魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第五章 祈りと迷い

81 心残りの消化

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「ええ、そうね。確かにサマーキャンプは散々だったわ。アーベル先生は襲われて大変なことになるし、みんなは眠っちゃうし……結局一週間滞在するはずだった宿をキャンセルして学校に戻って来たのよね」

「そうそう。キャンプファイアーもせずにね」

 隣で相槌を入れたミナを見てコレットは微笑む。
 手に持った鍋を高々と掲げて見せた。

「ということで!今日は夏の心残りを消化するために有志によるカレーパーティーを開催したいと思います。はい、拍手!!」

「わぁ……」

「待って、そこはもうちょっと盛り上がるところでしょう。アストロくん、にんじんを小さく切り過ぎよ。ハムスターの餌じゃないんだから」

「んなこと言うなら先生が切れよ!」

 口先を尖らせて大文句を言うアストロの隣ではバロンが正確にルーの量を計っている。

 小さな家庭科室の中には、サマーキャンプに参加した学生のうち、予定が合った者たちが集まっていた。三年生の男子生徒二人は不在だったが、久しぶりに見かけるナナやロビン、アーベルの小さい版であるゴンザレスなども揃っている。

 一生懸命にジャガイモの皮剥きに挑戦するアニアの側まで行って、コレットは声を掛けた。


「アニア、ありがとうね」

「え?」

「今日のためにお家でルーを作って来てくれていたんでしょう?秘伝のレシピ、料理長から聞き出してくれたのよね。すっごく良い匂い!」

 何種類ものスパイスは流石に学校で用意出来ないということで、計画を話した際にアニアの方から「家で準備して来る」と提案を受けたのだ。

「あっ、ぜんぜん、私はただジェフ料理長の言う通りに計量して混ぜていっただけで……」

「でも本当に助かったの。サマーキャンプでみんなと楽しい思い出が作れなかったことが残念だったから、こうして後からでも一緒に何か出来るのは本当に嬉しいわ」

「………なら、良かったです」

 もじもじっと指先を動かして、アニアは黙る。
 隣のテーブルではナナとモモのテイラー姉妹が協力して大きな肉の塊をさばいている。巨漢のゴンザレスは包丁が苦手なようで、今日は洗い物係に徹しているようだった。

 スッと視線を動かした先に、見慣れた癖のある金髪を見つける。レオン扮するノエルは意外にもこんなイベントにも参加してくれた。「お忙しいなら無理にとは言いませんけど」と耳打ちしたところ、あっさりと快諾したので驚いた。


「なんだか……不思議な感じです」

「ん?」

 アニアの声にコレットはそちらを向く。
 わいわいと騒ぐ生徒たちを眺めながら、ヘーゼルの瞳はわずかに潤んでいるようにも見えた。

「入学した時、こんな風にいっぱいの人と一緒に何かをするなんて考えもしませんでした。一人ぼっちにならないことだけ心配してて……」

 コレットが何か言葉を返す前に、ドンッと背中を大きな手で叩かれる。振り返ればそこにはプリンシパルの元気印、ルピナス・アーベルが立っていた。

「タダ飯にあり付けると聞いて飛んで来ましたよ!生徒たちが汗水流して作り上げたカレーをいただこうじゃありませんか!!」

「………まだ準備段階です」

 返事が届いたのかは不明だが、アーベルはナナたちのテーブルに突入して、その剛腕を肉塊相手に使うことを決意したようだった。


「アニア、さっきの話だけどね」

 コレットはふっと笑って椅子に座り直す。

「私だって同じよ。こうやってみんなと協力して料理をするなんて想像もしなかったわ。そんなこと、出来るとも思わなかった」

 思い返すのは、一度目の人生。
 今なら分かるけれど、やる気だけが先走って、生徒たちとの間に温度差が生まれていた。ポンコツなんて笑われて、ムキになって頑張っても空回ってばかりで。

 理想を思い描くのは悪いことではない。
 だけど、理想ばかり追い掛けて、自分の周りの小さな変化を見逃していてはいけないのだと思う。誰かが助けを求めている時、成長を遂げた時、どうにも寂しくて耐えられない時。そうした些細な変化を見逃さずに、自然な形で寄り添えるのが、きっと在るべき教師の姿なのだ。

「今日のカレーパーティーは、アニアのおかげで実現したの。料理長さんにもお礼を言っておいてね!」

「………はい!」

 柔らかく笑う顔を見て、コレットは胸の内が温かくなる。まだカレーは食べていないけれど、なんだかもう十分にお腹がいっぱいになったような気がした。


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