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第三章 南の楽園マリソル
25.悪役令嬢は期待する
しおりを挟む案内された部屋は、礼拝者向けということもあってかなりシンプルな造りだった。バスタブは無く、かろうじて洗面所とお手洗いは部屋の中にある。シャワールームは地下にあり、男女別で使用中は木札を掛けて順番に使うようになっているらしい。私は部屋番号と同じ103と書かれた木の札をニコライから受け取りながら、ありがとうと礼を述べる。
紛失した変装用の眼鏡の代替品を早いうちに入手したいけれど、なかなかあんなに分厚い眼鏡はないだろう。とりあえず昼食を食べに行くがてら探してみようか。
考え込む私の手をニコライが優しく握った。「神様の前でそんなに険しい顔をしないで」と言うから、私は自分が鬼のような形相で思考に耽っていたのではないかと反省する。昼食を食べに出る前に礼拝堂へ連れて行ってくれると言うので、大人しくその後を追って歩いた。
礼拝堂は宿舎に囲まれる形で建っていた。天井は高く抜けていて、大きな窓から惜しみなく太陽の光が降り注いでいる。気になったのは窓枠を飾り付ける小さなガラス細工で、ニコライに聞いたところ「宝石を砕いたものを散りばめている」と教えてくれた。
「魔除けの意味もあるらしいよ。邪悪な生き物は光の輝きを恐れるから、こうやって反射させているんだ」
「そうなのね……こんなこと言って良いか分からないけれど、とても綺麗だわ」
「そうだろう?王都と違ってマリソル独自の特色だよ」
そう言って嬉しそうにニコライは笑う。
彼が如何に自分の生まれ故郷を好きか伝わった気がした。マリソルのことを話すとき、ニコライの顔はいつも明るくて活気がある。話したくてたまらない、といった風な様子の彼が語る内容はお世辞抜きで楽しいのだ。
つられて私もへらりと笑って、等間隔に並んだ長椅子の一つに腰掛けてみた。
神様なんて曖昧な存在について今まで真剣に考える機会はなかったように思う。だけれど、こうして大好きだった物語の世界に転生し、どういうわけか悪役令嬢アリシアとして人生を歩むことになった。
運命の悪戯なのか、はたまた常軌を逸した大きな力が働いているのかは分からない。しかし、もしも神様なんてものが本当に存在するならば、私は是非とも頼みたいことがある。
(どうか……アリシアの魂を救って、)
エリオットと結ばれるハッピーエンドを夢見て、何度も何度もやり直しを重ねた不運な令嬢。今世がどうなるのかは分からないけれど、彼女が苦しんだ172回の過去が報われる結果になってほしい。
死にたくはない。
でも、アリシアの気持ちも尊重したい。
両立することは容易ではないこの二つの願いを実現するためにどうすれば良いのか、私はずっと考えていた。クロノスから時戻りについて聞いた時には、自分の身の安全を危惧する心が勝っていたけれど、アリシアとして生きるうちに彼女の幸せについて想像するようになった。
先ずは、アリシアに初めて黒魔法を掛けた人物を探すべきなのかもしれない。一回目の黒魔法と魔力が完全に消失した二度目の出来事が関係しているのかは検討も付かないが、とにかく調べてみるしかない。
そのためにも、ある程度長い期間を彼女と共に過ごした人物に話を聞くことは大切だと思えた。つまり、ルイジアナ・コレツィオから何か参考になる話が聞けるのではないかという僅かな期待があった。
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