魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第四章 二つの卵と夢

65 三人の賢者◆レオン視点



 夜明けよりも早く目が覚めるのはいつぶりか。

 正確に言えば、自然に目が覚めたのではなく「眠りを妨げられた」と言った方が正しい。部屋の外から聞こえるノックの音は、急を要するものであると主張するようにうるさくドアを揺さぶる。


「………入れ」

 おそらく返事が無ければ突入するつもりだったのだろう。扉を開ければ、右手を振り上げたままの三人の男たちがドカッと床に倒れ込む。

 カグファ、バルタザール、グシュナサフと呼ばれる三人は王宮に仕える魔法使いで、年齢不詳の彼らがいつから王のしもべをしているのかレオンは知らない。分かっていることは、この非常識な時間に自分の部屋を訪れた彼らがレオンより目上の者、つまり国王の命で此処へ来たことぐらいだった。


「おはようございます、レオン様」

 姿勢を立て直しながら挨拶を口にするのはカグファ。三人の中で一番小柄なこの男は、外見は四十代半ばほどに見えるが、かなり古い時代のことをまるで経験したように語っていたので実際いくつなのかは分からない。

「おはよう、カグファ。あまり良い目覚めではないが、君たちも仕事で来たんだろう。父は随分と早起きなんだな」

「国王陛下はこのところ眠りが浅いのです。何やら心配事が胸にあるようで……」

 暗にレオンの現状を示唆するようにそう述べるのは、中肉中背、すべてを取って平均値であるバルタザール。一度顔を合わせても次の瞬間には忘れてしまうような特徴の無さが彼の最大の特徴。

 レオンは上体を起こしてベッドから足を下ろした。どうせもう眠ることは出来ないと諦めて、用意された服に着替える。

「何処へ向かえば良い?朝食の場で話すのか?」

「いいえ。陛下は王の間でお待ちです」

「分かった」

 小さく頷くと、三人の魔法使いたちは甲斐甲斐しく頭を下げてその場を去った。一言も言葉を発しなかったグシュナサフが去り際に意味ありげな目線を寄越したが、見て見ぬふりをして遣り過ごす。

 おおよそ、彼らの言いたいことは分かる。
 不在の間に随分と迷惑を掛けているのだ。良い加減にしろ、と文句の一つや二つ言いたいのだろう。

 しかしながら、プリンシパル王立魔法学校で過ごす間の代役は必要不可欠。レオンのことをよく知り、高度な魔法が使える三人が適任だと判断した。

 胸の内で次に会った時のための労いの言葉を用意しつつ、部屋を出る支度を整える。鏡に映った自分の顔はここのところ見慣れていた十六の少年とは違い、疲労感を感じさせた。大人になるとどうしてこうも疲れが顔に出るのか。

 短い溜め息を吐いて鏡から身体を引き離す。
 早い時間帯ということもあり、廊下は静かだった。



「国王陛下……レオンです」

「ああ」

 実の息子であろうとも、王宮の中では常に王として敬えという教えの通り、身に染み付いた呼び名で親を呼ぶ。常識的な朝の挨拶は省略されて、国王グレゴリオ・カールトンは窓際に立ったまま軽く手を挙げた。どうやらこちらへ来いという意味らしい。

「睡眠中のところすまない」

「問題ありません」

「先週末にペトロフ侯爵の娘と食事をする機会があったようだが、お前は体調でも悪かったのか?」

「………? そんなことはありませんが、」

 答えたレオンの目をグレゴリオが射抜いた。
 カールトン家に遺伝する灰色の瞳。

「侯爵と昨日会う機会があった。知っての通り彼の娘はお前との縁談を望んでいるから、相手の一挙手一投足に敏感だ。先週の食事会、お前は予定より長くその場に居残ったらしいじゃないか」

「あぁ……そうですね」

「それに常日頃より饒舌だったと伺っている。侯爵は喜んでいたよ、お前が前向きな姿勢を示したと」

「………なら良かった」

「何を考えている?」

 ピリッとした緊張が走る。

 老いても国王。その威厳は健在だ。実際、先週のペトロフ侯爵家の令嬢との食事会にレオンは参加していない。調べ物に忙しくて、三人の賢者のうちの一人であるグシュナサフに代打を頼んだのだ。変装魔法を得意とする彼なら上手くやってくれると思って。

(興味はないくせに文句は言うんだな)

 子供染みた反抗の言葉が浮かんだけれど、唾と一緒に飲み込んだ。吐き捨てて言い返すことが出来れば苦労はない。


「何も考えていませんよ。イレーネ・ペトロフが僕との食事会をとても楽しみにしているという話は伺っていたので、あくまでも良識のある対応を取ったまでです」

「なるほど、次回の予約も快く引き受けたそうだな。果ては王太子妃にするつもりか?」

「………さぁ。どうでしょう」

 内心舌打ちをした。
 卒なく場をこなすことは頼んだものの、相手に過度な期待を抱かせる対応は求めていない。父親の言動を言葉通りに受け取ると、グシュナサフは少しばかりようで。

「レオン、一週間ほど私に同行しろ。随分と公務に精を出して部屋から出て来ないと聞くが、気分転換に行楽でも行こうじゃないか。ちょうど週末にサガンでオリアナ・デ・ロサの公演がある」

「………?」

「演劇だよ。大衆が好む俗物をこの目で見て、我々も学ぶことはあるだろう。テロの跡地を確認するとともに幾つか回りたい研究所もある」

「分かりました」

 レオンが返事を返すと、国王は目を閉じて髭を撫で付けた。自分の要望が通ったことに満足している顔だ。「話は終わりだ」という声を受けて部屋に戻りながら、今回は代理を頼むことは出来ないかもしれないと考えた。

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