【完結】悪役令嬢に転生しましたが、聞いてた話と違います

おのまとぺ

文字の大きさ
92 / 95
番外編

90.飴と鞭の配分3

しおりを挟む


 三回目のノックの後で、部屋の主は入室の許可を与えた。

 私はすり足で部屋の中へと足を踏み入れる。
 広い部屋の中には綺麗に整えられた本棚やベッドの他に、彼自身が腰を下ろす一人掛け用のソファ、そして机を挟んで来客用の長いソファが置いてあった。

 執務はまた別の部屋で行うのだろうか?
 これだけ部屋が多い王宮だからその可能性は大きい。


「こんにちは…?」

 呼び出されたことへの疑問から語尾が上がり気味になった。窓の外は薄暗くなって外の世界が夜に向かっていることを知らせている。

「急に呼び出してすまない。確認することがあった」
「いえ。特に用事もないので大丈夫です」

 勧められるままに対面する形で座る。エリオットがあまりに重々しい空気を纏っているので、私は少し恐ろしくなった。もしかして彼は私の魔法が上達しないのを理由に「君を愛することはない!」とか言い出すのでは。

 それともなんだろう。
 実は犬猿の仲に近いニコライの存在を意識するあまりにちょっと男色的な気持ちに気付いたとか?

 止まるところを知らない私の妄想が大きくなるのを他所に、エリオットはその冷たい色の瞳をこちらに向けた。


「君は、俺のことをどう思う?」
「え?」

 びっくりして言葉に詰まった。
 何をいきなり。

 しかし、ここで黙り込むのは失礼なので私は脳をフル回転させて、この場で求められている最適な答えを弾き出そうと考えた。彼が聞きたい言葉は何なのか。

「そうですね……やはり殿下は王太子なので品格がおありですし、魔法の扱い方も上手です。教師としてはちょっとスパルタが過ぎるところはありますが…まぁ、愛の鞭だと思えば問題ないかと…」
「そういうことを聞いているわけではない」
「あ、見た目のお話ですか?もちろん、それは素晴らしいと思いますよ。侍女たちも皆、殿下は年齢を重ねるごとに凛々しく逞しく成長してらっしゃると……」
「違う」

 私の言葉を遮るように手を上げると、エリオットはどういうわけかその手を自分の額に当てて考え込むような仕草を見せた。

 今日のエリオットはどうしたのだろう。
 どう思うと聞くから、素直な評価を伝えたのに、なぜかそれでは物足りないような反応をする。私の答えでは不十分だったのだろうか。

 それならば、彼はいったい何を聞きたいと?
 追求しようと私が身を乗り出した時、エリオットが顔を上げた。


「………っ!」

 吐いた息が掛かりそうな距離で灰色の瞳が私を射抜く。

 慌てて引き下がろうとしたら、大きな手はそれを拒むように私の腕を引いた。彼の白いシャツに顔を押し付けた状態で、私は心臓が爆発するのではないかと怯える。

 だって、こんなのどうしたら良いの。
 吸い込んだ空気は甘い香りがして、脳が麻痺しそうだ。


「アリシア…乱暴な真似をしてすまない。君と顔を合わすとどうにも上手く話せなくて、良ければこのまま聞いてほしい」

 私はブンブンと首を縦に振る。
 肩越しに見える棚の上には、部屋に似付かわしくない鮮やかな色のリボンが丸められて置いてある。それは、私が旅の途中でペコロスに与えたものだった。クッキーの袋に付いていたリボンを小さな魔獣の首に巻いた記憶が蘇る。

 あの時は鳴いて嫌がっていたのに。
 本当に、正直じゃないと思う。

 それはたぶん、私自身も。


「俺が君の隣に居るための許しをくれないか?」
「ゆ…許しですか?」
「アリシアの気持ちが知りたい」

 咄嗟のことで戸惑いながら、私は勇気を振り絞る。

「エリオット様の、こと……を」
「うん?」
「好き……に…なりたいと、思っています」

 一生分の気合いを入れて吐き出したのは今の私の精一杯で、恥ずかしくなって黙り込む私の上でエリオットは小さく吹き出した。私は恐々と顔を上げてみる。

「そうか。まだ、かなり努力する必要があるな」
「ごめんなさい…私も初心者なので、」

 しどろもどろに答える私の髪をくしゃりと撫でて、エリオットは笑った。

「良いんだ。時間はまだたくさんある。これから時間を掛けて教えてほしい、君のことを」
「あ……それでしたら、私から一つ要望が…」
「何だ?」
「殿下は魔法指導の時に鞭が過ぎるので、飴と鞭の要領で私を叱った後はちゃんと甘やかしてください」
「甘やかす……?」
「頑張ったね、とか。そういう言葉を掛けてほしいのです。毎度毎度ダメ出しばかりだと気が滅入るので…」
「なるほど、分かった」

 そう言って少しの間視線を落として考え込んでいたエリオットは、急に立ち上がった。窓の外に沈みゆく夕陽を眺めていた私は驚いてビクつく。

 何を思ったかズカズカとこちらに回り込み、そのまま私の隣に腰を下ろしたエリオットは大きな手を私の頭の上に置いた。

「君はよく頑張っている」
「………!」
「その姿を一番近くで見れることを嬉しく思うし、正直焦るよ。俺も君の隣に並んで恥ずかしくない男になれるよう、努力しないとな」

 顔面偏差値の高い彼に真っ向からそんなことを言われて、私は頭が溶けるかと思った。そして耐性のなさ故に、息も絶え絶えに「用が済んだなら戻ります!」と逃げ出したのである。


 このようなやり取りは、その後もエリオットとの間で何度か繰り返すのだけれど、優秀な彼がイタチごっこに気付いて私の逃げ道を塞ぐのは遠くない未来の話。






◆おねがい

 何度もすみません、日曜日がファンタジー大賞の最終日だと思ってたのですが9月は今日で終わりのようなので(早い)、票がもし余っていたら投票いただけると嬉しいです。

 最近肌寒くなってきたのでご自愛ください。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

処理中です...