【完結】悪役令嬢に転生しましたが、聞いてた話と違います

おのまとぺ

文字の大きさ
12 / 95
第二章 ニケルトン侯爵家

10.悪役令嬢は決意する

しおりを挟む

「おかえりなさい、アリア!今主人が帰って来て双子をお風呂に入れてくれているの。食堂へ行って好きに食べてね」

 帰宅した私を出迎えながら、マグリタはにこやかな笑顔を見せた。しかし、その両目は私の腕に抱えられたモフモフの魔獣を捉えて丸くなる。魔獣は今や人慣れしたのか、目を閉じて気持ち良さそうに眠っていた。

「それは……?」
「ごめんなさい、マグリタさん。実は市場で持ち主と逸れてしまったみたいで…明日運営に問い合わせるので、それまで面倒をみても良いでしょうか?」
「あらあら、」
「確認も取らずに勝手にすみません……」
「いいわよ」

 サラッとした返事に私は顔を上げた。
 マグリタは変わらない笑顔を向けている。

「変わった魔獣ね。主人のお義父様の仕事柄、あっちの家に遊びに行くたびに色々な魔獣を見てきたけれど…」
「そうなのですか?」
「ええ。お人形さんみたいで大人しいし」

 たしかに大人しい。眠っていることも関係しているけれど、ニケルトンの屋敷に入ってからというもの、小さな桃色の塊はシンと静まり返っている。借りてきた猫ならぬ借りてきた魔獣状態だ。

「そういえば貴女、髪を切ったの?もう少し長くて結んでいたはずだけど…?」
「はい。ちょっと気分を変えてみたくて」
「心機一転ってやつね。さては失恋でもした?」

 イタズラっぽく笑うマグリタから犬用のリードをもらって、自分の部屋へと戻った。暴れ回るようには見えないけれど、念のため。

 ベッドの上に寝転んで柔らかな毛並みに指を這わすと、温かな生き物はピクリと動いた。ゆっくりと開かれたガラス玉のような瞳は、冬景色を彷彿させるブルーグレー。眠そうに瞬きを繰り返しながら魔獣は身を擦り寄せてくる。

「貴方の飼い主はどんな人なの?」
「ブフッ!ブッフー!」

 なるほど、分からない。
 ひょっとすると魔力があった時のアリシアなら魔獣の話す言葉も理解できたのかもしれない。つくづく消え失せた魔力を残念に思う。

 魔獣は私の気持ちなど知ってか知らずか、また眠りに落ちたようだった。そういえば物語の中では詳しく書かれていなかったけれど、この世界の魔獣は何を食べるのだろう。作中でも餌をやったという表記はあっても、何をあげたかまでは記載が無かったのだ。

(明日マグリタに聞いてみよう……)

 窓の外にはすっかり暗くなった街が見える。遥か向こうに頭ひとつ飛び抜けて建つのはアビゲイルの王宮だろうか。

 デズモンドの塔にアリシアが幽閉されるという断罪イベントは回避したから、もうこれ以上私に災難は降りかからないはず。アリシアが退場したことで、物語のヒーロー役である王太子は婚約破棄を申請し、新たにヒロインのリナリーと婚約を結ぶ運びとなるから。

 そして、王宮で過ごすうちに聖女の力に目覚めたリナリーは正式に王室入りを認められ、一年後に王太子妃として盛大に結婚式を挙げる。国民は皆、平民出身のリナリーを歓迎して、あたたかな祝福の雰囲気に包まれて物語はハッピーエンドを迎えた。

 その裏でひっそりと命を落としたアリシア・ネイブリーのことなどきっと誰も気に留めずに。

 メインの二人が幸せの最高潮にある中、彼女の死はメモ書きのように簡単に語られた。流し読みしていたら気付かないぐらい淡々と。

 今思えば、べつに死ななくても良かったのではないかと思う。アリシアがリナリーにした数々の嫌がらせはたしかに陰湿だけれど、そもそもヒーローである王太子エリオットがフラフラと他の女に夢中になるのがダメなのであって、自らの落ち度を認めずにアリシアだけに罰を与えるのは如何なものか。

(うーん…めちゃくちゃムカついてきたわ)

 考え事をしているうちに、いつの間にか眉間に皺が寄っていたので慌てて指で伸ばす。過ぎたことを途中参加の私がとやかく言うことは出来ないのだけれど、自分がアリシアとなったことで、アリシアの処遇がとても気になる。


「ねえ、アリシア。貴方は最期に何を思ったの……?」

 一人きりで、その短すぎる生涯を終えた悲劇の悪役令嬢。もしもリナリーが王都に花を売りに来なかったら、エリオットがリナリーに靡かなければ、もっとアリシアと向きあっていれば、きっと彼女が見た景色は違ったはずだ。

 私は絶対に生き抜いてみせる。
 彼女が見られなかった物語の続きを。

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

処理中です...