魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第三章 辺境伯の箱庭

閑話 ライラックの乙女1



 燦々と降り注ぐ太陽。
 あれは確か、とても暑い夏の日だった。



『レオン・カールトン、イリアス・サンドラ……至急職員室へ来なさい』

 ポーンと鳴った校内放送は友人二人の名を読み上げる。レイチェルは隣で「またなのね」と呆れ顔をして見せ、当の本人たちは口をへの字にして校舎と反対方向に向かって歩き出す。

「おい、君たち!何処に行くんだ?今のはプッチ副校長の声だっただろう。内申に響くぞ!」

 親切心からそう声を掛けると、レオンは振り向いてベッと舌を突き出した。

「知るかよ。イリアスと一服キメに行くって話してたんだ」

「君はバカか!校内は禁煙だ……!」

「タバコじゃない。三時のおやつだよ。お前らも来るか?グズゴベリーをあぶってハチミツを掛けると美味い」

「ハチミツなんて持ってないよ」

「イリアスがその辺の蜂の巣を蹴り落とす」

 冗談とも本気とも取れない答えに困惑していると、軽やかな笑い声が聞こえた。目をやればレイチェルが口元を押さえて笑っている。いつもはアルバートと共に注意を飛ばす側の彼女が、この状況に笑っていることを不思議に思った。青い双眼は、森の中へ駆けて行く二人を見ている。

「昨日、イリアスに告白されたわ」

「………そうか」

「貴方の入れ知恵じゃないの?らしくない言葉を使ってね、君はライラックの乙女だ!って」

「…………」

 事実、アルバートは友人の恋心を知っていた。

 イリアス・サンドラが同期生のレイチェルに並々ならぬ感情を向けていることは、クラス中の生徒が知っていたと思う。なんと言っても分かりやすい。イリアスは常日頃から話すときに人の目をよく見るタイプだったが、半年ほど前からレイチェルの方をまったく見なくなった。おそらく緊張から。

 それに加えて、学食での席取りについても常にレイチェルの隣をキープ。稀に何も知らないレオンなんかが間に割り込もうものなら、決闘でも申し込まれたような顔をして睨む。

 分かりやすく、感情的で一直線。
 曲がったことが大嫌いな男。

 イリアス・サンドラはそんな生徒だった。


「どうだろうね。それで、返事は?」

「オーケーしたわ」

「へぇ、めでたいな。嬉しいよ、友人の初恋が実って」

「やっぱり知ってたんじゃない!」

 バシッと背中を叩かれながら、予鈴の音を聞いて校舎へと歩き出す。

 あの様子ではたぶん、レオンとイリアスは授業の途中でこそこそと潜り込むか、いっそ次の授業はサボる予定なのだろう。新任であるマクシミリアン・クロイツには悪いが、二人が比較的地味な魔法道具学に積極的に参加するとは思えない。

 しかし、そんなアルバートの読みは外れた。



「アッアーン!鏡よ鏡~鏡ちゃん~!みんなの未来を見せてちょうだい~~!!」

 野太い声が魔法鏡に問い掛ける様子を、生徒たちは目を輝かせて見る。今日の魔道具は知りたいことを教えてくれるという魔法鏡で、いかにも魔法らしいその能力は皆の興味を引くようだった。

 教師であるクロイツも、手応えのある反応に嬉しそうな顔をしている。丸い鏡が白く曇って、やがて鏡の前に立っていたレオンが「げっ」と呟いた。

 取り囲む数人の生徒がそれを見てワラワラと顔を寄せて覗き込む。アルバートの位置からも、鏡の中のレオンの顔を見ることが出来た。

「………陛下にそっくりだな」

「だろっ!?なんだよレオン~、もう完全に国王じゃん!税金下げてくれよな~~」

 調子の良いことを言う生徒をジロッと睨むとレオンは席を立つ。「お前もやってみろよ」と声を掛けられて、空いた席にイリアスが座った。

「ふぅん……悪くないんじゃない?」

 いつの間にか近くに来ていたレイチェルがそう言うと、イリアスはへらっと頬を緩める。今より少し短い茶色い髪に、特徴的な赤い目をした鏡の中のイリアス・サンドラもまた、嬉しそうに笑っていた。

「ねー先生、未来の自分が禿げてたらどうすんの?」

 男子生徒からの心配そうな質問に、クロイツは「大丈夫よ」と答える。

「ンフフッ。魔法鏡が映し出す未来の姿は、あくまでも現時点での予想に過ぎないの。確約されたものじゃないから、貴方たちの努力で変わることもあるのよ~」

「努力次第で禿げルート回避か!」

「逆を言えば今の未来がフッサフサでも不摂生を続けたら病死、若ハゲなんでもありよ~ん」

「ひぇーヤベェ」

 魔法道具学の時間にしては珍しく、その日の授業は大いに盛り上がった。


 そして時は流れて、イリアスとレイチェルは順調に愛を育み、季節がまた夏に近付こうという頃。二年生になったアルバートたちに対して、校外学習が発表された。内容は西の極地キュアノスにおける魔獣の討伐。魔獣といっても軍が相手取るほどの危険な類ではなく、あくまでも保護が目的。

 日々の学習の延長線として考えていた。
 終わったら海に行こうと計画を立てて。


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