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他の候補者とは違いました。
しおりを挟む侍女達に朝から磨かれ、綺麗に仕上げられたが···やはり化粧で隠しても、うっすらクマが残ってしまった。
こればかりは仕方がない。
ベッドに入り、数時間もたたない内に、朝になっていたのだから。
きっと、大臣や宰相も同じだろうと考えたら、思わず苦笑いしてしまった。
王宮の一室で、最後の夫候補に会う事になっている。
宰相のご子息であるから、とても優秀な方だろうと思う。優しい方だといいな。
他の夫候補と会った時感じたが···。
外面は好意的だった。
だけど、本当の心は見せてくれなかった。
優秀である、何かに長けている、判断基準はそれだけ。
それだけしかわからない。
私が知りたいのは、その人の内面と、本当の気持ちなのだけど···。
私自身、出世の道具としてしか見てもらえないから、相手には同じ思いをしてほしくないのだ。
普通の夫婦とは違うかもしれない。
政略での婚姻かもしれない。
けれど、せっかく夫婦になるのだから、私は相手の気持ちや相手の事を少しでも知りたいし、大切にしたい。
こんな私と婚姻を結んでくれるのだ。
そんな彼等を不幸になどさせたくないから。
嫌々家の為に犠牲になったと言うのなら···。
必要最低限で関わらないでほしいのなら···その気持ちに添うつもりだ。
もし嫌でも、帰る場所や、逃げる場がないのならば···別邸を用意する。
家を継ぐわけではない彼等は、断りたくても断れないかもしれない。
そういう場合だってあるのだから···。
どうしても避けられない公務や、パーティーには参加して貰わねばならないが···それ以外は、彼等が心安らげるように配慮するつもりだ。
無理強いはしたくない···。
だから夫候補には、王命で無理矢理従わせるなんて事は絶対にしない。
嫌なら、その気持ちを伝えてくれる方がいい。
彼等が、嫌な思いをするのは嫌だから。
宰相のご子息はどんな方だろうか?
皆のように···笑みを浮かべていても、瞳の奥が笑っていない···あんな目を向けられるのは嫌だな。
部屋に着き、ドアを開ける前に深呼吸をする。
ドアをノックすると、中から人の気配がする。
ちょっと早かったけど、先に来ていた様だ。
恐る恐るドアを開けると、ふわふわとした、白っぽい金髪に、ピンクの瞳をした優しげな青年がこちらに向かって歩いて来た。
最後の夫候補は、ブルクミュラー公爵家次男。
イクス・ブルクミュラー。年齢は18歳。
年齢よりは少し幼く見える。
ややタレ目で、人懐こそうな美青年だ。
昔飼っていた、白い大きな犬に似ていると言ったら、失礼に当たるかもしれないが···彼からは、他の候補と違った柔らかい空気と人懐こさを感じた。
彼となら良い関係が築けるかしら?
少し緊張が解けて気が緩んだのか、立ち眩みがして···前のめりに体勢が崩れた。倒れる──。
そう思った瞬間、ガシッと抱き止められた。
「 大丈夫ですか···? 」
心配そうに覗き込む様な彼の瞳と目が合った。
いけない···。離れないと。
慌てて離れようとする私に、彼は優しく「無理をしないで···。」と体勢を変えて私を抱き抱えた。
近くにあったソファーに、そっと私を横向きに降ろすと、彼は着ていた上着を脱ぎ、私の上に掛けてくれた。
「父から、昨日無理をさせてしまったと聞いています。気にせず少し休んでください。少し目を閉じるだけでも休めると思うので。」
そう言って彼は微笑んだ。
確かに眠れなかったけど···それはいくらなんでも失礼では?と起き上がろうとすると、またクラクラとしてしまい起き上がれなかった。
「すみません···。少しだけお言葉に甘えさせて下さい。」
なけなしの力で声を出したが聞こえたかしら···?
そこで私の意識は途切れてしまった。
次に目を覚ました時、部屋は少し陽が落ちていた。
いけない!
慌てて目を覚ました私はキョロキョロと辺りを見回す。
さすがにこんなに眠ってしまったら、帰ってしまわれたわよね···。
せっかくお時間を取っていただいたのに。
申し訳ない事をしてしまったわ。宰相にもイクスにも後でしっかりお詫びしないと···。
ふと、隣の書斎から光が漏れているのに気付き、書斎に向かうと···書斎の机に、うつ伏せに眠っているイクスの姿があった。
( もう帰ってしまったと思ったのに···ずっと側で待ってくれていたのね···。)
イクスはどうやら、私を待っている間に、自分も眠ってしまったらしい。
穏やかな寝顔で、気持ち良さそうに、スヤスヤと小さな寝息を立てて眠っていた。
( 彼はとても優しい方みたい···。)
会う約束をしていて、私は眠ってしまったのに···。
普通は怒ってもいい筈だ。
それなのに彼は···私を咎める所か、側で私が起きるのを待っていてくれた。
( 彼が待っていてくれたのが····こんなに嬉しいなんて···。不思議。)
気持ち良さそうに眠るイクスを見ていると、今まで感じた事のないような気持ちが、じんわりと胸に広がる。
この気持ちは一体なんなのだろう?
私は、初めて感じる気持ちに戸惑いつつも、眠る彼をもっと見ていたいと思うのだった。
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