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第四章 二つの卵と夢
77 オーランド・デボワ3
しおりを挟む「………お前を守る?何故?」
相変わらず氷のような冷たい視線をデボワに向けながら、レオンは心底分からないといった風に肩を竦める。
「だから取引だよ!僕はこう見えてマーリンの遠縁なんだ!僕を傷付けることはつまり、魔法と魔術の始祖であるマーリンへの冒涜だぞ……!」
「それは恐ろしいな。必要な情報さえ吐いたら、甚振らずに楽に死なせてやろう」
「なんでそうなる!」
拳を作って地団駄を踏むデボワとレオン間に、スッとマウロ・ソロニカが割って入る。毬栗の殻を抉じ開けるような小さな器具を持ったソロニカは、王子の前でそれを揺らした。
「レオン、軍隊でやる効果的な拷問はこうだ。先ずは手足の指の爪を剥ぐ。これは意外と小指の方が痛がるんだ。小さい分、手間が掛かるんだが……」
「あー!分かった!!分かったから!お前らが僕の命を守るかどうかは話を聞いた後で良いさ!だから、頼むからそのペンチを僕の方へ向けるなッ!」
「よし、良い子だ。僕だって娘の前で血を見せるような外道な行為はしたくない。オーランド・デボワだったか?とりあえず、この椅子に座れ」
ソロニカはミドルセンたちの輪の中心に木製の椅子をドンと置く。古びた椅子に恐る恐る腰掛けながら、デボワは怯えた表情で周囲を見回した。
「そーんな顔しなくたって、良いじゃない。何も私たちはアンタを取って食ったりしない。だいたいの話は聞いてるけど、今日は魔道書目当てに来たって理解で良いんだよね?」
緑の髪の下でベルーガがニヤッと笑う。
魔法薬学の教師というより魔女のようだ。
「きょ、極地会はあれを必要としているんだ!僕らの計画には黒の魔導書が必須!マスターは僕を信用しているからこそ、この重要な任務を任せてくれたんだよ……!」
「マスター?」
レオンの問い掛けにデボワは頷く。
「極地会は四人の幹部で構成される。だけど、僕らの上には更にマスターと呼ばれる出資者が居て、極地会はそもそもが彼の管理のもとで成り立っている」
「幹部の名前と顔、マスターについても同じ情報を寄越せ。そもそも極地会という名前はどんな意味を持つ?」
「幹部の名前は言えない……!入会の際に守秘義務の契約書にサインさせられるんだ。ただの書類じゃない、秘密を破れば舌を焼かれる!マスターについても会ったことはないから知らないよ!」
レオンが無言で右手を掲げると、狼狽えるデボワの額に丸い光が照射される。チリッと音を立てたのを聞いて、男は短い悲鳴を上げた。
「なっ、何をする気だ!?」
「嘘を吐いている可能性がある。お前の口が使い物にならないなら自白させるまでだ」
「レオン」
ミドルセンの声が飛び出して、王子は手を止めた。
「隷属は魔術。この校内でお前が魔術を使うことは許さんよ。それとも、今すぐグレゴリオの元へ飛ばしてほしいのかね?」
「………分かりました」
上げていた手を下ろしたが、相変わらずその鋭い双眼はオーランド・デボワを見据えている。
生きた心地がしないとはまさにこのことだろう。コレットは震える男に同情しながら、この先の展開に考えを巡らせる。もしも、本当に男が有益な情報を持っているなら、こちらにとっては有難い限り。
思い出さないようにしていたオリアナの死に際が脳裏に浮かぶ。控室に迷い込んだコレットを抱き締めた細い腕、柔らかな花の香り。
「すみません……質問しても良いですか?」
溢した声が一斉に視線を集めるのを感じた。
「今日サガンの劇場に居たスカーレットという女は悪魔でした。エドムくんとジェイクくんの母であるオリアナ・デ・ロサと契約していたと…… マゼンタスの森で出会ったリンレイ先生だってそうですが、極地会と悪魔はどういった関係にあるのですか?」
「あぁ、そうか……マスターの用意した駒は悪魔と契約した人間のことだったのか」
デボワは納得したようにそう言う。
しかし、すぐに我に帰ったように顔を上げた。
「すまないが、僕は極地会に何人の悪魔が属するのか知らない。リンレイのことは知っているよ、彼は極地会の幹部に着いているゲストだ。悪魔たちがどうやって呼び寄せられたかは分からないが、僕らはともに同じ目的を胸に行動している」
「目的とは何じゃ?」
それまで黙っていたミドルセンが険しい顔で尋ねると、デボワは少しだけ迷った末に窓の外を見た。遥か遠いところで黒い塊が数羽舞っている。
「そうだな、目的ぐらいは言っても良いだろう…… 極地会が目指すのは黒の魔道書による魔術の解放。そして、悪魔と人間、双方にとっての自由な世界の到来」
「………自由な世界、ねぇ」
ベルーガの発言にデボワは深く頷いた。
「それこそが、僕たちの目指す極致。至上にして至高の世界だ」
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