまたその下に名前を書いた。白く曇ったガラス上に四人の名前が並ぶ。

「先生も書いておいてよ。最悪の場合、旗まで行けなかったとしても、ここまで私たちのチームが辿り着いたって証拠になるわ」

「うーん、そうね」

 コレットもまた窓ガラスに近付くと、生徒たち倣ってフゥッと息を吹き掛けて、自分の名前を書き連ねた。一人だけ一向に会話に入らないノエルを振り返った。

「ノエルくんもどう?」

「僕は大丈夫です。興味がないので」

「じゃあ、私が書いておきますね……!」

 嬉しそうにアニアが窓に近付いて、みんなの下にノエルの名前を付け加えた。薄いガラスの向こうでは、いつの間にか雪が降り始めている。マゼンタスが北部の極地であると言えども、まさか真夏に雪を見ることになるなんて。

(霧がもう少しマシになったら……切り上げて戻るべきかもしれないわ)

 目的地である森の反対側までは行けなかったけれど、生徒の安全を考えたらそれがベストだろう。アーベルにはあとで説明をすれば良い。

 そんなことを考えていたら、窓の外がピカッと大きく光って、小さな小屋を吹き飛ばすような地響きが鳴った。

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