5 / 7
とても温かい人でした。
しおりを挟むさすがに起こした方がいいよね?
しばらく、気持ち良さそうに眠るイクスを見ていたが、さすがに起こした方がいいと思い、声をかけた。
「気持ち良く寝てる所ごめんなさい。起きてください。」
軽く肩を揺すり、声をかけるが、イクスはむにゃむにゃとまだ少し寝惚けているようだ。
( 男性に言うべき言葉ではないけど···可愛い。)
思わず、フフッと笑ってしまった。
なんだろう。この方といるととても落ち着く。
気持ちが穏やかにいられる。
イクスの飾らない人柄は、すり減った心を癒してくれるような不思議な温かさがある。
エリザベートはもっと目の前の青年の事が知りたいと自然と思っていた。
「 うわっ!?もう暗くなってる···色んな事話したいと思ってたのに。眠ってしまって申し訳ありません。せっかくの王女の貴重な時間を無駄にしてしまいました。」
落ち込む彼に、飼い犬の叱られた時の姿が重なる。
「 私が眠ってしまったせいなのだから、気にしなくて良いのよ。むしろ、私が眠ってしまったせいだから。こちらが謝る方でしょう···?眠ってしまってごめんなさい。そして、ソファーまで運んでくれてありがとう。」
私がそう言って、ニコリと微笑むと、彼の顔が赤くなったような気がしたのは気のせい?
日が落ちて、少し肌寒いのかもしれない。
風邪をひいたのではなければいいけど···。
申し訳ないことをしてしまった。
「 挨拶も出来ずに眠ってしまってごめんなさい。私はエリザベート・エルガドル。どうかエリザベートと呼んで下さい。」
私が自己紹介すると、イクスは臣下の礼を取る。
「私はブルクミュラー公爵家次男。イクス・ブルクミュラー。どうかイクスと気軽に呼んで下さい。」
自己紹介するとイクスはフワッと笑う。
イクスの纏う、柔らかい空気に私も思わず笑みが溢れた。
「今日エリザベート様が、何の為に私を呼んだのか理解してます。どうか私を貴女の夫にして下さい。私は、貴女を守る覚悟を持ってここへ来ました。」
私は驚いて目を見開いた。
他の夫候補にも打診したが、誰も即答はしなかったのに···。
イクスは私が打診する前に、話す内容を理解し、イクスから夫にしてほしいと言ってくるとは思わず、逆に驚かされた。
「 ずっと王宮に閉じ込められ、味方もいない状態で不安だった事でしょう。私は、貴女の心に寄り添い、貴女を守る盾になりたい。どうか私の前では無理をせず、その思いを吐き出してくれたら嬉しいです。」
そう言うと、イクスは照れくさそうに笑った。
今まで···こんな事を言われたのは初めてだった。
両親にさえ見捨てられたのに。
涙が無意識に溢れていた。
冷えきった心が、じんわり温かくなる。
まるで氷を溶かすように···。
急に涙を流した事に驚き、イクスは慌ててしまった。
あっ!ハンカチ···!と慌てるイクスに思わずふっと笑ってしまう。
イクスが、涙を拭ってもいいですか?とおずおずと聞いて来たのでコクリと頷く。
宝物を傷つけない様にするかの如く、イクスは私の涙をハンカチで拭ってくれた。
「ごめんなさい···。今までそんな事を言ってくれた人がいなかったから、嬉しくて泣いてしまったの。」
涙が落ち着いて、イクスにそう伝えると、イクスがいきなり土下座したのだ。
私は驚いて、イクスの前にしゃがみ込むと、イクスと目線を合わせた。
「 イクス。お願い···。顔を上げて?」
それでもイクスは、頑なに頭を上げようとしない。
「 エリザベート様に言わなければならない事があります。今日お会いする前に、貴女との結婚は嫌だと、父に言ったのです。貴女に関する良くない噂を信じて、貴女を誤解したんです。こんなに純粋な方だと言うのに···噂を信じて。本当に申し訳ありません。」
そう話すイクスは、今にも泣き出しそうな表情だった。
その噂は、私も知っている。
私を知らない人間ならば、信じても仕方がないと思う。
私は表に出ることはできないし、その噂を止められない、止める力のない私の責任だ。
噂の出所を探り、噂を流した者を突き止め処罰しなければ、噂を肯定するのと同じだ。
だけど、まだその権限が私にはない。
まだ女王になってはいないから。
その権限は父にある。
それに、父が私の為に動くとは考えられない。
父が私の為に動くような人間であれば···今頃、こんな事で悩んでいるはずはないのだから。
力もない···。
ずっと王宮に押し込められていた為に、
味方がいないのだ。
「それは、噂を止める力のない私の責任よ。噂を信じてしまったイクスに罪はないわ。言わなければ、私はわからなかったのに。貴方は私に嘘を付かず、誠実
に語ってくれた。そんなイクスの誠実さが好きよ。話してくれてありがとう。」
「イクスお願い···。顔を上げて?私、イクスの顔を見て話がしたいわ。」
私が優しく語りかけると、イクスは顔を上げた。イクスの目には涙が浮かんでいた。
「 ふふふっ···私達二人共泣き虫ね。今度は私が貴方の涙を拭う番。こうしてちょっとずつでいい。お互いの事を知り、本物の夫婦になりましょう?貴方となら、いい夫婦になれそうな気がする。」
二人顔を見合わせると笑った。
お互い酷い顔だったからだ。
「私も貴女となら、いい夫婦になれる気がします。」
イクスの頬が赤く染まる。
「先ほどのお返事を今すぐ伝えてもいいかしら···?ぜひ貴方に夫になって貰いたいわ。特殊な婚姻だけどイクスは大丈夫?夫が他にもいるなんて···嫌じゃない?」
私が不安気に聞くと、イクスは私を抱きしめた。
「他にも夫がいる事は、正直少し不安だけど···。それでも私は貴女の側で貴女を守りたい。それに、それはエリザベート様だって一緒だろ?不安に思ったり嫌なことは、私の前でだけは我慢しないでほしい。貴女は何も悪くないのだから。私が側にいるから。どうか私の前では素のエリザベート様でいてほしい。」
温かい···。
イクスの腕の中はなんて心地がいいのだろう。抱きしめられる腕のたくましさ、その腕の中にいる温かさ。
私はもう···イクスを離してあげられないかもしれない。この温かさを知ってしまったら···。
「イクス···。二人でいる時は、エリザと呼んでほしい。敬称はいらない。貴方の前でだけは、ただのエリザでいてもいい?王女ではない、ただのエリザでいたいの。」
私がそう言い切る前に、イクスはギュッと強く抱きしめてきた。
「エリザ。」
彼に耳元で名を呼ばれドキッとしてしまう。
心臓の音聞こえてしまいそう。
抱きしめる彼の胸に身を委ねた。
しばらくそうして抱き合っていると···。
「ゴホン··。」
侍女のアネットの咳払いが聞こえた。
すっかり忘れていた···。
侍女のアネットもずっと室内にいたのだ。
ガバッと私達は体を離す。
恥ずかしい····ずっと見られていたのに私ったら···。
イクスも顔を真っ赤にしてあたふたしている。
慌てふためく私達を見て、珍しくアネットが笑った。
「今日の事は、見なかった事にします。イクス様···。どうかエリザベート様の事をよろしくお願いします。」
母からの愛情を得られなかった分、アネットは、まるで母のようにたくさんの愛情を注いでくれた。私からすれば、本当の母親よりも、アネットの方が母親だと思っている。
そんなアネットの言葉に胸が温かくなった。
日が暮れてしまったので、今日はお開きになった。
婚姻の話はこのまま進める事になり、後日ゆっくり話そうと約束し、イクスは帰って行った。
先ほどのイクスのぬくもりが、まだ残っているように感じて···また胸がドキドキしてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~
双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。
なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。
※小説家になろうでも掲載中。
※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる