魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

文字の大きさ
83 / 105
第四章 二つの卵と夢

75 オーランド・デボワ1

しおりを挟む


 コレットとレオンは劇場の外でピクシー・ベルーガと合流して、双子を引き渡した。

 エドムとジェイクは母親の死、父親の裏切りによるショックを重く受け止めているようで、どんな声を掛けても最後まで顔を上げなかった。立ち直ることが出来るのか、まだ分からない。

 だけれど、今はこれ以上こちらから何かをすべきではないと思う。自分たちで消化する時間も、幼い二人にはきっと必要だから。


「急ごう。学校へ向かう」

 王室の紋章が入った服を着た兵士たちにデ・ロサ伯爵家の夫婦を託して、鎖でぐるぐる巻きにしたスカーレットの遺体を手から離したレオンが、肩を摩りながらそう言う。コレットは慌てて鞄を開いた。

「殿下はお車ですか?私は電車なので少し遅れるかもしれませんが、向こうで合流しましょう」

「君は本当に魔法使いなのか?」

「え?」

 呆れたような物言いにコレットがレオンを見上げると、チケットを購入するために財布を探っていた腕がグイッと引かれる。

「魔力で移動する」

「私の量では保ちません!たぶんサガンと王都の境目あたりで魔力切れになります」

「俺が運ぶ」

「んわっ……!」

 拒否権なし。待ったなし。
 気が付けばコレットは見慣れたプリンシパル王立魔法学校の中庭に立っていた。つまりもう結界を潜って校内に入ったということ。

 習った知識では自分一人の移動でも相当な魔力を消費するはずだから、誰かを道連れにして引っ張っていくなんてもってのほか。それをサラッとやって退けるあたり、レオンがノエルだった頃に言っていた「魔力が大きかったので魔法学校に入学した」という言葉に嘘偽りはないようで。


「あ、そういえば」

 コレットは背中を支えてくれていたレオンを見上げる。意図せず視線が重なり、綺麗に並んだ睫毛の下で灰色の瞳が不思議そうに丸くなる。

「その……えっと、赴任した初日にミドルセン校長に言われたんです。保健室の魔力計測器を壊すような生徒は今は居ないって。あれって殿下のことですよね?」

「どうだかな。ワザとじゃない」

「やっぱり!」

 歩き出すレオンの後を追い掛けながらコレットは改めて目の前を進む男の力の大きさについて考えた。長い間校長を務めるミドルセンならばきっと、かつてプリンシパルに在籍した王子が再び校内に身を潜めていたことに気付いていたのではないか。分かっていてあんな発言をしたのなら、少し意地悪だけど。

 黒の魔導書グリモワールを狙う極地会という存在が何であれ、事態がここまで大きくなってしまった今、一度レオンはプリンシパルの教師陣と同じ場で意見を交わす必要があると思う。

 先ほどのスカーレットの話の中でも、極地会の目的やレオンの時戻りに関する内容が少し登場した。悪魔が王子の身を気遣うようなことを言っていたのも気になる。自然に流れる時間を自己の勝手な都合で巻き戻すのだから、何も犠牲がない方が不思議ではあるが。


「どうやら俺たちの出る幕はないな」

 考え込むコレットの前方で、安堵の声が聞こえた。
 立ち止まったレオンの数メートル先を見る。

「アーベル先生!プッチ副校長!」

 立っていたのは魔獣生態学のルピナス・アーベルと、ミドルセンの右腕である副校長マルティーナ・プッチ。白髪のプッチは眼鏡を手で押し上げ、コレットからレオンに視線を移した。細められていた目がゆっくりと見開かれる。

 コレットの関心は、アーベルとプッチに挟まれるように立つ若い男にあった。人の良い笑顔を浮かべた男は、麻紐で両手両脚を縛り上げられている。

「………なるほど、確かに日常に潜む闇だ」

 吐き捨てるように言うレオンの顔を見て、男は眉を下げてお手上げといった表情を作る。

「うーん……計画外だな。やっぱり僕は最初から嫌だったんだ、こんな役回り。僕だってみんなと一緒に劇を観賞したかったし、一人だけ奇襲みたいなことはしたくなかったよ」

「デボワ伯爵、父の良き友人である貴方とこうした形で顔を合わすことになるとは。説明していただいても?」

「はぁ。どうせ断る権利もない」

 やれやれと諦めたように項垂れる男を一瞥して、レオンはこちらを見た。理解が及ばないコレットに説明するため口を開く。


「この男の名前はオーランド・デボワ。君も聞いたことぐらいはあるだろう?マゼンタスに本拠地を置くデボワ商会の若き経営者だ」

 驚く頭と相反するみたいに、腹の虫がグゥと鳴いた。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...