魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第四章 二つの卵と夢

79 オーランド・デボワ5




「ちょっと……!」

 脚の長さの問題なのか、歩く速度の問題なのか、コレットがレオンに追い付くまでに七分ほどの時間を要した。校舎を出ると空はもう茜色に染まっており、その向こうにひっそりと待ち構える夜の空気がすでに辺りを満たしている。あんなに暑かったのが嘘のように、九月の風は涼しい。

 レオンは立ち止まってコレットの方を振り返った。手に持った水晶玉の中では相変わらずデボワ伯爵が慌てふためいている。

「なんだ?」

「いやいや、あんな言い方しなくても良いじゃないですか!どうしてノエルくん……というか殿下って周りに敵を作るような話し方をするんですか!?」

「べつにそんなつもりはない」

「つもりはなくても結果としてそうなっているんです!極地会の件はみんなで協力して計画を練る必要があります。殿下一人のお力では、」

「その呼び方をやめろ」

「………っ!」

 刺すような鋭い眼差しに、思わず閉口する。

 王族相手についつい説教がましい言い方をしてしまったことは反省するけれど、実際のところ彼の物言いはいつだって友好的ではない。

「だって……殿下は殿下です」

 消え入るような声でそう伝えると、レオンはクシャクシャと獅子のような黄金色の毛を掻き上げながら口を開いた。

「好きでなったわけじゃない。俺はレオン・カールトンで、確かに父はこの国の王だが、それがなんだって言うんだ?王族であるというだけで神のように拝む連中が居るが、俺はただ食べて寝るだけの凡人だ」

「凡人ではないと思いますけど……」

「とにかく、嫌なんだ。誰かと話す際に自分の身分が原因で見えない壁が生まれている気がする。アルバートですら未だに──」

「あの、」

 自分の意見を話し続けるレオンに向かって、コレットはオズオズと顔を上げた。遮られたことに若干不満そうな様子で王子は片眉を上げる。


「今度はなんだ?」

「ちょっと、高慢なんじゃないですか?」

「はぁ……?」

「だから、みんなが殿下に話しかけづらいのは身分だけが原因じゃなくって、貴方の雰囲気とか話し方がそうさせているのでは……ないかな、と」

「……………」

「………すみません」

 沈黙が長くなるにつれ、冷や汗が背中をダラダラと流れる。素直な気持ちを伝えただけなのに、どうしてこうも余計なことを言った感があるのだろう。

「あのですね……えっと、もう少しフレンドリーにと言いますか…… 互いに会話を楽しむためには、やはり相手の話にも耳を傾けて、一度は意見を受け入れてみるのも大事だったり………」

 話せば話すほど深みにハマっていくような。

 コレットが伝えられるのはあくまでも対生徒を想定とした一般的な説法。生徒間で揉め事が起きた際にどうすれば良いのか、といった問いへのアンサーなので、良い大人であるレオンにこんな話をするのはちょっと違うかもしれない。
 反省しても、もう遅いのだけども。

「なるほどな」

 その短い変事が、レオンの声だと最初は気付かなかった。

 長く伸びた影を引き摺って、長身の王子がコレットの前に立つ。一瞬、コレットは自分がデボワ伯爵よろしく水晶玉に閉じ込められてしまうのではないかという恐怖に襲われた。


「で、出過ぎた真似でした!王太子殿下に説教を説くなんて、コレット・クライン一生の不覚……!」

 わたわたと顔の前で両手を合わせるコレットの腕がレオンによって掴まれる。びっくりして三秒ほど息が止まった。

 夕日を反射する灰色の瞳が見える。
 その中で驚いた顔をする自分も。

「やっぱり先生は面白い」

「のえ、でで、でん、えぇっ……!?」

「生きていてくれて良かった。あの時、君を助けることが出来て良かった。分かったよ、コレットの言うことは聞くようにする」

 そう言って見せたレオンの笑顔があまりにも眩しくて、動き出した心臓は再び数秒の停止を強いられた。西陽と重なったせいだと思いたい。

 何なのか。いったい全体何なのか。

 頭の奥深くで小さな小さな声がする。それは女性の声で、警告するようにコレットの頭を内側から突っつく。だけどもその時のコレットには、親切な注意を聞く余裕は微塵も無かった。

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