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第二章 夏の宴と死者の森
48 赤の森5
「………ど、どういうことですか?」
「クライン先生も自分が死に戻ったことぐらいは気付いたはずです。貴女は確かに一度死んでいる。そして、レオンの力で再び息を吹き返した」
「何でですか!?私は殿下とは他人です……!」
「ははっ、なるほど。そうですねぇ」
おかしそうに笑うリンレイとは対照的に、レオンは険しい表情を崩さない。
レオン・カールトン。
セレスティア王国の王太子であり、王位継承権第一位である彼は次期国王の座を約束されている。王宮に住む王子様は、コレットにとっては文字通り「壁の向こうの人」だった。それは実在こそするものの、決して出会うことのない本の中の人物のようで。
「無駄話は良いだろう。時戻りの件はお前たちには関係ないはずだ。わざわざこんな場所までお引き寄せて確実に弱ったところを刈りに来たってことは、狙いはマーリンの魔導書か?」
「失礼な。私だって純粋に生徒たちと夏を過ごしたいという思いもあったんですよ。人間たちが群れているのを見ると、元気になるんです」
リンレイの赤い瞳が爛々と輝く。
その手が前へと突き出された。
「あぁ…… なんて、弱くて儚いんだろうってね」
ボフッと手のひらから吐き出された炎がコレットのわきを通過する。
(そっちには小屋が……ッ!!)
コレットが振り返った瞬間、小屋の上から降ってきた大きな龍が炎の球を飲み込んだ。龍を形取っているものの、それはよく見ると水。透明な液体の中で炎は一瞬にして消え失せて、ブクブクと泡を立てて龍もまた消失する。
自分の心臓の音が聞こえるようだ。
初めて見る魔法と魔術の対立。
「アーベルはどうした?ああ見えて一応ミドルセンが認めた教師だ、簡単に死ぬとは思えないが」
レオンの問い掛けにリンレイはコキッと首を鳴らす。
「死んじゃいませんよ。必要な情報を聞き出して、魔力を少し吸い上げただけです」
ニッと笑った口の端に血痕を認めて、コレットは身体が震えた。彼は魔力を吸い取ったと言ったのだ。魔力は通常であれば血に宿る。それを吸い上げるなんて、人間技ではない。
「貴方何者なの!?何が目的で……!!」
「クライン先生、お口にはチャックです。レオン・カールトンの魔力が本人に戻った今、貴女からいただけるものは何もない。無駄な殺しはしない主義ですから、どうぞ見学に徹してください」
「ただ見てるだけなんて出来ないわ!ここから出してっ!!私だって教師です……!」
「先生、」
見えない壁を叩き続けるコレットを嗜めるように鋭い声が飛んだ。驚いて、言葉を発したレオンの方へ目を向ける。相変わらずこちらは見ずに王子は左右の手をブラブラと振っていた。
そのまま流れるように手のひらを地面に付ける。
「これは学校では教わらないことですが…… 同じ魔力の量を持つ者同士が魔法と魔術を掛け合った場合、魔術が競り勝ちます」
「………!」
「当然のことですよね。人間が出力するプラスの気持ちがマイナスの感情に勝てるわけがない。恨み、妬み、憎しみに嫌悪。魔術はそうしたネガティブによって操作されますから、愛だ平和だと謳う半端な魔法は攻撃性では劣る」
「それでも私たちは……!」
コレットは声の限りに叫んだ。
頭の中には、かつて読んだ新聞記事が浮かんでいた。
“魔法は光、人の世を切り拓く”
どんな苦行を強いられても、魔術に手を染めてはいけない。それは魔法使いとしての腐敗を意味して、魂を売る恥ずべき行為。正しい魔法を信じてこそ、光の加護を受けることが出来ると。
「魔術に打ち勝つ唯一つの方法は、シンプルかつ明快」
「殿下……?」
地に着いたレオンの手元が不自然に盛り上がった。両の手が引き上げられると共に、ズズズッと引っ張り出されたのは人の形を模した泥人形。ゆらりと揺れる人形は、レオンがその額に人差し指を押し付けると、よりリアルな造形に変化した。
まるで戦士のような成りをした二体が並列する。
場の空気がピリつく感覚をコレットは感じた。
「魔術には魔術を。悪意は相応の悪意を持ってして叩き潰さないと、勝てはしない」
「魔術の使用は法律で禁止されています!今すぐ解除を──」
「生半可な正義感は貴女の死期を早めるだけだ。生徒たちを助けたいならこの男を倒す必要がある。シン・リンレイは魔力を喰う悪魔です」
言葉を失うコレットの前でレオンは右手を使って六芒星を描く。ポウッと赤く光った二つの星は彼が作り出した人形の背に貼り付いた。
「───隷属、傭兵」
人形たちが走り出す。
向かう先でリンレイが浅く笑うのが見えた。
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