魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第四章 二つの卵と夢

60 帰る場所



「で、ででん殿下……!」

「その呼び方を止めろ。周囲の目が気になるし、王宮の外でぐらい肩の力を抜きたい」

「………すみません」

 聞いて良いものか、悪いものか。
 いったいどうして王都に居を構える王族の彼が、再びミニサイズとなってコレットの隣に座っているのか。飛行機から降りてバスに乗り換えてもまだ隣に座っているけれど、何故。

(いやいや、たまたま方面が一緒な可能性も……)

 あるのだろうか?
 こんな片田舎にわざわざ?

 窓の外の景色はどんどん緑が濃くなっていく。
 点在する家々の庭には鶏や山羊などの姿が混じり始めて、コレットは自分の住み慣れた街が近付くのを感じた。もう次は終点。


「あのー……私は次で降りる予定ですが……」

「俺も次で降りる」

「えっと、その……ご存知ないかもしれませんが、終点の駅はアルベスティという地名で、マゼンタスの中でも一、二を争うかなりの田舎町でして」

「それぐらい知識として知っている」

「あ、えっ……? ではいったい何をしに?」

 ガタンッと大きく揺れて列車が停車する。
 数少ない乗客が荷物を抱えて下車し始めた。

 レオンは座席から降りてコレットを振り返る。見たところ必要最小限の荷物、つまりポケットに入れた財布ぐらいしか持たない姿に疑問を覚えた。

「君の家を訪問するためだ」

「はい?」

「俺たちはどうやら同じ目的地を目指しているようだから、先を歩いて案内しろ。間違ってもさっきみたいに俺を呼ぶなよ」

「ちょっと……!」

 置いて行かれないように大きな荷物を持ち上げるコレットを、レオンは呆れたように見遣る。片手を上げると人差し指をくいっと下に向けた。

「良いか?こういうバカデカい荷物は軽量化して運ぶんだ。日常的に魔法を使うのは基礎だろう」

「すみません……魔力ゼロなもので節制を……」

「これぐらいで減ったりはしない」

 行くぞ、と声を掛けるとレオンはそのままコレットの荷物を引いて歩き出す。コロコロと回る車輪を眺めながら、側から見るとまだ子供である彼に自分の荷物を持たせるのはいかがかと考える。

 しかしながら、ここでまた持つ持たないですったもんだするのも時間の無駄なので、大人しく案内役に徹することにした。




 ◇◇◇




「えっと……ただいま、お母さん」

「はい、おかえり。その子は?」

 扉を開けた先で母の目がジロリとレオンを見る。
 コレットは青年が爽やかに笑うのを目にした。

「こんにちは。僕はクライン先生の生徒で、マゼンタスの親戚を訪問する途中だったんです。だけど、どうやら外出中のようでして…… 偶然電車で一緒になった先生が、うちにおいでって」

「えっ!?」

 思わず聞き返した瞬間に、コレットが手に持っていたトランクケースの重さが急激に増えた。軽量化が解けて元に戻った、と言った方が正しいかもしれない。

「コレット先生、すみません。迷惑でしたか?」

「あっ、いや……」

 しどろもどろになるコレットを見て母ソワンは小さな溜め息を吐く。その顔は、幼い頃の母の印象をコレットの中に蘇らせた。

 ヒュッと喉が狭まる感覚。


「この子はいつもそうなのよ。頭の回転が悪いっていうのかしら?自分で言ったことなら、きちんと最後まで守りなさい。ほら、客室にご案内して」

「………はい」

 重たい荷物を引っ張りながらレオンに声を掛ける。情けない顔はしたくないけれど、あまり明るい滞在にはならないようで。

 こちらを見る灰色の双眼には気付いていたが、その目から逃げるようにコレットは廊下を歩いた。

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