【R18】【挿絵多い】ラバーマスクガール

まへまへ

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第36話 バカが大好き!

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ホテルの部屋に、ライトの白い光だけが浮かび上がっていた。

その光の中心に、艶やかなラバーを纏った順子が、静かに腰を下ろしていた。



赤いカラコンが光を反射し、黒いマスクとスーツが、彼女の身体の曲線をなぞるように張りついている。

編み上げのロングブーツが膝下を引き締め、ウエストを絞ったコルセットが、呼吸のたびにわずかに軋む音がする。

ラバーの光沢にシルバーの装飾がきらりと揺れるたび、空気が張り詰める。

ドアのノブが静かに回る音。

悟が、ゆっくりと部屋に入ってきた。

彼の目が順子の姿をとらえた瞬間、息を呑む音がはっきりと聞こえた。



視線が一瞬で吸い寄せられ、言葉を失う。

順子はライトの白い光を背に、悟の方へ身体を向けた。

ラバーの擦れる微かな音が、部屋の静寂を裂く。

「……悟……あの日の…続きを伝えるね……」

マスク越しの声は、震えていた。

けれど、その奥にあるのは迷いではなく、決意の響き。

「これが……私。こんな赤い目をして、こんな格好をして。本当の自分を見られることが怖いのに……でも、誰かにこの姿を見てもらうことで生きてた。それが、私のもうひとつの自分…」

悟は立ち尽くしたまま、唇を震わせていた。

その瞳の奥には、驚きと――痛いほどの真剣さ。

順子は、ゆっくりと自分の胸に手をかける。

「悟……嫌いになってもいい。でも、私の全部を見てほしい。あなたにだけは、隠したくない」

部屋のライトの光が、マスクの艶を強く照らす。

悟が、一歩、踏み出した。

その瞬間――彼の声が低く、震えながら漏れた。

「……嫌いになるわけないだろ。俺は、ずっと会いたかったんだ。その姿の……順子に」

順子の喉が詰まる。

息を吸うたび、ラバーの内側が熱を帯び、胸の奥がざわめいた。

「悟……」

声が掠れた。

手が自然に胸の前へ上がる。

その仕草ひとつに、悟の視線が絡みつく。

「この姿のとき、私はね……変われるの。普段は怖くて言えないことも、ラバーに包まれてると、ちゃんと口にできるの」

悟は黙って頷き、近づいた。

順子の目の奥に映る彼の姿が、少しずつ大きくなっていく。

「……だから今だけは、逃げないで見て。これが――私の、ほんとの気持ち」

順子の声は、かすかに震えていた。

それは恐怖ではなく、心の奥からあふれ出す“願い”の震えだった。

悟の目が、静かに彼女を見つめる。



ラバーの艶やかな表面がライトを受け、その黒い輝きの中に、彼自身の姿が滲んでいた。

「もう一人の私が、今ここにいるの。普段の私じゃ言えないこと、感じられないこと。
でも――あなたに見つめられて、全部、ほどけていくの」

悟は、何も言わなかった。

ただ一歩、また一歩と近づき、ラバーの上から彼女の肩に手を置いた。

その瞬間、順子の中で何かが解けたように、息が深く、静かに漏れた。

「悟……私、ずっと怖かった。こんな自分を知られたら、嫌われるって。でも今は、もう――怖くない」

悟の掌が、ゆっくりと彼女の頬のラインをなぞる。

ラバー越しの温もりが、まるで心に直接触れてくるようだった。

「順子……どんな姿でも、順子は順子だよ」

その言葉に、順子の世界が音を立てて崩れ、涙がマスクの内側を伝った。

彼女は悟に向かって、ただ、ありのままの自分で立ち続けた。

悟の腕が、静かに順子を包み込んだ。

ラバーの滑らかな質感と、内側に感じる確かな温もり。

それは初めて触れる感触でありながら、不思議と懐かしい安堵を伴っていた。



順子は、息を飲んだ。

――あぁ。

この姿で、好きな人に抱きしめられている。

夢のような、現実のような。

頭の奥が真っ白になって、言葉にならない幸福だけが広がっていった。

そのとき、悟がぽつりと呟いた。

「……うわ、これ……すごいな」

「え?」

と順子が顔を上げると、悟は真剣な顔のまま、ラバー越しの感触を確かめるように指先を滑らせていた。

「こんな感じなんだな……順子。ツルツルしてて、冷たいのに、内側はあったかい。すごい……見せて、触っていい? うわー、これ本物かぁ……」

興奮というより、まるで新しい発見を前にした子どものような声音。

順子は思わず吹き出した。

「……バカ。ムード、ぶち壊しじゃない」

悟は苦笑いしながら頭をかいた。

「だって、ずっと画面の中でしか見てなかったんだもん。まさか現実で順子が着てるなんて思わないだろ」

順子は笑いながら首を振った。

「ほんと、バカ。でも――そんな悟が…大好き!」

二人はしばらく何も言わず、静かに寄り添ったまま、ラバーの上から伝わる鼓動を感じていた。
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