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第一章 ーFirst Attackー
第2話 『しまなみの魔女、来訪』
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■ 和服美人、現る
夏の陽射しがアスファルトを照り返す午後、今治オートセンターの駐車場に一台のNBOXが静かに入ってきた。
そのドアが開き、現れたのは一人の和服美人。涼しげな薄紫の絽の着物に身を包み、しとやかに結い上げた髪。
水野志保は、このバイクショップの風景の中ではあまりに異質で、それでいて目を離せない存在感を放っていた。
――少し緊張するわね。
久しぶりに訪れるこの場所。懐かしい匂いがする。
志保は胸の奥に温かさと少しの切なさを感じながら、ゆっくりと店の中へ足を踏み入れた。
⸻
■ 社長との再会
店舗奥で作業していた誠一がふと顔を上げ、志保の姿に目を見開いた。
「社長!お久しぶりです!」
その声に、誠一は大きく目を見開き、すぐに破顔した。
「!!おお!!こんな所に凄い和服美人が現れたと思ったら……志保ちゃんじゃないか!いやぁ久しぶりだなぁ!」
志保は自然に笑みを返す。
「社長こそ、お元気そうで何よりですわ。現役時代は散々お世話になったのに……ご無沙汰してしまって申し訳ありません」
「何!良いって事よ!志保ちゃんの美人で元気な顔を今見られただけで十分さね」
「いやですわ社長。相変わらずお上手ですこと。うふふ」
懐かしい会話。
変わらぬ誠一の豪快な笑顔に、志保の緊張も和らいでいく。
⸻
■ 失われた日々の影
誠一はしばし彼女を見つめ、低い声で言った。
「……旦那と息子さんのこと、聞いたよ。その……残念だったな」
志保は微笑みを崩さず、しかし胸の奥でかすかな痛みが走った。
「はい……」
「正直、あの後志保ちゃんがどうなったか心配だった。だけど、大切な家族を失った志保ちゃんに会いに行くのが……怖くてな。本当に申し訳ない」
その言葉に、志保は柔らかく首を振った。
「そんな社長、気にしないでください。私の方こそ、今まで会いに来れなくてすみませんでした」
誠一は眉を寄せたまま、真剣な声で続けた。
「志保ちゃん、これから困ったことがあったら遠慮なくワシを頼ってくれ。あんたには……昔、良い夢を見させてもらったしな」
――社長、本当に変わっていない。
志保の胸にじんわりと温かさが広がる。
「はい。(……社長はお変わりなくて良かった)」
⸻
■ 甥への想い
「それで今日はどんな用なんだい?」
志保は微笑みを崩さず答える。
「まずは……甥の悠真さんがお世話になっている、その挨拶ですわね」
誠一は驚き、そして豪快に笑った。
「悠真!!そうか、あんたやっぱり悠真の保護者なのかい!いやぁ世間は狭いなぁ!!悠真の書類の保証人の欄見てて『まさかな』と思っちゃいたが」
「うふふ、そうですわね。まさか悠真さんが昔馴染みのバイク屋のお世話になっているなんて。私も悠真さんのバイクの書類を見て驚いちゃって」
「ってことは凛にも会ってるんだな」
志保は少し微笑を深め、懐かしむように言った。
「はい。凄い美人さんになっていて驚きました。しかも悠真さんと恋人になっちゃうなんて!最も彼女は今も『私だ』って気付いていないみたいですけど」
誠一は声を上げて笑った。
「全くあいつらしい」
⸻
■ リターン宣言
志保は少し姿勢を正し、ゆっくりと告げる。
「それともう一つは……私、実はリターンしようと思ってまして」
誠一は目を丸くし、やがて笑みを深める。
「ほう!それはそれは!遂にあの伝説の『しまなみの魔女』復活かい!?」
志保は肩をすくめ、穏やかな微笑み。
「そんな大層なものじゃありませんわ。ただ、一緒に走りたい子達に出会っちゃって」
「そうかそうか。ってことはウチでバイク買ってくれるって事だな!で、目当ての車種とかあるのかい?」
志保は持参したバイク雑誌を差し出し、ページを開いた。
「実はこのバイクが気になっていて……」
誠一の目が輝いた。
「ほう!まさか125とはな。ってことは一緒に走りたい子ってのは『しまなみブルー』の子達かい?」
「あら?分かります?うふふ」
「分かるも何も、凛や悠真が居るチームだしな!でもあの子らはツーリングがメインだから、競技畑で育った志保ちゃんには物足りやしないかい?」
「そんなことはありませんわ。私、元々ツーリングも大好きですし、それに彼女達が夢中になっているしまなみ海道――しまなみ原付道ですか?私、走ったことがないから興味津々なんですよ。しまなみの魔女なんて呼ばれていたのに皮肉ですけれど」
「なるほどなぁ。確かに原付道は今の志保ちゃんには良い刺激になるかも知れんなぁ」
「それにもう一つ、彼女達の技術を磨くお手伝いが出来たらと思うんです。技術が上がれば、その分安全にツーリングが楽しめますし」
「確かに志保ちゃんだったらあの子らの良い手本になるだろうな!」
志保は少し遠くを見るように目を細めた。
「後は……そうね。結さん、ですかね?」
「結ちゃん?あの子がどうかしたのかい?」
「結さんには悠真さんを助けて頂いた縁でお友達になりまして……私、彼女の事大好きなんです。なので私、彼女と共に走りたい。彼女がこのしまなみの地で何を見て、何を成し遂げようとしているのか……この目で見てみたい思ったんです。漠然としてますけど、そんな所ですわね」
「……全く、あの子の人間磁石っぷりには驚くばかりだ!まさかしまなみの魔女まで引き寄せるとはなぁ!」
誠一は腹を抱えて笑った。
⸻
■ 隼人登場
「そういうことなら、合わせたい奴が居る。おい、隼人!」
奥から姿を現したのは隼人。
「何だ親父?」
誠一が口角を上げる。
「お前は覚えてるだろ?松井志保ちゃん……今は水野か」
志保はにっこりと微笑んだ。
「お久しぶりですね隼人君。すっかりイケメンになっちゃって~!」
「し、しまなみの魔女!?しかも水野って……悠真の下宿先の!!」
「悠真さんは私の甥なのよ。うふふ」
隼人は呆然として口を開けたままだった。
⸻
■ 恋人発覚と志保の反応
「……で、社長、何で隼人君を?」
「聞いて驚くなよ?」
ニヤリと笑う誠一。
「隼人の彼女はな、その結ちゃんなんだ」
「!!あらあらあらまあまあまあ!!」
志保は両手で隼人の手を取り、嬉しそうに声を弾ませた。
「まさか結さんにこんなカッコイイ彼氏が居るなんて!!隼人君も隅に置けないわね!!二人ともとっても素敵でお似合いよ!!」
「ど、どうも……」
隼人は顔を赤らめ、居心地悪そうに視線を逸らした。
⸻
■ バイク発注
「で、だ。隼人、早速なんだがこいつを1台発注してくれや」
誠一が志保の持参したカタログを見せる。
「こいつは……まさか!」
誠一は笑いを抑えきれず、
「ククク、久々に血がたぎるわい!!」
「相変わらずですわね社長。うふふ」
「志保ちゃん、このバイクで要望とかあるのかい?」
「そうですわね……パープルとかバイオレットとか、紫系の色が好ましいんですけれど」
「相変わらず紫が好きだなぁ志保ちゃんは!だが生憎カタログにはそれ系の色は無いな。よし、じゃあ塗るか!」
「あら……良いんですの?」
「幸い、この隼人は塗装が大の得意分野だ。結ちゃんのジスペケの中古外装を新品同様に綺麗にしたのもこいつだしな!だとすれば色は何でも良いな。人気車種だがそれなら早く入荷できそうだ」
「わかった。それなら早く入荷できそうなヤツが無いか調べとく」
⸻
■ 凛の絶叫
そこに奥から凛が現れた。
「兄貴~、あたしの六角レンチセット知らない?」
志保は優雅に微笑みかけた。
「あら凛さん、ごきげんよう」
「へ!?し、志保さん!?なぜこの店に!?」
「バイクを注文にね。うふふ」
「へ?そ、それはどういう……?」
凛は混乱して首をかしげる。バイクと志保が結びつかないのは当然だった。
誠一が口元を吊り上げ、声を響かせた。
「お前、まだ気付いとらんのか!この子の旧姓は松井。松井志保。お前の憧れている『しまなみの魔女』その人だぞ」
「えええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
凛の絶叫が、夏の空気を震わせるように今治オートセンターにこだました。
To be continued....
夏の陽射しがアスファルトを照り返す午後、今治オートセンターの駐車場に一台のNBOXが静かに入ってきた。
そのドアが開き、現れたのは一人の和服美人。涼しげな薄紫の絽の着物に身を包み、しとやかに結い上げた髪。
水野志保は、このバイクショップの風景の中ではあまりに異質で、それでいて目を離せない存在感を放っていた。
――少し緊張するわね。
久しぶりに訪れるこの場所。懐かしい匂いがする。
志保は胸の奥に温かさと少しの切なさを感じながら、ゆっくりと店の中へ足を踏み入れた。
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■ 社長との再会
店舗奥で作業していた誠一がふと顔を上げ、志保の姿に目を見開いた。
「社長!お久しぶりです!」
その声に、誠一は大きく目を見開き、すぐに破顔した。
「!!おお!!こんな所に凄い和服美人が現れたと思ったら……志保ちゃんじゃないか!いやぁ久しぶりだなぁ!」
志保は自然に笑みを返す。
「社長こそ、お元気そうで何よりですわ。現役時代は散々お世話になったのに……ご無沙汰してしまって申し訳ありません」
「何!良いって事よ!志保ちゃんの美人で元気な顔を今見られただけで十分さね」
「いやですわ社長。相変わらずお上手ですこと。うふふ」
懐かしい会話。
変わらぬ誠一の豪快な笑顔に、志保の緊張も和らいでいく。
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■ 失われた日々の影
誠一はしばし彼女を見つめ、低い声で言った。
「……旦那と息子さんのこと、聞いたよ。その……残念だったな」
志保は微笑みを崩さず、しかし胸の奥でかすかな痛みが走った。
「はい……」
「正直、あの後志保ちゃんがどうなったか心配だった。だけど、大切な家族を失った志保ちゃんに会いに行くのが……怖くてな。本当に申し訳ない」
その言葉に、志保は柔らかく首を振った。
「そんな社長、気にしないでください。私の方こそ、今まで会いに来れなくてすみませんでした」
誠一は眉を寄せたまま、真剣な声で続けた。
「志保ちゃん、これから困ったことがあったら遠慮なくワシを頼ってくれ。あんたには……昔、良い夢を見させてもらったしな」
――社長、本当に変わっていない。
志保の胸にじんわりと温かさが広がる。
「はい。(……社長はお変わりなくて良かった)」
⸻
■ 甥への想い
「それで今日はどんな用なんだい?」
志保は微笑みを崩さず答える。
「まずは……甥の悠真さんがお世話になっている、その挨拶ですわね」
誠一は驚き、そして豪快に笑った。
「悠真!!そうか、あんたやっぱり悠真の保護者なのかい!いやぁ世間は狭いなぁ!!悠真の書類の保証人の欄見てて『まさかな』と思っちゃいたが」
「うふふ、そうですわね。まさか悠真さんが昔馴染みのバイク屋のお世話になっているなんて。私も悠真さんのバイクの書類を見て驚いちゃって」
「ってことは凛にも会ってるんだな」
志保は少し微笑を深め、懐かしむように言った。
「はい。凄い美人さんになっていて驚きました。しかも悠真さんと恋人になっちゃうなんて!最も彼女は今も『私だ』って気付いていないみたいですけど」
誠一は声を上げて笑った。
「全くあいつらしい」
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■ リターン宣言
志保は少し姿勢を正し、ゆっくりと告げる。
「それともう一つは……私、実はリターンしようと思ってまして」
誠一は目を丸くし、やがて笑みを深める。
「ほう!それはそれは!遂にあの伝説の『しまなみの魔女』復活かい!?」
志保は肩をすくめ、穏やかな微笑み。
「そんな大層なものじゃありませんわ。ただ、一緒に走りたい子達に出会っちゃって」
「そうかそうか。ってことはウチでバイク買ってくれるって事だな!で、目当ての車種とかあるのかい?」
志保は持参したバイク雑誌を差し出し、ページを開いた。
「実はこのバイクが気になっていて……」
誠一の目が輝いた。
「ほう!まさか125とはな。ってことは一緒に走りたい子ってのは『しまなみブルー』の子達かい?」
「あら?分かります?うふふ」
「分かるも何も、凛や悠真が居るチームだしな!でもあの子らはツーリングがメインだから、競技畑で育った志保ちゃんには物足りやしないかい?」
「そんなことはありませんわ。私、元々ツーリングも大好きですし、それに彼女達が夢中になっているしまなみ海道――しまなみ原付道ですか?私、走ったことがないから興味津々なんですよ。しまなみの魔女なんて呼ばれていたのに皮肉ですけれど」
「なるほどなぁ。確かに原付道は今の志保ちゃんには良い刺激になるかも知れんなぁ」
「それにもう一つ、彼女達の技術を磨くお手伝いが出来たらと思うんです。技術が上がれば、その分安全にツーリングが楽しめますし」
「確かに志保ちゃんだったらあの子らの良い手本になるだろうな!」
志保は少し遠くを見るように目を細めた。
「後は……そうね。結さん、ですかね?」
「結ちゃん?あの子がどうかしたのかい?」
「結さんには悠真さんを助けて頂いた縁でお友達になりまして……私、彼女の事大好きなんです。なので私、彼女と共に走りたい。彼女がこのしまなみの地で何を見て、何を成し遂げようとしているのか……この目で見てみたい思ったんです。漠然としてますけど、そんな所ですわね」
「……全く、あの子の人間磁石っぷりには驚くばかりだ!まさかしまなみの魔女まで引き寄せるとはなぁ!」
誠一は腹を抱えて笑った。
⸻
■ 隼人登場
「そういうことなら、合わせたい奴が居る。おい、隼人!」
奥から姿を現したのは隼人。
「何だ親父?」
誠一が口角を上げる。
「お前は覚えてるだろ?松井志保ちゃん……今は水野か」
志保はにっこりと微笑んだ。
「お久しぶりですね隼人君。すっかりイケメンになっちゃって~!」
「し、しまなみの魔女!?しかも水野って……悠真の下宿先の!!」
「悠真さんは私の甥なのよ。うふふ」
隼人は呆然として口を開けたままだった。
⸻
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「……で、社長、何で隼人君を?」
「聞いて驚くなよ?」
ニヤリと笑う誠一。
「隼人の彼女はな、その結ちゃんなんだ」
「!!あらあらあらまあまあまあ!!」
志保は両手で隼人の手を取り、嬉しそうに声を弾ませた。
「まさか結さんにこんなカッコイイ彼氏が居るなんて!!隼人君も隅に置けないわね!!二人ともとっても素敵でお似合いよ!!」
「ど、どうも……」
隼人は顔を赤らめ、居心地悪そうに視線を逸らした。
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■ バイク発注
「で、だ。隼人、早速なんだがこいつを1台発注してくれや」
誠一が志保の持参したカタログを見せる。
「こいつは……まさか!」
誠一は笑いを抑えきれず、
「ククク、久々に血がたぎるわい!!」
「相変わらずですわね社長。うふふ」
「志保ちゃん、このバイクで要望とかあるのかい?」
「そうですわね……パープルとかバイオレットとか、紫系の色が好ましいんですけれど」
「相変わらず紫が好きだなぁ志保ちゃんは!だが生憎カタログにはそれ系の色は無いな。よし、じゃあ塗るか!」
「あら……良いんですの?」
「幸い、この隼人は塗装が大の得意分野だ。結ちゃんのジスペケの中古外装を新品同様に綺麗にしたのもこいつだしな!だとすれば色は何でも良いな。人気車種だがそれなら早く入荷できそうだ」
「わかった。それなら早く入荷できそうなヤツが無いか調べとく」
⸻
■ 凛の絶叫
そこに奥から凛が現れた。
「兄貴~、あたしの六角レンチセット知らない?」
志保は優雅に微笑みかけた。
「あら凛さん、ごきげんよう」
「へ!?し、志保さん!?なぜこの店に!?」
「バイクを注文にね。うふふ」
「へ?そ、それはどういう……?」
凛は混乱して首をかしげる。バイクと志保が結びつかないのは当然だった。
誠一が口元を吊り上げ、声を響かせた。
「お前、まだ気付いとらんのか!この子の旧姓は松井。松井志保。お前の憧れている『しまなみの魔女』その人だぞ」
「えええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
凛の絶叫が、夏の空気を震わせるように今治オートセンターにこだました。
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