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憎くて大嫌いで大好きな人。(エアハルトside)
しおりを挟む今日は王女殿下とのお茶会に呼ばれた。
五人の男に囲まれ、微笑む彼女はとても美しかった。
きっと···彼女は、私の気持ちになど気付かないだろう。
私は彼女を愛している。
本当に···心の底から。
その愛が、憎しみに変わるほどに···彼女を愛している。
愛しているからこそ憎い···。
私以外の男に微笑むのも、他の男に触れるのも、触れられるのも···。
彼女の境遇もわかっている。
彼女が何も悪くないのもわかっている···。
だけど···それでも憎いのだ。
他の男に微笑む彼女を···この手で殺してしまいたいくらいに。
私を夫に選んだ彼女が憎い。
こんな気持ちになるくらいなら···全く好きでもない女性と結婚した方が幸せだったかもしれない。
それでも、彼女に頼まれれば···私は断ることができない。
少しでも側にいられるならば···と女々しくも願ってしまうほどに彼女が好きだから。
エリーは私のものなのに···。
憎い。憎い。憎い。
なぜこんな矛盾した気持ちを抱えているのか?
それは、私の幼少期の思い出にある。
彼女がまだ小さな頃。
彼女は、王宮で私と出会っているのだ。
侍女も付けず、友達もおらず、一人ぼっちでつまらなそうな彼女を見つけた。
貴族の集まりでも見かけた事もない、何処の子供かもわからない、寂しそうな様子の少女が気になり···私から話しかけた。
初めて同年代の子供に話しかけられたのか、彼女はとてもビックリしていた。
「ねえ···?僕とお話しない?」
自分に話しかけられたのか確認するようにキョロキョロ周りを見ている彼女。
彼女以外、誰も側にいないのに。
そんな彼女の様子が可愛いくて、思わず笑ってしまう。
「ダメよ。知らない人と話しちゃいけないって言われてるから···。見つかればあなたが怒られてしまうわ。誰かに見つからないうちに逃げて。」
確かに、父にこの辺りは入っちゃいけないって言われていた。
だけど···。
あまりにも寂しそうな彼女を放ってはおけなかった。
「ちょっとだけ!誰かに見つかりそうになったらすぐに逃げるから!それでもダメ?」
私は悲しそうな顔をして、彼女が「ダメ」と言えない状況を作る。
「わかった。だけど、本当に見つかりそうになったら逃げるのよ?それだけは約束してね。」
彼女の良心を利用した私にも気遣う彼女は、とても優しく良い子なんだと思う。
その日は、当たり障りのない話を日が暮れるまで話した。
それから、気付けば毎日彼女に会いに行った。
最初は戸惑っていた彼女も、だんだん心を開いてくれたのか、徐々に笑顔を見せてくれるようになった。
花が咲き誇るような明るい彼女の笑顔は、この世界の何よりも美しかった。
恋に落ちるのに、時間はかからなかった。
私は彼女が大好きになり、彼女も私が大好きだと言ってくれた。
可愛い···僕のお姫様。
「エア!」と私を見つけると、嬉しそうに駆け寄る可愛いエリー。
私のお嫁さんになってほしいと言った時も、エリーは嬉しそうに笑って頷いてくれた。
幸せだった。
私は絶対に彼女と結婚したいと思っていたし、彼女もそう思ってくれたと思っていた。
しかし、父に彼女とこっそり会っている事がバレてしまった。
父は、見たこともないくらいに怖い顔で私を叱った。
どうして?
どうして彼女に会ってはいけないの?
私は、納得がいかずに父に反抗した。
すると父は、屋敷の一室に「頭を冷やせ。」と言い、閉じ込めた。
その部屋は窓もなく、出入口は一つしかなかった。
しばらくは「エリーに会わせて!」と暴れ、ドアを壊そうと、手が血まみれになるほどドアを叩いた。
その部屋に、どれくらい閉じ込められたのか···。
部屋にはトイレや風呂もついていて、生活に必要な物は揃っていた。食事は日に3回執事が運んできた。
早くエリーに会いたくて、毎日泣きながら過ごした。
2週間ほどたったのだろうか?
部屋から出された私は、自宅の中だけは、自由に過ごせるようになった。
ここで反抗したら、またあの部屋に閉じ込められると思った私は、彼女にすぐにでも会いに行きたいのをじっと耐えた。
彼女に会えなくなって···半年ほどたっていた。
やっと監視がいなくなり、彼女に会いに行ったがその日、彼女は現れなかった。
一週間、二週間と毎日通ったが彼女は現れなかった。
まるで···あの時間は幻だったかの様に。
違う···。
エリーは幻なんかじゃない。
あの時間、彼女との時間は幻じゃない!
私は付近を探した。
きっと、この近くに彼女はいるはずだ。
すると、彼女の姿を見つけた。
エリーだ。
幻じゃない!エリーはちゃんといた。
「エリー!!」
元気だった?ずっとずっと会いに来れなくてごめん。会えない間も、ずっとエリーに会いたかったんだ!
話したいことが頭を巡る。
あと少しでエリーに触れられる。
その瞬間···。
彼女は、怯えたような顔で私を見た。
「あなた···誰?来ないで!!」
えっ···?
怯えた表情で私を見る彼女は、まるで別人の様だった。
彼女は何を言っているんだ···?
すると、彼女の侍女が現れた。
「姫様から離れてください!」
慌てて彼女を背に隠す侍女。
「エリー?」
彼女の名を呼ぶと、侍女は怪訝な顔をして、彼女を他の侍女に、自室まで連れて行くように指示を出した。
「貴方が「エア様」ですか?残念ながら···姫様は貴方のことを何も覚えていません。いくら待っても来ない貴方に裏切られたと思い。記憶を自ら閉ざしてしまったみたいです···。貴方が来なくなってから···毎日姫様はあの場所で泣いていました。」
そこまで言うと、侍女の声が氷のように冷たい声音になる。
「姫様は、貴方に飽きられてしまったのだと思い···自殺未遂をしたのです。薬の保管庫へ忍び込み、大量の薬を飲み···一週間生死をさまよいました。医師の処置が遅ければ死んでいました。目覚めた時には、貴方に会っていた記憶のすべてを失ってしまったのです。医師の話では、自らの一番辛い思い出を、自ら閉ざしてしまったのだろうと···。」
侍女がそこまで話すと、私は膝から崩れ落ちた。
彼女が自殺未遂?僕に裏切られた?
違う···。
裏切ってなんかいない。
飽きられた?
違う!
飽きるなんてあり得ない。
私だって、ずっと会いたかった。
毎日泣きながら過ごすほど···君に会いたかったよ。
記憶を失ってしまっただなんて···。
しかも、自ら閉ざしてしまっただと?
どうして···。
そして侍女は、冷たい声音で「もう会いに来ないで」と私に言った。
私を忘れてしまった彼女が憎い···。
苦しい···悲しい。
彼女なんて大嫌いだ····。
でも、私は彼女が忘れられない。
エリーが···。
世界中の誰よりも好きだよ。
お願いだから私だけを見て。
お願いだから私を思い出してよ···。
ねえ···。エリー。
私を忘れてしまった彼女が憎い。
私を思い出してくれない彼女が嫌い。
でも世界中の誰よりも···エリー。
君が好きなんだ。
女々しくも君を思う私を許して····。
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