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第20話 『海風、追い越し、シグナルブルー』

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Scene.01 走り出す四人、再びしまなみ海道へ

 見近島のキャンプ場を後にした四人のバイクが、朝の静けさを裂くようにエンジンを鳴らし、しまなみ海道の橋を渡っていく。

 潮風がテントを畳んだ後の熱をさらっていく中、海に光の道が伸びていた。早朝の太陽は橋の支柱に影を落としながら、ゆっくりと空を登っていく。

 「見近島、最高やったな~! 今度はもうちょいゆっくりしたいなぁ」

 インカム越しに彩花の明るい声が響く。その言葉には、惜しむような余韻と、次を楽しみにする期待が混ざっていた。

 「彩花さん、次は連泊で焚き火とか?」

 後方を走る結の声が返る。ジスペケのエンジン音に乗せて、どこか微笑ましい空気が流れた。

 「そやそや、ウチ、焚き火好きやねん。あんなん眺めてたら、心がジワァ~っと温なるやん?」

 「でも、直火禁止だったよね……」

 凛の声には、あきれ半分、呆れ半分の響きが混じっていた。

 「ほなシート敷いたらオッケーちゃう? ほら、うまいことやったらバレへんし?」

 「いや、それアウトでしょ……」

 朝の橋を走るバイクの音と共に、笑いがインカムに混ざって弾けた。

 そんな会話の後、少し静けさが戻ったとき、悠真がぽつりと語った。

 「……それにしても、本当にいいところだった。夜の海ってちょっと怖かったけど、星がすごく綺麗で……」

 「悠真ちゃん、かなり気に入ってたみたいね」

 結の言葉には、ほっとしたような安堵が滲む。

 「うん。なんだか夢みたいだった。……初めてじゃないはずなのに、バイクで旅してるって、やっぱり不思議な感じがするんだ」

 その呟きに、結はふっと目を細め、ヘルメット越しに海を見やった。

 (うん、きっとそれが“旅”なんだよね)

 静かに流れる潮風が、四人のバイクの背中を押していた。



Scene.02 大島の絶景と、それぞれの速度

 大島に差しかかると、景色が一変する。緑濃い山々が近づき、道はカーブを描いて森の中に吸い込まれていく。

 「じゃあ、ここからちょっとフリーで走ろうか」

 先頭を走っていた凛がそう提案すると、三人の声がインカム越しに応じた。

 「OKやで~!」

 「了解!」

 「は、はいっ!」

 凛のCB125Rはスッと車体を倒し、次々とコーナーを抜けていく。マットシルバーの車体が、柔らかい朝の光を弾きながら、森の中に溶け込んでいくようだった。

 「……ほんと、凛ちゃんの走りって無駄がないよなぁ……」

 結が感心したように言うと、彩花が楽しげに笑った。

 「そやろ? あの子、前にも言うたけどうちの妹の学校でも有名やって。あのバイクの子、超イケメンやってな!」

 「バイク乗ってるときの凛ちゃんは、イケメンだもんね……」

 一方で悠真は、少しだけ遅れて後ろを走っていた。

 GROMのエンジン音が軽快に響く。けれど彼の瞳には、真剣な光が宿っていた。

 「……わあ……やっぱり、この感覚……」

 幾度となく練習したライン取り。そのひとつひとつが、今は感覚に溶け込んでいた。

 「地平線が、カーブと一緒に斜めになってく……まるで景色の方が動いてるみたい……!」

 (いつも思うけど、これが……“バイクで曲がる”ってやつ、なんだよね)

 前を行く凛の後ろ姿に、憧れにも似た視線を送る。

 「ボクも……もっと上手くなりたいな」

 その声は、誰に向けるでもなく、ヘルメットの中に吸い込まれていった。



Scene.03 GSX-R125、再登場

 朝の静けさの中、バイクの一団に別の音が混ざった。

 「来たね」

 凛がミラーをちらりと覗き、声を落とす。

 背後から聞こえてきたのは、乾いたマフラー音――隼人のGSX-R125だ。

 青のフルカウルに身を包み、ヘルメット越しに軽やかな動きで追いついてくる姿は、見慣れた中にもどこか頼もしさがある。



 「おっ、イケメン登場やな~!」

 彩花の声が弾む。

 結は思わず笑ってしまいながらも、隼人を見つめていた。

 「どうして分かったの?」

 「エンジン音と、あたしの兄貴の走り方。癖、あるんだよ。あの人」

 軽く手を挙げる隼人に、皆がそれぞれ手を振る。

 「よう、調子良さそうだな」

 インカム越しに、少しだけ懐かしさを含んだ声が届く。

 「うん、思ったよりも快調。っていうか……来てくれると思わなかった」

 「お前らだけ楽しんでるの、ずるいと思ってな」

 それだけ言って、彼はスロットルを開ける。

 軽やかに前に出ていく青いマシン。その背中を見送りながら、凛が小さく笑った。

 「わっ、兄貴、急に加速するし!」

 「さすがやなぁ……あの人、ほんま自由人やで」



Scene.04 海辺のファミマと、青い缶コーヒー

 少し走った先、海沿いにぽつんと佇むファミリーマートの駐車場。白い外壁とガラスの窓が、日差しを跳ね返していた。

 バイクをきれいに並べ、四人と一人は自販機横に立ち止まる。

 「……青い缶、似合ってるね。R125にぴったり?」

 凛が軽口をたたくと、彩花がすかさず乗った。

 「ほんまや、これってもしかしてコラボしてるんちゃうん?」

 「違うよ! たまたま、青が目に入っただけで……!」

 顔を赤らめた結に、二人の視線が集中する。

 「へぇ~、ええセンスやん?」

 照れ隠しのように缶を握りしめる結。

 その様子を、隼人は微笑みながら見つめていた。

 その視線には、無言のやさしさと、どこか誇らしげな感情が込められていた。

 青い海と、青い空。

 そして、青い缶を手にした少女――

 その光景が、しまなみの旅に新しい記憶を刻んでいた。



――またひとつ、季節が近づく。

海風の匂いが、午後の陽射しに溶けていった。

To be Continued...
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