12 / 103

第12話 『キャンプと星と、そして名前』

しおりを挟む
Scene.01 キャンプツーリング出発!

 瀬戸内の朝は、少し肌寒い潮風と、どこか甘い匂いを含んだ空気に満ちていた。
 港沿いの駐車場に、4台の原付二種が並ぶ。ジスペケ、CT125、CB125R、そしてGROM。
 それぞれのバイクが朝日を受けてきらりと光る。

 「CT125でキャンプ道具運ぶのは楽勝やけどな~。結ちゃんのジスペケにリアボックス付けたんは正解やったな」
 彩花がリアキャリアをぽんと叩く。

 「ほんと……最初は“ダサいかな”って思ってたけど、もう手放せない……!」
 結は照れ笑いしながらボックスを撫でた。

 悠真は少し離れた場所で、GROMのハンドルを握ったまま深呼吸していた。
 (今日は……凛ちゃん以外の二人も、ボクが“男の子”だって知った後、初めての旅)

 視線の先で、結と彩花が自然に笑っている。その笑顔が優しくて、胸が少し熱くなる。
 ――でも、不安は完全には消えていなかった。

 (もし……少しでも、ボクを“仲間”じゃなく“変な人”として見てたら……)

 胸がざわつくたび、隼人から借りたタンクバッグのジッパーをきゅっと締め、
 「がんばろう……」と小さく呟いた。

 やがて4台のエンジンが同時に目を覚ます。
 その音は、不安を少しずつかき消し、代わりに勇気を鼓動のように送り込んでいた。



Scene.02 テントの中で

 昼過ぎ、大三島の「うてなキャンプ場」に到着した4人は、協力してテントを張り終えると、簡易コンロで炊いたご飯とスキレットで焼いた肉を囲んだ。



 夜の帳が降りるころ、焚き火の炎がゆらめき、星空が果てしなく広がっていた。

 「星、めっちゃ綺麗やな……」
 彩花が空を見上げる。火の光に照らされた頬が赤い。

 「ここまで空が広いと、自分がちっぽけに思えるよね」
 結がそっと呟く。

 「ちっぽけでもええんやで。風受けてるうちは、前向ける。な?」
 彩花の言葉に、結は「うん」と微笑み返した。

 悠真は焚き火を見つめていた。炎が映る瞳がゆらゆら揺れている。
 (言いたい……もう逃げるのは嫌だ。ここでなら、きっと受け止めてもらえる)

 大きく息を吸い込み、勇気を振り絞った。

 「ボクの名前……“悠真”って、父さんがつけたんです。
 “真っ直ぐに、悠々と生きてほしい”って意味らしいんですけど……正直、ずっと嫌いでした。
 真っ直ぐなんて、生きられないと思ってたから」

 焚き火がパチパチと音を立て、誰も言葉を挟まない。

 「でも……この間、結さんと話して、思ったんです。
 ボク、自分から逃げたくない。
 “悠真”って名前、いつか好きになれるように……バイクに乗って、ちゃんと前を向きたいって」



 その声は震えていたが、確かに強さを帯びていた。

 結が穏やかに微笑む。
 「いい名前じゃん。悠真ちゃんにすごく似合ってると思う」

 彩花も頷き、真剣な眼差しで言った。
 「せやな。“ボク”でも“私”でも、悠真ちゃんは悠真ちゃんや」

 悠真は俯いたまま、頬が熱くなり、胸がいっぱいになる。
 「……ありがとう。本当に、ありがとう」



Scene.03 テント越しのやさしい声

 深夜。
 テントの外は静かで、波の音と虫の声だけが混じり合っていた。
 皆が寝静まった後、凛のテントだけがまだ小さな灯りを灯していた。

 ファスナーがかすかに揺れる。
 「……起きてる?」

 「ん、起きてるよ。入れば?」

 悠真はそっとテントに入り、狭い空間で膝を抱えて座った。
 言葉を探す間もなく、凛が先に口を開いた。

 「……頑張ったね。今日」

 その一言が胸に刺さり、涙がこみ上げる。
 「ありがとう、凛ちゃん……もし、凛ちゃんがいなかったら、ボク……きっとこの旅にすら来れなかった」

 凛はふっと笑い、悠真の肩にタオルケットをかけた。
 「じゃあ、これからも一緒に走ろ。あたしたちだけの“正解”を、見つけるまでさ」

 その優しさに、悠真の瞳から小さな涙が零れた。
 (ボクは、もうひとりじゃない)



Scene.04 夜明けと共に

 夜が明けると、瀬戸内の海は朝日に染まり、金色の光がテントを照らしていた。
 焚き火の匂いがまだ残る空気の中、彩花が元気よく声を上げる。

 「さ、今日も走るで~!」

 結と凛が笑顔で応えた。
 悠真はGROMのミラーに映る自分を見つめ、深く息を吸った。

 (昨日よりも、ボクは少し強くなった)

 「……“悠真”で、よかった」

 GROMのエンジンが軽やかに響く。
 4人の心は、昨日よりもさらに強く結ばれていた。



――名前は、風に乗って、
ゆっくりと、自分の居場所を教えてくれる。

To be Continued...
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。 「だって顔に大きな傷があるんだもん!」 体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。 実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。 寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。 スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。 ※フィクションです。 ※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...