70 / 105
第四章 二つの卵と夢
62 不器用
「ええっ!?パパの仕事が終わったばかりだっていうのにもうノエルくんは帰るのか?泊まっていけば良いじゃないか!」
「彼は未成年だそうよ。親が心配するでしょう」
父リーマスがショックを受ける隣で、母が冷静に自分の意見を述べる。母ソワンが話すことはいつも正論なので、何も言い返せない。
どういうわけかコレットに付いてアルベスティを訪れたレオンは、夕食を食べたら帰ると主張した。彼の言い分では「夜になると親戚が戻ると言っていたのを思い出した」らしい。
とうもろこし農家を生業とするクライン家では、夕食の際にもたくさんの穀物が並ぶ。母には悪いけれど、王家の人間であるレオンが食するにはいかんせん質素過ぎるのではないか、という不安で胸がドキドキした。
「とても美味しいです。料理長は一流ですね」
「この家の料理長は私よ、気に入ったならいつでも食べに来たらいいわ。次はご両親にも断った上で」
「ありがとうございます」
気難しい人間だと思っていた母が、そんなことを言うからコレットはこっそり驚く。父もまた丸い目を更に丸くして妻の顔を見ていた。
「コレットは上手く先生をしているの?」
母の質問にレオンは笑顔で頷く。
「はい。生徒思いの良い先生です。熱心に指導してくださるので、僕たちも先生を慕っています」
「………そう」
「僕は、コレット先生が担任で良かったと思います。同じ熱量で他人の人生を考えてくれる人は、なかなか居ませんから」
「不器用なだけよ、この子は」
母ソワンはそう言って席を立った。
機嫌を損ねたのでは、とコレットがその背中を目で追っていると、父リーマスがこそっと口元を手で隠して内緒話をするように顔を寄せる。
「コレット、少し前に手紙をくれただろう?」
「へ?」
「ほら、応用魔法の……パスバードだっけ?あれが家まで飛んで来てさ、お前の近況を父さんたちに教えてくれたじゃないか!」
そういえば、ハインツと話した際にそんな話が出た気がする。コレットが遠方に手紙を送るためにパスバードの登録を済ませていた、と彼は教えてくれたのだ。
巻き戻り前のことなのでハッキリは覚えていないけれど、父がそう言うならばそうなのだろう。ぼんやりと頷く前で、リーマスは目尻を下げる。
「母さん、とても喜んでたんだよ。飛んで来た鳥を返さずに飼うって言い出してね……説得するの大変だったなぁ」
「お母さんが……?」
「素直じゃないんだよね。若い頃からああいう感じなんだけどさ。今だってきっと、ノエルくんの言葉が嬉しくて、一人で泣いてるんじゃないかな」
目を閉じてビールを煽る父の姿を見つめた。
そんなこと、今まで知らなかった。
「まったく……不器用なのはどっちだろうね」
見慣れた料理が、じわっと涙で滲む。
二十二年間過ごしたアルベスティの家は、変わらない姿でそこにあった。魔法使いになりたくて、なりたくて、がむしゃらに勉強をしてきたけれど。
もしかしたら、コレットが教師になったことを一番喜んでくれていたのは。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。