86 / 105
第四章 二つの卵と夢
78 オーランド・デボワ4
そうか、と返事を返しただけでワイズ・ミドルセンは何もそれ以上の意見は述べなかった。教師陣は各々考えがあるようだが、誰も何も語ろうとはせず、静かな時間がしばらく流れた。
輪の中心に居るデボワ伯爵だけが居心地が悪そうに身を捩って周囲の反応を窺っている。やがて、痺れを切らしたのか、男は口を開いた。
「どうだった?有益な情報だろう……!」
見上げた先でレオンがわずかに首を捻る。
「リンレイと戦った際、アイツはメンバーの管轄について話していた。極地会の幹部は四人居るということだが、どういう風に割り振られている?」
「名前の通りだよ。王都とサガンを囲むように分かれた四つの土地、マゼンタス、キュアノス、ヘール、メラニス。それぞれの土地に一人ずつだ」
「キュアノスの代表は誰だ?」
「言えない……!本当なんだ、言ったら消されてしまう!!ちなみに僕はマゼンタスの代表だったが、僕が捕まった今となっては今後どうなるのか全く想像も付かないよ」
「守るに値するとは到底思えない情報の質だな」
「そんな……っ!」
床に手を突いた男の顔に、淡い桃色の髪がはらりと掛かる。コレットはその姿を見ながら、赤い森の中で出会った女のことを思い出した。彼女は確か自分がマゼンタスの管轄だと言っていたはず。
「デボワさん」
男は涙が滲んだ双眼をコレットに向ける。
「マゼンタスの代表は女性ではないのですか?以前リンレイ先生を迎えに来たのは女性でした」
「あぁ、それは僕の妻だな」
「妻?」
「僕らは夫婦で極地会に参加していたんだよ。ま、何れにせよ僕が抜けたら彼女も立場を追われるだろうから、上手く身を隠すことだろう」
「やぁね、奥さんが心配じゃないの?」
クロイツの質問に男は首を横に振る。
「心配なんかしないさ。ハニーは僕よりも強いし、極地会も彼女に危害は加えないはずだ。立場のある者を消すのは色々と都合が悪いからね」
それよりも、とオーランド・デボワは焦ったそうにレオンにチラチラと視線を送る。この場において物事の決定権を持つのは校長であるミドルセンで間違い無いが、どうやら男は権力のある王太子の機嫌を伺っているようだった。
「どうなんだい?守ってくれるのか?」
拝むように手を合わせる伯爵を一瞥して、レオンはミドルセンの方を向く。
「先生、彼の身柄は僕の方で預かっても?」
「構わんが…… そもそもマルティーナは君がプリンシパルに関わることに否定的じゃ。くれぐれも慎重に行動してほしい」
「でしょうね、僕はプッチ先生の期待を裏切りましたから」
「立場を弁えろとは言わんが、この国の未来を担う君を正しい道に導きたかった彼女の気持ちも汲んでくれ」
それまで黙って話を聞いていたレオンの顔がわずかに曇ったのをコレットは見た。灰色の双眼は床を睨みつけたまま動かない。
「正しい道、ですか」
「あぁ」
「理想と綺麗事だけで命が救えるなら良い。でも、それで人が死んだらどんな言い訳をするんでしょうね。仕方がないでは済みません」
「レオン、あれは事故だった」
「違います」
王子は苛立った様子で短く否定して、成り行きを見守るオーランド・デボワの首根っこを掴む。そのままパシッと背中を叩くと、伯爵の身体はみるみるうちに小さくなって透明な水晶玉の中に閉じ込められた。
コレットがリンレイに捕まったときのようなその透明な檻の中で、デボワは懸命に何かを訴え掛けている。しかし、虫の羽音ほどもない声は誰の耳にも届かなかった。
「イリアスが死んだのは僕が弱かったからです。正確には、僕の魔法が相手の魔術に及ばなかった。ミドルセン先生、貴方が魔術を無効化出来るのは、今まで貴方より強い魔力の者と対峙したことが無いからに過ぎません」
「こら、レオン……!」
慌てたように歩み寄るソロニカの手を振り払って、レオンは部屋の入り口へと向かう。コレットは少し悩んだ末にその後を追い掛けた。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
亡き姉の身代わりとして嫁いだ私ですが、離縁状を置いた翌朝、夫が私の「真実」に気づいたようです』
まさき
恋愛
「サインはもう、いただきました。あとは私がこの屋敷を出るだけです」
五年間の結婚生活。侯爵令嬢エルゼが演じ続けたのは、亡き姉・ロザリーの「身代わり」という配役だった。
夫であるカイル公爵が愛していたのは、かつて雪の中で自分を救ってくれた初恋の少女・ロザリー。
生き写しの妹であるエルゼを娶りながらも、彼は一度も彼女を「エルゼ」と呼ぶことはなかった。
冷淡な視線、姉と比較される日々。
「君はどこまでいっても、ロザリーの代わりにはなれない」
その言葉を最後に、エルゼは静かに離縁状を置き、屋敷を去る決意をする。
しかし、彼女が消えた翌朝。
カイルは、エルゼが大切に遺していった古い小箱を見つける。
そこにあったのは、十五年前のあの日、彼が「命の恩人」に預けたはずの片方のカフスボタン。
そして、幼いエルゼが綴った、あまりにも切ない真実の日記だった。
――「あの日、雪の中で貴方を抱きしめていたのは、お姉様ではなく、私だったのです」
真実を知り、絶望の中でエルゼを追うカイル。
だが、すべてを捨てて「自分」を取り戻したエルゼは、もう二度と、彼の隣で微笑む仮面の妻には戻らない。
これは、名前を奪われた女が自由を掴み、愚かな夫が真実の愛を失うまでの、静かで鮮やかな再生の物語。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。