魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第五章 祈りと迷い

87 ヘール2




「極地会……か?」

 レオンが隣でふらっと立ち上がる。

 辿り着いた先はソロニカの言っていたアルデノス神殿のようで、月明かりを受けて青白く光る神殿の柱は暗闇故か不気味に見えた。

 ソロニカは応用魔法学の研究発表がこの場所で開かれると言っていたけれど、レオンの言う通りそれはどうやら罠であったようだ。シンと静まり返ったこの場所に、誰かが居たような形跡はない。ソロニカ曰く夜通し開かれるという白熱した議論も、今のところは聞こえないから。


「レオン・カールトン……!グレゴリオの息子よ!お前の息の根をこの手で止められるとは……武者震いが止まらんよ!」

「お前が勝つ前提か」

 レオンは呆れたようにそう言って右手を神殿の柱につける。

自由変形メタリベルナス、剣」

 ズズズッと柱から取り出されたのは、騎士が身に付けるような長剣。重さを確かめるように何度か振ると、王子は年老いた男に向かって構えた。

 コレットは睨み合う両者を見守りながら、ソロニカのことを考える。応用魔法学の研究発表がどうやら嘘であったことが分かった今、彼の安否が心配だ。レオンが対峙する男はおそらく極地会の関係者。ジルを動かす魔力が切れたということは、つまり。

 両手で抱えたカゴの中で小さく「チュー」と鳴き声がした。目を向ければネズミとなったオーランドがカリカリと内側からカゴを掻いている。気が散ったのか、舌打ちした老人がこちらを睨んだのでコレットは慌ててカゴを持って後退した。


「ふん、ドブネズミ風情が。こんな場所に連れて来るもんではなかろう。臭くてやれんわい」

「ギャラリーは多い方が良いだろう?」

 皮肉ったように笑ったレオン目掛けて男は剣を振り上げる。どう見てもかなりの年齢に見えるのに、その動きは目を見張るほど速い。

 キンッと金属同士が触れ合う高い音が鳴り、コレットは心臓がひやりとした。

「あぁ、やはり……アルデノス神殿に招いて良かった。この場所はお前の死に場所に相応しい」

「………どういう意味だ?」

 レオンの質問に男はうっとりとした顔で天を仰いだ。

「アルデノス神殿は魔法使いラグーを祀る神聖な空間。ラグーが魔力のない王に自身の魔力を込めた弓を授けたという話はあまりに有名じゃ。だが、初代国王の死に際については聞いたことがあるか?」

「内乱を鎮圧する最中で亡くなったんだろ?」

「いいや、違う。王は自らが放った矢に撃ち抜かれた」

「なに?」

「戦に参加した兵士の手記にも残されておる……“王の矢はくるりと旋回してその胸に突き刺さった、まるで魔法のように”」

 何がおかしいのか、老人はそこで暫く笑い続けた。不気味なほど静かな神殿の中で、しゃがれた笑い声だけが大きく響く。

「ラグーは初めから王を撃つ気だったんじゃ。当時はまだ魔法の基礎も確立していない時代……矢が戻って来るなど誰も思わん。魔力のない者は誰も、な」

「…………」

「その証拠にラグーは師であるマーリンとの会話を最後に謎の死を遂げておる。偉大な大魔法使いを騙すことは出来んかったようじゃな」

 満足そうに頷く老人を前に、レオンは肩を回しながらうんざりとした表情を作った。

「俺の父にも言えることだが…… 年寄りってのはどうしてこうも自分勝手に喋り散らかすんだろうな。長い上に面白くもない」

「………っ、生臭坊主が!!」

 刀を再度高く振り上げた男は、その切先を大理石の床目掛けて突き立てた。コレットの目の前で、硬い石の床に小さなヒビが入る。亀裂はどんどんと大きくなっていき、やがて、ドッという音と共に水が溢れ出た。

 噴水なんて量ではない。

 あっという間に大量の水が辺り一面を飲み込む。レオンの方へ首を向ける間も無く、コレットは水の流れに飲まれてしまった。

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