【完結】悪役令嬢に転生しましたが、聞いてた話と違います

おのまとぺ

文字の大きさ
71 / 95
第五章 祈りの王都ダナ

69.悪役令嬢は回帰を知る

しおりを挟む

「どういうこと……?」
「ええっと、今回は何回目かしら。100回を超えたあたりから数えるのを止めたから分からないわ」
「リナリー、貴女も時戻りを…?」

 驚きのあまり掠れた私の声を聞いて、リナリーは不服そうに頬を膨らませた。

「良い?私はこの世界の中心なの。だから当然だけどその仕組みについても理解しているわ」
「そんな……貴女にも記憶があるの…?」
「すべて覚えている。すべて、ね」

 リナリーはサバスキアで生まれ、先に海を渡った双子の姉を追い掛けて王都へ。通り掛かったエリオットとアリシアに花を売り、身の上話をする中で親しくなった。三人での時間が増えるにつれてエリオットの心はリナリーに傾き、やがてそれを察したアリシアは嫉妬に狂って自滅する。

 その一部始終をすべて、彼女は記憶のあるままに何度も繰り返しているということ?

「なんで…?エリオットの心が狙いならばもう十分でしょう!?王太子妃の座は貴女のものよ!」

 アリシアは何度も繰り返した。
 その回数はじつに172回。何度も失敗して、何度も死んだ。それこそデズモンドの塔からの風景が絵に描けるぐらいには、彼女は飽き飽きするぐらい回帰したのだ。

 流れる涙もそのままで呆然と打ちひしがれる私を見て、リナリーは不思議そうに首を傾げる。それは算数の問題の答えが分からない子供のように純粋な仕草。

「何を勘違いしているの?」

 重々しい部屋の空気の中で、異常なほど軽い声がした。

「エリオットと結婚することが私の目的ではないわ」
「じゃあ何?王妃にでもなりたいの!?巻き戻りの鍵がアリシアの死であることは知ってるでしょう?彼女の死を避けて、この世界を進めることが貴女には出来たはずよ!」
「どうして?」
「……え?」
「なぜ進めなくてはいけないの?私はこのループを永遠に楽しんでいたいのに」
「なにを…言ってるの……?」

 固まる私の前でリナリーはくるくると指輪を弄ぶ。
 ドームの中で青い粉末が舞う様子を私はただ黙って眺めた。

 リナリー・ユーフォニアの思惑が分からない。どうして何度も同じ世界を繰り返すのか。彼女のためにも、エリオットと結婚した後の世界を見たいものではないのか。王太子妃として終わるのではなく、その先にある王妃、そして子供を産んで母として生きる道を求めないのだろうか。

 つまらなさそうに欠伸をした後で、リナリーはやっとその小さな口を開いた。宝石のような青い瞳が私を見据える。

「アリシア、私が見たいのは無様に苦しむ貴女の姿よ」
「………は…?」
「初めは純粋な興味だった。孤児院で姉がいると聞いて、見てみたくなったの。閉鎖的な生活にも飽きちゃっていたし」
「………、」
「初等部が夏休みの間に一度だけ、サラと王都へ行った。ネイブリーの屋敷も外から見たわ。大きなお屋敷ね?居心地は良かったでしょう?」
「リナリー……」

 私の声を受けて、リナリーの目に力が入るのが分かった。
 眉間に皺が寄って眉根が盛り上がる。

「気付いているでしょうけど、十二歳の時の貴女の魔力を奪ったのはサラよ。私がお願いしたの。だって、ズルいと思わない?どうして貴女は魔力があるの?どうして貴女だけ貴族の家に貰われるの?おまけに王太子の婚約者ですって?」
「私の話を聞いて、お願い…!」
「いいえ、結構よ。今となっては別に良いの。私は貴方が手に入れたものを全部奪うだけ。貴女がコツコツと作った積み木のお城を崩すのが私の楽しみなの」
「………良い趣味ね」

 そうでしょう、とリナリーは自身の爪の形を気にする素振りを見せながら答える。綺麗に整えられた指先。美しく着飾った聖なる乙女に、私は自分がなんと言うべきか悩んだ。

「リナリー、教えて」
「なぁに?」
「貴女の思いは分かったわ。それならばどうして、黒魔法ですぐに私を消さなかったの?そんなに恨んでいたなら、事故でもなんでも見せ掛けて……」
「そんなの面白くないじゃない」

 もうっ!と怒って立ち上がったリナリーは残酷な顔を作って私を見下ろした。私はこの顔を知っている。憎悪と嫌悪、強い歪みが生み出した悪人の顔。

 地面に突いたままの私の手の甲を、小さくて可愛らしいヒールを履いたリナリーの足が踏み付けた。ジリジリと体重を掛けられると、我慢していても悲鳴が上がる。


「ねえ、アリシア……これは私の物語なのよ?私を愉しませるためだけに生きて。何度だって死んで。私は永遠に貴女の不幸を見ていたいの」

 背中を冷たい汗が流れ落ちるのを感じた。
 向けられたのは、あまりに純粋な悪意。

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

処理中です...