魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第二章 夏の宴と死者の森

51 帰還



 それからの時間の流れは速かった。

 マウロ・ソロニカと共に眠ったままの生徒たちを起こして、コレットがバスまで誘導した。ソロニカは負傷したアーベルの捜索に向かい、数分と経たないうちに同様にバスまで戻って来た。

 アーベルは意識こそないものの、大きな外傷はなく、レオンが言っていたことが真実なら本当に魔力を抜かれて貧血状態になっている様子。

 リンレイが引率していたミナを始めとする生徒、アーベルと共に行動していた五人の生徒についても、怪我はなく皆夢を見た後のような顔をしていた。その顔色からして、良い夢ではなかったようだが。

 眠らされたのかハンドルに突っ伏して大きなイビキをかく運転手を叩き起こして、プリンシパル王立魔法学校への目的地変更を依頼する。今から出たら到着は遅くなるだろうけれど、このままマゼンタスに滞在するよりはマシだと考えた。


「クラインくん……僕はアーベルを近くの病院まで送り届けたらすぐに合流する。それまで引率を頼んでも?」

「ええ、もちろんです」

 不安な気持ちを押し殺して頷く。
 ソロニカはそれを見てフッと口元を緩めた。

「ジルがね、教えてくれたんだ。貴女に危険が迫ってるんじゃないかってね。娘はああ見えて記憶力が良いから、提案してくれた散歩の話を心配しているみたいだ」

「………感謝しています、とても」

 コレット一人では完全に足手纏いだった。

 俯いて黙り込む背中を軽く叩いて、ソロニカはアーベルと共に姿を消す。他者との交流を好まない彼を巻き込んでしまったことを申し訳ないと思いつつ、自分の弱さに対する強い悔しさを感じていた。

 しかし、それでも生徒は無事。
 バスに戻って胸を撫で下ろすコレットの腕を小さな手が引いた。後ろを振り返ると、心配そうな顔をしたアニアを筆頭にして一年一組のメンバーが立っている。


「どうしたの?」

 コレットは身を屈めて問い掛けた。

「先生……ノエルくんは?」

「あ、えっとね………」

 バタバタしていて忘れていたけれど、レオンがその身を偽っていたとはいえノエルは彼らにとって大切なクラスメイト。突然消えたとなれば、きっと事情を知りたがる。だけれど、現状コレット自身も理解していないことを伝えても、混乱を招くだけ。

「ノエルくんは、みんなより少し眠りが深かったからアーベル先生と一緒に病院で診てもらうことにしたの。何か……進捗があれば伝えるわね」

「そうなんだ……」

「なんだよアイツ、いつもへっちゃらな顔してるくせに……早く元気になれって伝えてくれよな」

 アストロまでもがそんなことを言うから、咄嗟に吐いた嘘がぎゅっと胸を締め付けた。

 だけれど、なんて言えば良いのか。
 真実は到底言えそうにない。

「貴方たちと一緒に学んでいたのは実はこの国の王子様でした!やることがあるから姿を眩ませたみたいだけど気にしないで~」とか?そんな説明をしたところで、彼らが抱く疑問や追求にコレットはきっと答えられない。それならば、今はこの回答が精一杯。

 走り出したバスの中で窓の外を見ていると、ドスッと隣の座席が沈んだ。横を向くといつの間にか戻って来たソロニカが腕を組んで座っている。


「………お疲れ様です。ありがとうございました。ソロニカ先生が居なかったら、」

「そういう湿っぽいのは不要だ。アーベルは暫くの間は入院して魔力供給を受けることになるらしい。夏休み中で良かったな」

「そうですか……」

 コレットはスカートの裾を握り締める。

 何もかも分からない。
 自分の時戻りはどうやら王子が原因のようで、これに関してはレオン・カールトン以外に説明を求めるのはお門違いなのだろう。

「先生は………」

「ん?」

「ソロニカ先生は、何を知っているんですか?」

「……私はただの魔法学校の教師だよ、人間嫌いのね。レオンと知り合ったのは軍に所属していた時だから、彼の在学中じゃない」

「殿下はプリンシパルの卒業生なのですか?採用試験を受ける際に著名な卒業生の一覧は拝見しましたが、殿下のお名前は──」

「クラインくん」

 ついつい焦りが滲んでしまうコレットを見兼ねてか、ソロニカはゆったりとした口調で窘めた。だけれど、強い不安は常に付き纏う。

「レオンのことはレオンに聞きなさい。僕だって全知全能じゃない。彼が学生だった頃、僕はまだ軍人だったんだ。本当に何も知らない」

「………すみません」

「まぁ、しかし、巻き込まれたことは同情するよ。確か養護教諭のウィンスターくんが同期だったはずだから、何か教えてくれるかもしれないね」

「え?」

 コレットは大きく目を見開く。
 ウィンスターとはつまり、レイチェルの姓。

 思い出すのは、保健室で見掛けた色褪せた写真のこと。学生時代のレイチェルが楽しそうに笑う傍には三人の男が居た。一人は黒髪の穏やかそうな男、もう一人は赤い目をした大口を開けて笑う男、そして残る一人は。

 ノエルにそっくりな金色の髪。
 今よりも若く無邪気な表情をした、王子。







◆おしらせ

明日から第三章に入ります。
ちょっと反省するぐらいお気に入りが伸びなかったのですが、すでに書いてしまった分があるのでとりあえず更新します。読み進めていただいている方々には感謝感謝です。
感想 5

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