【これはファンタジーで正解ですか?】燈編

司書Y

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告。新入生諸君

18 裏切りの定義 3

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「あー。ダメ。ダメよ。ダメ。茉優の王子様はそんなこと言っちゃダメ」

 茉優が呟く。妙に楽し気な、歌うような声だった。

「燈さんは茉優の王子様なの。だから、茉優のこと大好きなの。守ってくれるの」

 熱に浮かされたように茉優の呟きは続く。

「そしてー。茉優と王子様は結ばれて、王子様はずうっと茉優を守ってくれるのよ」

「小林さん……?」

 尋常でない茉優の様子に、燈は思わず声をかけていた。つくづく甘いと思う。
 禁呪を改変させたことも、燈や丸山に禁呪を使ったことも、まず間違いなく許可をとってはいない。茉優のやったことは法に触れる。その被害者でありながら、それでもなお、燈は彼女がどうなってもいいとは思えなかった。

「ふふふ。ね。燈さん」

 茉優が顔を上げる。その表情に燈は固まった。

「茉優のお願い。聞いてくれるでしょ?」

 その表情はさっきまでの丸山と同じだった。目の焦点が定まっていない。いや、燈の方を見てはいるのだが、燈が見えてはいないように思える。一体、燈がどんなふうに見えているのだろうか。ぞ。っとするような暗い笑みを浮かべて、彼女が近づいてきた。

「あーちゃん。下がって」

 ぐい。と、腕を引かれて、紅二の背中の後ろに隠される。

「『逆凪』だ」

 呪いの使用には大きなリスクを伴う。魔光を持つものが、呪われていることに気付いてそれを解呪したとき、その方法の如何を問わず呪いは術者に帰るのだ。さらには、解呪したとき解呪したものの魔光が上乗せされて、呪いは強さを増して術者に帰る。
 それが『逆凪』。
 熟練の呪術師は帰ってきた逆凪をいなす方法を用意している。反対に、帰ってきた呪いをいなせないなら、その呪術を使わない。けれど、彼女は未熟な術者だったようだ。

「あれ? 燈さん。どこですか?」

 今、目の前で紅二が燈を背中に隠したのを見ていたはずなのに、彼女はくすくす。と、笑いながら、辺りを見回す。燈のことが見えていないどころか、紅二の姿すら見えてはいないようだ。

「かくれんぼ? やだな。子供みたい。かわいい」

 締まりのない笑顔を浮かべて、彼女はそのまま周りをうろうろと歩き始めた。時折、かくん。と、力なく首が前や、横に倒れるのを『あれれ?』と、笑って片方の手で元に戻すのが堪らなく気持ちが悪い。

「あーかーりさん。もーいーかい」

 彼女はもう、小林茉優ではないように見えた。

「……小林さん」

 その姿に堪らなくなって、燈は思わず彼女の名前を呼んだ。
 途端にその瞳がぎょろり。と、動いて、燈を捕らえる。

「燈さん。みーつけた」

 その手が燈の方に延ばされる。
 その惨状に燈は言葉を失った。

 俺が。
 彼女を突き放したから?

 そんな言葉が頭を過る。
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