【完結】悪役令嬢に転生しましたが、聞いてた話と違います

おのまとぺ

文字の大きさ
86 / 95
第五章 祈りの王都ダナ

84.悪役令嬢とその王子2◆エリオット視点



 目の前で眠り続けるアリシアを見つめる。

 出会った当初はふっくらしていた白い手は、柔らかな女性らしい形に変わっていた。もしかすると、理解しているつもりで、何も分かっていなかったのかもしれない。

 アリシア・ネイブリーは、いつの間にか大人の女性になっていた。自分の中ではいつまでも出会った時のまま、恥ずかしそうに笑うイメージだった彼女はこんなにも自立して、したたかに生きていたのだ。


「………分かっていなかったのは俺の方だ」

 開かれることのない瞼の下の双眼が何を見て、どんなことを考えていたのか。推測に留まることは、ただの独りよがりな妄想と同じ。彼女の気持ちを汲み取ったつもりで、それはただの想像の枠を出ていなかったのかもしれない。

 なにも理解出来ていなかった。
 一番大切にしなければいけない、彼女の心を。

「アリシア……すまなかった」

 何度謝っても、もうその耳に届くことはない。
 先ほど部屋を出て行ったニコライの言葉を思い出す。「本当にほしいものは必死にならなければ手に入らない」と彼は言っていた。いつ何時も冷静に対処することを心掛けてきた自分に、出来るのだろうか。

 アリシアが目覚めたらもう一度、彼女の気持ちを確認する必要がある。彼女曰く記憶を断片的に失くしているらしいし、マリソルから連れ帰ったニコライと話す時の彼女の様子はまんざらでもなさそうだ。

(………?)

 楽しげに話す二人の姿を思い浮かべた時、チクリと胸の内が痛んだ。

 恋やら愛だと診断する宮廷医師に再び相談する気にはなれず、大きく息を吐き出す。自分が今まで半ば馬鹿にしてきたそういった世俗的な感情に翻弄されるなんて、認めがたい羞恥に思えた。

 リナリーとどうこうなりたいと思ったことはないし、彼女に対して明確な好意を意識したことはかった。ただ、アリシアと歳の近い彼女は良い友人になるのではないかと思っていただけ。しかし、処理しきれない浮つく気持ちを抱えていたのも本当で、アリシアによるとそれは魅了だったらしい。

 じゃあ、今も居座るこの感情は?
 ここのところ毎日、自分は暇さえあればこうしてアリシアの顔を見に来ている。子供っぽい婚約者だと思っていた彼女の成長に驚いている。魔獣としてそばに居た際に垣間見た新しい一面には好感を持った。

 もっと、彼女のことを知りたいと。
 そして自分のこともあわよくば知ってもらいたいと。

 医師の診断なんてなくても、今の状態の方がよっぽど魅了ではないかと首を傾げる。しかしアリシアが魅了の魔法を使えるなど聞いたこともない。使えるならばもっと早い段階で使っていたはずだ。

 二回目の溜め息を吐き、することもないので、アリシアが目覚めた際にスムーズに話が出来るように練習を積んでおくことにした。最大限の実力を発揮するためには効果的な練習が必要、これは魔法学校で何度も教わったことだ。



「………アリシア、こんな話をすると驚くかもしれないが…」

 少し勿体振り過ぎだろうか?
 要点から話した方が良いかもしれない。

「いや、君に伝えたいことがずっとあった。今までタイミングを逃してここまで来てしまったことを申し訳なく思う…」

 こうなるとどうも男らしくない。言い訳がましい喋り方にならないように注意したいが、十年も婚約関係にあるにもかかわらず、未だに手を繋いだ回数も数えるほどの自分たちなど何をどう足掻いても言い訳が先に立つ。

 手を繋いだのもパーティーに出席する際のエスコート程度で、周りに倣って真似をしていただけ。学業を極めても分からないことがあるとは、と苦い気持ちを噛み締めた。

 もう少し、シンプルに。
 彼女に一番届く言葉を。


「アリシア…君のことが知りたい。そばに居たいんだ」

 言葉にした瞬間、恥ずかしくなって片手で目元を覆った。

 いったいなぜ人はこんなに恥ずかしいことを平然とやって退けるのだろう。自分の父であるユグナークも母と結婚する際はこうした恥ずかしい思いをしたのだろうか。父の求婚を母が了承したとき、抱き締められた母親があばらを数本折ったというのは有名な話だが……


「それって愛の告白ですか?」

 顔を覆っていた右手が掴まれる。
 眠っていたはずのアリシアがこちらを見て笑っていた。


感想 15

あなたにおすすめの小説

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

遊鷹太
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。