魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第五章 祈りと迷い

89 ヘール4



 頭が痛い。
 ぐるぐると思考がまとまらない。

 浮かび上がるのはぼんやりとした景色。

 珍しくよく晴れた日だったから、遠出をしようと張り切ってバスに乗って中心街へ向かった。アパートメントからバスに揺られる時間、短くもなく長くもないその時間がコレットは好きで。


 そうだった。

 あの日、コレットは買い物に行く途中で、噴水の前で項垂れる男を見つけた。旅人なのか、残暑を感じる気温なのに頭からすっぽりとフードを被ったその人が気になって、通り過ぎたところを戻ったのだ。

 何か困ったことがあるのか?
 助けを呼ぶべきか?

 そんな声を掛けながら、下を向いたままの男の気持ちを明るくするために、取り留めのない話を続けた。自分の仕事の話から、生まれ育った故郷マゼンタスの話まで。

 それで、それで。

 ふと視線をやった先で、信号を無視した車が勢いよく歩道目指して突っ込んで来たのが見えたのだ。タイミング悪く、白い歩道の上には幼い子供が居た。

 話していた会話の内容も憶えていなければ、助けようとした子供が男の子だったのか、女の子だったのかも記憶にない。

 確かなのは、見上げた空の青さ。
 痛みに喘ぐ傍らで血溜まりに映った白い雲。

 水で溶いたように、まるで絵の具みたいに、赤い湖に青い空が混ざっていく。何処かで聞こえる救急車の音を拾いながら、やけに物騒な夢だと。




「…………っふぁ!?」

 大きな声を出して上体を起こすと、隣で何かがビクッと動いた。目を動かせばレオンが座っている。

「ね、眠ってました……!?」

「五分程度」

「起こしてくださいよ!」

 ソロニカが一刻を争うかもしれないのに、惰眠を貪るなど危機感の欠如にも程がある。そもそも、どうして気絶していたのかと記憶を辿ったところで、とんでもないことを思い出した。

(この人、私にキスを………!)

 おかげさまで幻術は解けたわけだけど、荒療治にも程がある。再度言葉にして確認するのも気が引けるので、ケロッとした顔で立ち上がるレオンを一瞥して、コレットは周囲を見渡した。

 どういうわけか、神殿の特徴である白い支柱たちは消え失せて綺麗に整えられた木々の壁が続いている。迷路みたいだ、と思った。


「魔術師が場面を変更したんだ。どうやらこの空間をヤツは好き勝手に弄ることが出来るらしい」

「これも幻想なのですか?」

 顔を近付ければ、ツヤツヤとした木々の葉は確かに本物に見える。毒が仕込まれてる可能性もある、との忠告にコレットは慌てて身を引いた。

 床に置きっぱなしになっていたカゴの中では、忙しなくデボワ伯爵が滑車を回している。よく太ったネズミもまた、何かの危険を察知しているようだ。

「あの男を探し出してソロニカの場所を聞く必要がある。これが本当に迷路なのかは分からないが、進むしかないだろう」

「二手に分かれますか?見たところ直進でも無さそうですし……」

 言いながら見つめた突き当たりでは、さっそく道が左右に分かれている。コレット同様に前方を見つめて、レオンは首を横に振った。

「いや、一緒に行こう。君を置いて行けない」

「すみませんね……お荷物で」

 ブゥと口を尖らせながら自嘲気味に言うと、王子は目を丸くしてこちらに顔を向けた。

「荷物だとは思っていない。君を連れて来たのは俺の判断だし、一緒に行動する以上は守る義務があるからだ」

「義務………」

 保護者的な立ち位置ということだろうか?

 確かにただレオンの言うことに従い、守られるコレットは彼にとって子供同然だろう。魔法学校の先生が手も足も出ずにオロオロと王子に付きまとうとは、なんとも滑稽。
 ぐっと唇を噛んで、コレットは立ち上がった。


「一人で背負わないでください」

 腰に刺した小さな銃を片手で軽く叩く。

「私だって貴方を守りたいのです」





◆おしらせ

毎度毎度の亀更新でごめんなさい。
仕事と私生活が忙しく、なかなか筆が進まず……
これだけの文字数を読んでいただいた手前、完結までゆっくりですが進めますので、どうか気長にお付き合いいただけますと幸いです。






感想 5

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