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第一章 ーFirst Attackー

第4話 『魔女のいたずら、夏のドッキリ大作戦!』

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 夏の日差しが眩しい午後。

 真新しいバイオレットカラーのXSR125のシートに腰掛けながら、志保は軽くクラッチレバーを握った。
 グローブ越しでも、その軽さはすぐに伝わってくる。

 「……ふふ。125だけど、思ってた以上にパワーあるわね。それに……クラッチが軽い。これが、アシスト&スリッパークラッチってやつね」

 まるで昔の愛車たちが進化を遂げて、帰ってきたかのようだった。
 ブランクがあるとは思えないほど、体が自然と反応していく。
 ギアを一段落とす感覚、エンジンの鼓動、そして目の前に広がる道――そのすべてが、志保の五感を刺激していた。



 前を走るCB125Rから、凛の声がインカム越しに弾む。

 「志保さん!XSRはどうですか?」

 「この子、とっても素直で扱いやすいわ。久々のバイクでブランクはあるけれど……この子とだったら、どこまでも走っていけそう」

 声の調子に、迷いはなかった。
 久しぶりの風が、志保の心に新しい命を吹き込んでいた。

 「そうですか!良かった……!父さん、特に熱を上げてましたけど、逆に乗りにくくなってないか心配で」

 志保はふっと笑った。
 「そんなことないわ。社長はむしろ、乗りやすくするために足回りをセッティングしたんだと思うの。私のクセや好みを知り尽くしてるからこそ、できることだわ」



 インカム越しの会話は、まるで並んで歩いているような親しさを生んでいた。
 そのことに、凛も気づいている。

 「志保さん、ありがとう!……それにしても、なんだか新鮮!志保さんとこうしてバイクの話ができるなんて」

 「私も新鮮ね。こうして走りながら会話できるなんて。凛さんのオススメでインカム、買っておいてよかったわ。うふふ」

 「今やインカムはライダーとしての必須装備ですからね!……ていうか、志保さんの時代にはインカム、ありませんでしたっけ?」

 「確か、あったとは思うけど……付けてるライダーはまだ少なかったと思うわ。対応してるヘルメットも少なかったんじゃないかしら」



 そんな話をしているうちに、二人のバイクは水野邸へと近づいていた。
 志保のアライ製のフルフェイスヘルメットには、ミラーシールドが装着されており、顔の輪郭すら見えない。
 ――悠真には、気づかせないため。
 それが今日の「いたずら」のキモだった。



■ 水野邸にて

 ガレージの脇では、悠真が愛車のGSX-R125「ワルキューレ」を洗車していた。
 水を拭き上げるタオルの手を止め、彼女は振り向く。

 「凛、いらっしゃい!」

 「よっ!来たよ!」

 悠真は隣にいた人物に目を向け、首をかしげる。
 「……あれ?その方は?」

 「えっとね~、私の新しいバイク仲間……ってところかな?」
 少しおどけたように凛が続ける。
 「悠真、これから近見山展望台まで一緒に走らない?」

 「いいね!もうすぐ洗車終わるから、ちょっとだけ待ってて!」



 一方で、志保はミラーシールドの内側で密かに額に汗をかいていた。

 (ふぅ……いくら悠真さんを驚かすためとはいえ、夏場にずっとヘルメットを被りっぱなしは、なかなか堪えるわね……)



 しばらくして、ワルキューレのエンジンがかかる。

 「お待たせ!!それじゃ、一緒に行こう!そちらの方も、よろしくお願いします!」

 志保は無言で、軽くこくりと頷いた。
 ――これで準備は整った。
 志保のドッキリ大作戦、いよいよ本番である。



■ しまなみの道を駆けて

 三台のバイクが出発する。
 目的地は、見晴らしの良い近見山展望台。

 先頭を走るのは、道を知り尽くした志保だった。
 その背中に、少しだけ楽しげな“魔女の気配”が漂っている。

 (近見山は久しぶりね……ちょっと、はしゃいじゃおうかしら)



 その後ろで、悠真がぽつりとこぼす。

 「あのさ……あの方の紹介、まだなんだけど」

 凛は少し悪戯っぽく笑ってみせる。

 「慌てない慌てない。近見山着いたら紹介するから、ね?」

 悠真は志保のバイクに目を向ける。

 「それにしても、凄いバイクだよね。XSRだっけ?同じ125とは思えないし、色もバイオレットなんて見たことないよ」

 「バ……ソウダヨネ~アハハ!」
 明らかに不自然な凛の返し。

 「……なんでカタコトなの?凛、ボクに何か隠してるよね?」

 「へ?そ、そんなことないけど……」

 「……ふ~ん?」
 疑いの目を向けながらも、悠真はまだ確信には至らない。



 そうこうしているうちに、近見山の登り坂に差しかかった。
 次の瞬間――

 志保のXSRが加速する。

 風を切る音が一気に高まり、あっという間に視界から消えるような速さで、急勾配を駆け上がっていった。



 「速っ!!この道、結構荒れてるのに……!!」
 凛は驚愕と興奮を交えながらつぶやく。

 (こ、これがしまなみの魔女の実力……!!)

 「何あの人!!めちゃくちゃ速い!!」
 悠真の目も釘付けになる。



 「……目的地は一緒だから、慌てないで行こ。あたし達が無理にあのペースで追ったりしたら、危ないからね」

 「う、うん……(それにしても、誰なんだろう……?)」



■ そして、真実の時

 やがて、二人は展望台の駐車場に到着する。
 そこには、すでにXSRを降り、ヘルメットを脱いで微笑む志保の姿があった。



 紫のヘルメットから現れた艶やかな黒髪。
 その穏やかな微笑みに――悠真は固まった。



 「来たわね、悠真さん。うふふ」

 その声が耳に届いた瞬間、悠真の全身が硬直する。

 「し、志保さん!?ええっ!!えええっ!!えええええええっ!!」



 悠真の絶叫が、近見山にこだました。



 「あらあら。悠真さんは大袈裟ねぇ。うふふ」

 「いや、その反応をむしろ狙ってたんでしょ?全くもう……」
 凛が呆れたように言いながらも、どこか楽しげだった。

 「クスクス……」

 志保は、まるで子供のような笑みを浮かべる。
 その表情には、かつての影など微塵もなく――ただ、夏の風のように自由で、軽やかだった。

 こうして、“魔女の悪戯”は、見事に成功を収めたのだった。

 To be continued....
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