魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第四章 二つの卵と夢

69 サガン



 王都アグリムの中心街からサガンまでは、電車に乗って三十分ほどで到着する。

 近い距離も相まって、若者たちは遊び場を使い分けていると聞く。ちょっとした買い物や待ち合わせにはアグリムを、普段とは違う経験や人気の演劇の鑑賞にはサガンを、といった風に。アグリムとサガンは土地の広さが違うだけあって、劇場などの施設の大きさも異なるのだ。

 電車の窓の外を通り過ぎる見慣れた景色を眺めながら、コレットは小さく息を吐き出した。


「なんだか緊張して来たわ………」

「大丈夫だよ。コレットが出演するわけでもないし」

「そりゃそうだけど。さっきも言ったようにオリアナ・デ・ロサの息子たちがプリンシパルの生徒に向けて招待状をくれたお陰で、同じ学校の子たちがわんさか来る予定なのよ。休日に学校の生徒と会うかもしれないと思うと、」

「もしかして、前みたいに恋人だと疑われることを心配してるの?」

 赤い目を丸くしてそう問われると、コレットは自分の考えを見透かされて赤面する。しどろもどろに言い訳を垂れ流すコレットを見て、ハインツはクスクス笑った。

「何か言われたら次は僕からも否定するよ。それとも勘違いされたままの方が良い?」

「いっ、いや、そういうわけでは……!」

 実際のところ、以前王都の街中でミナやバロンと遭遇した際に一緒だったハインツのことは、その後何度も生徒たちから話題に上がった。聞かれるのはだいたい「恋人ではないか?」「どういう関係なのか?」といったお馴染みのもので、丁寧に真実を説明することに辟易としていたのは本当。

 しかし、今回は事前にコレットの方から友人と参加することを伝えてある。だからもしも、席が近くなったり場内ですれ違うことがあっても「彼がみんなに話した友人よ」程度の補足で事足りるかもしれない。

 いずれにせよ、心配し過ぎだろうか。
 生徒たちはコレットではなくオリアナを観に来るのだから。

「今回の演劇……どんな内容なのかしら?」

「うーん、分からないね。夫で演出家のガイツ・デ・ロサが考案した完全なるオリジナル作品だって聞いたけど。公演も今日が初日だし」

「彼女の人気を考えると、かなりの話題作になるでしょうね。すっごく混んでそう」



 コレットの考えは的中し、サガンの駅に着いた二人は劇場までの道を調べるまでもなく、目指す方面へと向かう群衆の列を発見した。軍隊のように並んだ人の群れがガヤガヤと会話しながら足を進めている。

 ハインツと顔を見合わせて頷くと、コレットたちもその列に加わった。

 夕刻の開場に合わせて、太陽はゆっくりとその姿を闇へと沈めていく。じわじわと人々を飲み込む夜の匂いに、思わず緊張感を覚えた。

「さっきさぁ、」

「え?」

 ふいに口を開いたハインツに向き直る。

「いや、さっきコレットはオリアナの子供たちが学校の人たちを招待したって言っただろう?だいたいどれぐらいの人数が来るのかなって」

「あー、そうね。休日だから教師たちも結構参加するみたいだったし……正確には分からないけれど大多数は来ると思うわよ」

「へぇ」

「そうそう!校長と副校長は断ってたわ。なんでもサガンまで移動するのが骨が折れるってさ。やっぱり年を取れば仕方ないのね」

「………そうか」

 ハインツは静かに頷く。
 コレットはその時の会話を思い出していた。

 職員室でさり気なく聞いた際、魔獣生態学のルピナス・アーベルは満面の笑みで参加を報告した。彼はこの夏に入院していたと思えないぐらい通常運転。魔法道具学のマクシミリアン・クロイツは恋人を誘いたいと言っていたし、きっと今日同じ場所に居るのだろう。レイチェルは遠慮しておくと断ったらしいが、感想を聞きたいとコレットに伝えてくれた。

(………落ち着かないわ)

 楽しい演劇が始まるのに、そわそわする。
 期待と喜びとは異なる別の緊張感があるようで。


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