魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

文字の大きさ
90 / 105
第五章 祈りと迷い

81 心残りの消化



「ええ、そうね。確かにサマーキャンプは散々だったわ。アーベル先生は襲われて大変なことになるし、みんなは眠っちゃうし……結局一週間滞在するはずだった宿をキャンセルして学校に戻って来たのよね」

「そうそう。キャンプファイアーもせずにね」

 隣で相槌を入れたミナを見てコレットは微笑む。
 手に持った鍋を高々と掲げて見せた。

「ということで!今日は夏の心残りを消化するために有志によるカレーパーティーを開催したいと思います。はい、拍手!!」

「わぁ……」

「待って、そこはもうちょっと盛り上がるところでしょう。アストロくん、にんじんを小さく切り過ぎよ。ハムスターの餌じゃないんだから」

「んなこと言うなら先生が切れよ!」

 口先を尖らせて大文句を言うアストロの隣ではバロンが正確にルーの量を計っている。

 小さな家庭科室の中には、サマーキャンプに参加した学生のうち、予定が合った者たちが集まっていた。三年生の男子生徒二人は不在だったが、久しぶりに見かけるナナやロビン、アーベルの小さい版であるゴンザレスなども揃っている。

 一生懸命にジャガイモの皮剥きに挑戦するアニアの側まで行って、コレットは声を掛けた。


「アニア、ありがとうね」

「え?」

「今日のためにお家でルーを作って来てくれていたんでしょう?秘伝のレシピ、料理長から聞き出してくれたのよね。すっごく良い匂い!」

 何種類ものスパイスは流石に学校で用意出来ないということで、計画を話した際にアニアの方から「家で準備して来る」と提案を受けたのだ。

「あっ、ぜんぜん、私はただジェフ料理長の言う通りに計量して混ぜていっただけで……」

「でも本当に助かったの。サマーキャンプでみんなと楽しい思い出が作れなかったことが残念だったから、こうして後からでも一緒に何か出来るのは本当に嬉しいわ」

「………なら、良かったです」

 もじもじっと指先を動かして、アニアは黙る。
 隣のテーブルではナナとモモのテイラー姉妹が協力して大きな肉の塊をさばいている。巨漢のゴンザレスは包丁が苦手なようで、今日は洗い物係に徹しているようだった。

 スッと視線を動かした先に、見慣れた癖のある金髪を見つける。レオン扮するノエルは意外にもこんなイベントにも参加してくれた。「お忙しいなら無理にとは言いませんけど」と耳打ちしたところ、あっさりと快諾したので驚いた。


「なんだか……不思議な感じです」

「ん?」

 アニアの声にコレットはそちらを向く。
 わいわいと騒ぐ生徒たちを眺めながら、ヘーゼルの瞳はわずかに潤んでいるようにも見えた。

「入学した時、こんな風にいっぱいの人と一緒に何かをするなんて考えもしませんでした。一人ぼっちにならないことだけ心配してて……」

 コレットが何か言葉を返す前に、ドンッと背中を大きな手で叩かれる。振り返ればそこにはプリンシパルの元気印、ルピナス・アーベルが立っていた。

「タダ飯にあり付けると聞いて飛んで来ましたよ!生徒たちが汗水流して作り上げたカレーをいただこうじゃありませんか!!」

「………まだ準備段階です」

 返事が届いたのかは不明だが、アーベルはナナたちのテーブルに突入して、その剛腕を肉塊相手に使うことを決意したようだった。


「アニア、さっきの話だけどね」

 コレットはふっと笑って椅子に座り直す。

「私だって同じよ。こうやってみんなと協力して料理をするなんて想像もしなかったわ。そんなこと、出来るとも思わなかった」

 思い返すのは、一度目の人生。
 今なら分かるけれど、やる気だけが先走って、生徒たちとの間に温度差が生まれていた。ポンコツなんて笑われて、ムキになって頑張っても空回ってばかりで。

 理想を思い描くのは悪いことではない。
 だけど、理想ばかり追い掛けて、自分の周りの小さな変化を見逃していてはいけないのだと思う。誰かが助けを求めている時、成長を遂げた時、どうにも寂しくて耐えられない時。そうした些細な変化を見逃さずに、自然な形で寄り添えるのが、きっと在るべき教師の姿なのだ。

「今日のカレーパーティーは、アニアのおかげで実現したの。料理長さんにもお礼を言っておいてね!」

「………はい!」

 柔らかく笑う顔を見て、コレットは胸の内が温かくなる。まだカレーは食べていないけれど、なんだかもう十分にお腹がいっぱいになったような気がした。


感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。