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第四章 二つの卵と夢
58 アイスクリームパーティー
コレットとレイチェルは、ペルケマリアのシモンズ邸で二泊ほどして王都へ帰還した。
初日こそ落ち込んでいたレイチェルも、時間が経つにつれて徐々に笑顔が増えていった。レオンとの関係については「過去を語る決心が付かずに黙っていて申し訳ない」と謝罪を受けた。
滞在中、アルバートとダコタの二人は丁寧にコレットたちをもてなしてくれた。コレットは優しい辺境伯夫妻に好感を抱き、また訪問することを約束して邸を去った。
検証を頼んでいた、プリンシパルを襲ったカラスの結晶は、やはりリンレイのもので間違いないのではないかということになった。というのも、結晶に含まれていた血液は「該当者なし」という結果を導き出したのだ。
アルバート曰く、それは人在らざる者が作り出したものである可能性が高いということだった。なぜなら、国内の魔法使いは必ずデータとして登録されているから。念のためリンレイが出身であると言っていたワコン共和国のデータも参照してもらったが、一致する者は居なかった。
シン・リンレイは悪魔という説を信じる方が、色々と辻褄は合う。
思い悩んだ挙句、ノエルの正体がレオンであるということは伏せておくことにした。これ以上、レイチェルの前でレオンの話をするのも気が引けたし、レオン自身の口から語るならまだしも、コレットが説明するのは違う気がしたから。
同様の理由で、時戻りについても話していない。
本音を言えば誰かに言いたいし、何か知っていることがあるならば教えてほしい。だけども、「私は実は二度目の人生を生きてるんです~あはは!」と言ったところで、先ず正気を疑われることは間違いない。
レオンはまた新学期が始まれば学校に来る。
その間の王太子としての生活がいったいどうなっているのか気になるけれど、これまた「問題ない」という彼の言葉を信じるしかないだろう。
「コレット、アイスが溶けてるよ」
耳元で聞こえた声に飛び上がった。
「ほっわ……!びっくりしたー!」
「いや、シャツが白いから一応教えておこうと思ったんだけど。余計なお世話だった?」
ハインツは不思議そうにコレットの服を指差す。
白いブラウスにはすでに水色のシミが三箇所ほど出来ていた。慌ててタオルを引っ掴んで拭く。
そろそろ夏休みも折り返し地点ということで、メゾン・ド・ミロワの有志たちによるアイスクリームパーティーが開かれていた。とは言っても、明確に夏休みがあるのはコレットぐらいで、他のメンバーは変わらない日常を送っている。
「最近写真の方はどうなの?」
長い睫毛の下で赤い瞳がキョロキョロとアイスを物色するのを見ながら、コレットは問い掛ける。
「うーん、まぁまぁだね。あんまり良い被写体が居なくてさ。そうだ!今度サガンにでも行かない?」
「サガン?」
「友達がなんか有名な舞台女優が主演する演劇のチケットをくれたんだ。誰だったかなぁ……ほら、あの、奇跡の美貌って言われてる……」
「もしかして、オリアナ・デ・ロサ?」
「そう!その人だ!」
こくこくと頷くハインツの前で驚く。
オリアナ・デ・ロサはコレットが受け持つ一年一組に在籍するデ・ロサ兄弟の母だ。現役で女優業を続けていることは知っていたけど、まさかその公演に自分が行く機会が訪れるとは。
オリアナの子供は私の生徒なの!と自慢したいところをグッと堪えて「是非とも行きましょう」と答えた。デ・ロサ兄弟にも一言伝えたいけれど、年頃の青年に母親の話をするのは嫌がられるだろうか。
悩んでいたら前方から大きな声がした。
「ハインツ~~デートかい?」
「え?」
見上げれば、マダム・ミロワが巨大なワイングラス片手にニヤニヤとこちらを見ている。空いた手には三色のアイスが盛られたコーンが握られていた。
一応伝えておくと、今は昼。
「アタシは前からあんたら二人がデキてんじゃないかって思ってたんだ。このメゾンは自由恋愛を推奨してるからね、だけど共用部におけるイチャつきは全面禁止だよ」
「マダム、誤解だわ。ハインツは私にとって弟みたいな存在なの。年は同じだけど、なんだか放っておけないし……」
視線の先でハインツは「コレットに言われたくないよ」と頬を膨らませる。その様もまた、彼を弟らしく見せる一因となっていた。
「なんだよ、残念だねぇ。年頃の男女が一緒に生活すると愛が芽生えるって最近読んだ恋愛のハウトゥー本に書いてあったけど、ありゃ大嘘だ」
「私は仕事で手一杯ですから!恋愛は余裕のあるマダムにお任せします」
「この年になるとなかなか積極性も出ないんだよ。アタシは元より奥手だから、どっかのイケてるナイスミドルが向こうから迫ってくれれば良いんだけど……」
コレットはぼんやりと聞き流しながら、壁に掛かったカレンダーを見る。八月も中旬に差し掛かろうとしている今、自由な時間をどう使うべきか。
(………帰ってみようかしら)
頭に中にはマゼンタスの青い空が広がっていた。
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