魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

文字の大きさ
65 / 105
第三章 辺境伯の箱庭

57 箱庭◆アルバート視点




「一時間待った。ここはお前持ちだぞ」

「………君は相変わらず横暴だなぁ」

 カランコロンと扉が開く音がして、数人の団体客が店内に入る。そちらを一瞥してアルバートは席に着くと、アイスコーヒーを注文した。

 それを見てレオンは目を丸くする。

「そんな物飲むのか?午後のカフェインは眠りの質を落とすと言って頑なに受け付けなかったお前が……?」

「もう十年以上前のことだ、食の好みだって変わるさ。ダコタはコーヒーを淹れるのが上手でね、お陰で朝目覚めるのが苦じゃなくなった」

 良い香りで起こしてくれるから、と言い添えるとレオンはプイッと顔を背ける。興味がない話になるとあからさまに態度が変わるところは若い頃と同じのようで。

 レオン・カールトンに連絡しようと思い立ったのはつい最近のこと。

 プリンシパル王立魔法学校で養護教諭を勤めるレイチェルから便りがあって、魔力の結晶の分析を頼まれた。分析自体は難しいことではなかったが、いかんせん今は大切な時期なので家を空けるのは控えたい。そこで彼女に来てもらおうと思った折で、二人目の友人も誘ってみたのだ。


「………レイチェルが居ると分かっていたら、ここまで来なかった」

「そう言わないでくれよ。彼女だってもう大人になった。時間は流れて、心の内だって変化しているさ。現に手紙を送ったと言っていたじゃないか」

「イリアスはまだ十六のままだ」

 カップの中の紅茶を睨んだままでレオンは言う。
 彼自身もまだ、消化が出来ていないのだと思った。

「あれから毎年キュアノスに出向いてる。だけど未だに森は受け入れてくれない。あの場所に何かヒントがあるんじゃないかと思うんだ、だってそうじゃないと俺を拒絶する理由が分からない……!」

 レオンが、亡き友を偲んで夏が近付くと西の極地キュアノスに出向いていることは知っていた。数年前に一度顔を合わせた際にそんなことを言っていたから。だけど、毎年だなんて。

 アルバートは運ばれて来たアイスコーヒーのグラスを僅かに傾ける。中の氷がカランッと心地良い音を立てた。


「……君も知っての通り、キュアノスには魔の道があると言われている。悪魔や魔獣が巣食うの世界と繋がる道だ」

「…………」

「イリアスを取り返そうとするのは正直賛成出来ない。だいたい、取り返したところで彼は……」

 相槌を打つでもなく、レオンは外していた視線をこちらに戻して口を開いた。

「極地会という集まりを知ってるか?」

「極地会?」

「最近マゼンタスで、イリアスを襲った悪魔の一人を見掛けた。正確に言えばそいつは講師に化けてプリンシパルに潜伏していたんだが、」

「待て待て!どうして君がプリンシパルの事情を知ってるんだ?退学して立入禁止だろう?」

「あー……これはちょっと話せば長くなる。悪いが今回は説明を省かせてくれ」

「それは君が話したがっていたコレット・クラインに関することか?」

 アルバートの視線の先で、レオンは少しだけ驚いた顔をすると口角を上げた。久しぶりに見た友人の笑顔のようなものに目を疑う。

 しかし、本当に話す気はないようで、話題はまた彼の関心の的である極地会へと戻った。


「とにかく、だ。悪魔の一人は名前をリンレイと言って糸目のひょろっとした男だ。その男に協力する女の姿も見た。報告すると言っていたから、まだ他にもメンバーが居るはず」

「極地会なんて聞いたことがない。新興宗教か?」

「ある意味宗教的とも言える。アイツらの目的は魔術の復興だ。イリアスの時にもそんな話をしていた。あの時点では、まだ組織に名前は付いていなかったが……」

 レオンはそこで言葉を切って考え込む。
 その険しい表情に、アルバートは不安を覚えた。

「レオン、まさか魔術に手を染めてないだろうな?君がイリアスを救うために魔術を使ったことは聞いている。だけど、もうそれっきりで、」

「大丈夫だよ。安心してくれ」

「………そうか」

 ドクドクと高鳴る胸の音を抑えるために、コーヒーを一口飲む。頭の中には彼の父であるグレゴリオ国王の顔が浮かんでいた。

 堂々たる風格の国王は、魔法こそが至高と考える完全なる魔法第一主義者。息子であるレオンがプリンシパルを退学したことは王家の力で揉み消されており、卒業名簿にこそ載っていないものの、公的には既卒生として扱われている。


「悪いが……僕は一緒に戦うことは出来ない。君が何に立ち向かおうとしているのか知らないが、僕には守るべき領地と家庭がある。特にダコタは今、かなり大切な時期なんだ」

「分かってる。巻き込むつもりはない」

「調べ物なら引き受けるけれど、君もあまり首を突っ込み過ぎない方が良い」

「………ああ」

 短い変事を返すと、レオンはそのまま席を立った。

 去って行く背中を見送りながら、自分の作り上げた生活のことを考える。派手ではないけれど、人々のあたたかな笑顔が溢れる領地。屋敷の庭には美しい花々が咲き乱れて、一歩建物の中に入れば、信頼できる妻が居る。

 それは、アルバートにとって箱庭のような存在。
 絶対的な安全が保証された安心できる空間。







◆おしらせ

ちょっと心が折れそうなので気分転換に短編を書いてみました。『よくある婚約破棄なので』というお話で完結投稿で25話で終わります。よくある話かどうかは読んでのお楽しみでお願いします。
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

亡き姉の身代わりとして嫁いだ私ですが、離縁状を置いた翌朝、夫が私の「真実」に気づいたようです』

まさき
恋愛
「サインはもう、いただきました。あとは私がこの屋敷を出るだけです」 ​五年間の結婚生活。侯爵令嬢エルゼが演じ続けたのは、亡き姉・ロザリーの「身代わり」という配役だった。 夫であるカイル公爵が愛していたのは、かつて雪の中で自分を救ってくれた初恋の少女・ロザリー。 生き写しの妹であるエルゼを娶りながらも、彼は一度も彼女を「エルゼ」と呼ぶことはなかった。 ​冷淡な視線、姉と比較される日々。 「君はどこまでいっても、ロザリーの代わりにはなれない」 その言葉を最後に、エルゼは静かに離縁状を置き、屋敷を去る決意をする。 ​しかし、彼女が消えた翌朝。 カイルは、エルゼが大切に遺していった古い小箱を見つける。 そこにあったのは、十五年前のあの日、彼が「命の恩人」に預けたはずの片方のカフスボタン。 そして、幼いエルゼが綴った、あまりにも切ない真実の日記だった。 ​――「あの日、雪の中で貴方を抱きしめていたのは、お姉様ではなく、私だったのです」 ​真実を知り、絶望の中でエルゼを追うカイル。 だが、すべてを捨てて「自分」を取り戻したエルゼは、もう二度と、彼の隣で微笑む仮面の妻には戻らない。 ​これは、名前を奪われた女が自由を掴み、愚かな夫が真実の愛を失うまでの、静かで鮮やかな再生の物語。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。