魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

文字の大きさ
91 / 105
第五章 祈りと迷い

82 招待状

しおりを挟む



「招待状……ですか?」

 コレットの質問に、ソロニカは浅く頷いた。
 その隣でジルは滑車を回すオーランドを見ている。

 校内にあるマウロ・ソロニカの部屋では、部屋の主であるソロニカと娘のジルの他にコレット、そして操齢魔法を解いたレオンが集まっていた。

 というのも、コレットはハインツから拝借したアグリムの街の風景写真を何枚かジルに見せようと思って持って来たのだ。その道中でぼんやりと歩いていたレオンを誘って道連れにしたため、王子はややうんざりとした顔をしている。

 差し出された黒い封筒を受け取って、コレットは中の紙を取り出した。「応用魔法学研究者の皆様へ」という書き出しで始まる文章は、どうやらソロニカの専門分野における研究発表に関するもののようだ。


「出席されるんですか?」

 ずらりと並んだ学者の名前と論文のリストをチラッと見ながらコレットは尋ねる。リストには、応用魔法学に明るくないコレットでも聞いたことがある有名な学者の名前も掲載されている。

「いや、例年通りなら欠席の予定だった」

「………?」

「僕の論分が載っている」

「へ?」

「僕が書いた、まだ学術誌に送っていない論文が別の者の名前と共に並んでいる」

「それって……!」

 驚くコレットの隣でレオンが顔を上げる。
 つまり、と静かな声が鼓膜を揺らした。

「盗作されたってことか」

「残念ながらね」

 特段に落胆も表さずにそう言うから、コレットは慌てて椅子から立ち上がった。

「大事件じゃないですか!主催者に問い合わせてその泥棒の参加を取り止めるように言わないと!」

「残念ながらそれは無理だ」

「なんで!!」

「論文を真似た真似てないの論争はよくあることなんだよ。特に応用魔法学のような旬の分野ではそういった問い合わせも多いらしくてね。去年度から事務局は全面的に窓口を閉じている」

「………!」

「これはただの研究発表会じゃない。現在の法で禁止されている魂の復元に触れた研究だって発表される、優勝者には副賞として支援金が付くからね」

 莫大な研究資金を補える良いチャンスだ、と言い添えるとソロニカは暫く口を閉ざした。コレットは他人事ながら気が気ではない。だって、ソロニカが寝る間も惜しんで(たぶん)書き上げた論文が、何物かの手によって資金目的のために盗まれたのだ。

 いったいどうすれば良いのか?
 無い知恵を捻り出そうとウンウン唸っていたら、回答はあっさりと頭上から降って来た。


「参加するよ。どうやって元ネタを抜いたのかは分からないけれど、発表者が僕よりその研究に詳しいはずがない。学会の審査員の前で恥を掻かせてやる」

「おおっ!さすがソロニカ先生!」

「ソロニカ大尉」

 激励するコレットを一瞥してレオンが口を開く。

「開催地は極地ヘールの神殿と書かれているが、少し遠くないか?毎年こんな場所で開催を?」

「まぁね。なにせグレーな研究が多いから、摘発を避けるためか王都では開催されない。ヘールのアルデノス神殿といえば、セレスティアの初代国王に仕えていた魔法使いラグーを祀っている場所だろう?彼は魔力のなかった国王に実装した武具を持たせることでその身を守ったという説もあるし……実用魔法学の始まりとも言えるんじゃないかな」

 移動は面倒だがね、と言ってソロニカはぐんっと腕を伸ばす。隣で写真を眺めていたジルは心配そうに父の背中を見上げた。

 ソロニカの話では、彼が部屋の中で自由を許しているジルは亡くなった娘の生前の行動や発言を元に作られた高性能なロボット。しかし、彼の本当の目的はきっと禁忌とされている魂の復元なのだろうと分かる。


「クラインくん」

「?」

 突然呼ばれた自分の名前にコレットは顔を上げた。

「悪いがジルを頼んで良いか?三日ほど僕の研究室で寝泊まりしてほしい。謝礼はするし、一応生活するために必要なものは揃っているはずだ」

「あ、はい!もちろんです。謝礼なんて要らないですし、何処ででも眠れるのでお任せください!」

「ありがとう。助かるよ」

 安心したように口元を緩めるソロニカに、コレットは強く頷き返した。いつも世話になってばかりなので、留守番ぐらいはきちんと成し遂げたい。

 滑車の上で走り疲れて眠っていたハムスター姿のオーランドが大きめのくしゃみをしたのを合図に、コレットとレオンはソロニカの部屋を後にした。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...