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第五章 祈りと迷い
90 ヘール5
「………この道、さっきも通ったような気がします」
「奇遇だな。俺もそう思う」
「もしかして、魔術の影響でしょうか?」
「どうだか…… だが、あの様子だと敵は逃げたいわけではなさそうだった。むしろこちらの登場を喜んでいたみたいだ。必ず何処かで俺たちを待っている」
「早く、早くソロニカ先生を見つけないといけないのに……!」
焦る気持ちが声の震えに表れる。
情けない姿を見せたくなくて、コレットはぎゅっと拳を握り直した。レオンと二人で延々と続く迷路を歩くこと、はや数十分。時計もなければ目印になりそうな物もないので、何も情報は得られない。
襲い掛かる不安を紛らわせるために、コレットはレオンに話を振った。
「先ほどのご老人も殿下のお知り合いですか?」
「殿下じゃない」
「うっ………」
この捻くれ者の王子はことごとく自分が敬称を付けて呼ばれることを拒否したいようで、迷った末にコレットは小さくその名を読んでみた。
「レオンの……お知り合いですか?」
「いいや、今まで顔を見たことはないな。もしかすると父なら知っているのかもしれないが、俺が今まで式典なんかで交流する中には居なかった」
「作用で………」
やはりなんだかドギマギする。
レイチェルやアルバートがレオンを呼び捨てするのは彼らが同期入学の友人同士だからで、ミドルセンは言うまでもなく教師、ソロニカは軍に従事していたときの知り合いということで納得がいく。しかしながら、ただの一般市民であるコレットが王族であるレオンをこんな風に扱って良いのか。
こちらの心中も知らぬまま、王子はずんずんと歩みを進める。まったくもって変化のない景色にはそろそろ飽きてきたけれど、進み続ける他に道はない。
「うわっ……!」
何度目かの曲がり角を曲がったとき、目の前に急に幼い子供が現れた。
少女はコレットの腰ほどの背丈で、白いワンピースに素足という出立ち。助けるような白い肌に同じくこの世界では珍しい真っ白い髪をしている。さながら雪の妖精のようなその風貌に思わず息を呑んだ。
「だ、誰ですか?というかなんでここに?」
こちらの言葉が分からないのか、少女はただこてんと首を横に倒すだけで返答はない。隣に立つレオンを見上げると、コレット同様に困惑した顔をしていた。
「迷子……でしょうか?」
「ここは魔術で作られた幻想の世界だ。第三者が容易に立ち入れる空間じゃない」
「じゃあ、あのおじいさんの孫……?」
「君の頭は本当にめでたいな。尊敬するよ」
ピシッと笑顔のまま固まるコレットを放置して、レオンは少女の周りをくるくると歩く。幼い女の子は怯えたようにコレットの方へ寄って、服の端を掴んだ。
「レオン!怖がってます!」
「仕方がないだろう。コイツが武器を持っていて命を狙ってくる可能性だってゼロではない」
「そんな……夢も希望もない」
「ああ、その通りだ。夢も希望もない。あるのは俺たちがここからソロニカを連れ戻さないといけないという現実だけだ。しくじると俺たちもソロニカも死ぬ」
「ミドルセン校長たちが、応援に……!」
「いつくるか分からない応援に期待して待ち惚けか?敵だってそんなに馬鹿じゃない。俺たちが出向かないと向こうから来るだろう」
悶々と頭を抱えるコレットの前でレオンは「先ずは」と言って剣の鞘に触れた。
「この空間の仕組みを知る必要がある。ただ歩かせるためだけの迷路ではないはずだ。何故こんな形状にしたのか、時間稼ぎか……あるいは、」
「あるいは……?」
「何かを隠しているのかもしれない」
はて、と首を傾げるコレットの前でレオンは眉を寄せて歩き出す。仕方がないので幼い少女の肩をポンポンと叩いて、その後を追うことにした。
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