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第四章 二つの卵と夢
66 招待
「え!オリアナ・デ・ロサの舞台に招待……!?学校の全員を……!??」
ミナの大きな声が教室に反響する。
両手で耳を押さえながらデ・ロサ兄弟は頷いた。
「行きたい人だけね。父様が演出を総監督して母様が主演を務める舞台が週末にサガンで開催されるんだ。本来ならサガンの街の人を無料で招待するはずだったらしいけど、手違いで空席が出たらしくて」
「へえぇ……そうなんだ。もちろん行くわよ、収容人数が多いのね。貴女たちも行くでしょう?」
振り返ったミナの顔を見てヴァレリーとアニアもコクコクと首を振る。関心があるのか、バロンやアストロまでもが話すのを止めてそちらに視線を向けていた。
エドムとジェイクのデ・ロサ兄弟が、母親であるオリアナ・デ・ロサが出演する舞台のチケットを譲渡するという話を持って来たのはつい先程のこと。
彼らの説明通り、サガンの街の担当者によるミスでいくつかの空席が出てしまったようで、魔法学校の生徒たちで希望する者が居れば観劇することが出来るらしい。
(ハインツが誘ってくれたやつよね……)
ぼんやりと考えていたら、大人びた表情のヴァレリーがこちらを見た。
「コレット先生は行きませんよね~?週末はデートの予定ですでに埋まってるだろうし」
「んなっ、なんでそれを!」
「あれ?図星なの?」
「いやいや、べつにデートじゃないわよ。友達がたまたま同じ舞台のチケットを手配してくれたの。私だって良質な芸術に触れる趣味を持ち合わせてるから」
しどろもどろと述べていたら双子の片割れに笑われた。
「じゃー、先生とは向こうで会うかもね」
「そうだね、エドム。コレット先生のピンク髪は暗い劇場でもきっとよく目立つ。サプライズで客席にスポットライトでも当ててもらおうか?」
「お願いだから止めて」
ケラケラとふざけるデ・ロサの二人に両手を合わせて頼み込むポーズを作る。冗談だと分かっているけれど、そんなことやられた末には恥ずかしさで死んでしまう自信がある。
「あの、さ」
散り散りに帰って行く生徒たちを見送って教室を去ろうとした時、ジェイクが何やら迷いのある顔でコレットの肩を叩いた。
「どうしたの?」
「いや……ノエルにも一応この話を伝えといてよ。アイツってもう一週間ぐらい学校に来てないだろ?家庭の事情なら仕方ないけど、なんか大変なら息抜きぐらいにはなるかなって」
「んふふ、優しいところもあるのね?」
「違う!空席があったら母様が可哀想だから……!」
耳まで真っ赤にしたジェイクに「分かったから安心して」と返してコレットはヒラヒラと片手を振る。兄のエドムを急かすようにして、二人は教室を後にした。
「………家庭の事情、ねぇ」
ノエル・ブライスと名前を偽るレオンがプリンシパル王立魔法学校を欠席してもう八日目になる。代理で連絡を取っている寮の管理人オタビオ・ブライスによると「公務で忙しい」とのことだが、もちろんそのまま伝えるわけにはいかないので、クラスの生徒たちにはブライス家の事情があると伝えた。
ちなみにオタビオはレオンから正体を明かした話を聞いているようで、騙すつもりはなかったとコレットに深々と謝罪した。彼はただ自分の務めを果たしただけなので罪はない。
(何処で何をしているのかしら?)
最後に見たのは、北のマゼンタスにあるコレットの生まれ故郷アルベスティ。魔導書の件で忙しいことになっている可能性もある。実際、プリンシパルの教師陣の顔付きも少し緊張したものになっているから。
どんな事情があるにせよ、授業中に悲しそうな目でノエルの席を眺めるアニアをこれ以上見たくないから、どうか一刻も早く登校して来てほしいとは思う。
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