魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第五章 祈りと迷い

82 招待状




「招待状……ですか?」

 コレットの質問に、ソロニカは浅く頷いた。
 その隣でジルは滑車を回すオーランドを見ている。

 校内にあるマウロ・ソロニカの部屋では、部屋の主であるソロニカと娘のジルの他にコレット、そして操齢魔法を解いたレオンが集まっていた。

 というのも、コレットはハインツから拝借したアグリムの街の風景写真を何枚かジルに見せようと思って持って来たのだ。その道中でぼんやりと歩いていたレオンを誘って道連れにしたため、王子はややうんざりとした顔をしている。

 差し出された黒い封筒を受け取って、コレットは中の紙を取り出した。「応用魔法学研究者の皆様へ」という書き出しで始まる文章は、どうやらソロニカの専門分野における研究発表に関するもののようだ。


「出席されるんですか?」

 ずらりと並んだ学者の名前と論文のリストをチラッと見ながらコレットは尋ねる。リストには、応用魔法学に明るくないコレットでも聞いたことがある有名な学者の名前も掲載されている。

「いや、例年通りなら欠席の予定だった」

「………?」

「僕の論分が載っている」

「へ?」

「僕が書いた、まだ学術誌に送っていない論文が別の者の名前と共に並んでいる」

「それって……!」

 驚くコレットの隣でレオンが顔を上げる。
 つまり、と静かな声が鼓膜を揺らした。

「盗作されたってことか」

「残念ながらね」

 特段に落胆も表さずにそう言うから、コレットは慌てて椅子から立ち上がった。

「大事件じゃないですか!主催者に問い合わせてその泥棒の参加を取り止めるように言わないと!」

「残念ながらそれは無理だ」

「なんで!!」

「論文を真似た真似てないの論争はよくあることなんだよ。特に応用魔法学のような旬の分野ではそういった問い合わせも多いらしくてね。去年度から事務局は全面的に窓口を閉じている」

「………!」

「これはただの研究発表会じゃない。現在の法で禁止されている魂の復元に触れた研究だって発表される、優勝者には副賞として支援金が付くからね」

 莫大な研究資金を補える良いチャンスだ、と言い添えるとソロニカは暫く口を閉ざした。コレットは他人事ながら気が気ではない。だって、ソロニカが寝る間も惜しんで(たぶん)書き上げた論文が、何物かの手によって資金目的のために盗まれたのだ。

 いったいどうすれば良いのか?
 無い知恵を捻り出そうとウンウン唸っていたら、回答はあっさりと頭上から降って来た。


「参加するよ。どうやって元ネタを抜いたのかは分からないけれど、発表者が僕よりその研究に詳しいはずがない。学会の審査員の前で恥を掻かせてやる」

「おおっ!さすがソロニカ先生!」

「ソロニカ大尉」

 激励するコレットを一瞥してレオンが口を開く。

「開催地は極地ヘールの神殿と書かれているが、少し遠くないか?毎年こんな場所で開催を?」

「まぁね。なにせグレーな研究が多いから、摘発を避けるためか王都では開催されない。ヘールのアルデノス神殿といえば、セレスティアの初代国王に仕えていた魔法使いラグーを祀っている場所だろう?彼は魔力のなかった国王に実装した武具を持たせることでその身を守ったという説もあるし……実用魔法学の始まりとも言えるんじゃないかな」

 移動は面倒だがね、と言ってソロニカはぐんっと腕を伸ばす。隣で写真を眺めていたジルは心配そうに父の背中を見上げた。

 ソロニカの話では、彼が部屋の中で自由を許しているジルは亡くなった娘の生前の行動や発言を元に作られた高性能なロボット。しかし、彼の本当の目的はきっと禁忌とされている魂の復元なのだろうと分かる。


「クラインくん」

「?」

 突然呼ばれた自分の名前にコレットは顔を上げた。

「悪いがジルを頼んで良いか?三日ほど僕の研究室で寝泊まりしてほしい。謝礼はするし、一応生活するために必要なものは揃っているはずだ」

「あ、はい!もちろんです。謝礼なんて要らないですし、何処ででも眠れるのでお任せください!」

「ありがとう。助かるよ」

 安心したように口元を緩めるソロニカに、コレットは強く頷き返した。いつも世話になってばかりなので、留守番ぐらいはきちんと成し遂げたい。

 滑車の上で走り疲れて眠っていたハムスター姿のオーランドが大きめのくしゃみをしたのを合図に、コレットとレオンはソロニカの部屋を後にした。

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