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第58話 『閑話 彩花・昼休みのプレゼン極意講座』

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 "運命の日"の前日。

 昼休みの空気は、ビルの屋上にほどよい静けさを運んでいた。

 日差しは明るく、風は少しだけ冷たい。

 瀬戸結はスカートの裾を押さえながら、コンビニのサラダラップを手に、ベンチに腰を下ろしていた。

 その隣には、営業部のエース――伊吹彩花が座っている。

 手にはサンドイッチとブラックコーヒー。いつものように余裕のある微笑みを浮かべていた。



 「で、何やっけ? 聞きたいことがあるって言うから、昼休み付き合ったんやけど?」

 「……うん。あのね、ちょっと真面目な相談なんだけど」

 結は小さく深呼吸をしてから、真っ直ぐに彩花を見つめた。

 「私、明日――悠真ちゃんのお父さんに会いに行こうと思ってるの。話を、したくて」

 「……え、マジで?」

 「うん」

 「てことは……アポは?」

 「……取ってない。突撃するつもり」

 「……突撃ぃ?」

 彩花はあんぐりと口を開けたまま一瞬固まったが、すぐにおかしそうに笑い出した。

 「結ちゃん、アンタ営業じゃないのに、そういう根性だけは営業超えてるやん」



 「でも、やっぱりちゃんと伝えたい。悠真ちゃんが、どんなふうに過ごしてきたか、どんなふうに仲間たちと繋がってきたか……
 それを一番そばで見てた私が、話さなきゃって思って」

 「ふむふむ……動機はOK。んで、手段は……“無計画の突撃”。」

 「言い方……」

 彩花は最後の一口を頬張りながら、空を見上げる。

 「なぁ、結ちゃん。プレゼンの極意、知っとるか?」

 「えっ?」

 「プレゼンてな、“覚悟”と“誠意”がないヤツがやると、ただの詐欺まがいや」

 「でも、覚悟を持って、相手をちゃんと理解して、そして“心から伝えたい”って思っとる人がやるプレゼンはな……」

 彩花は結の方に向き直り、人差し指を立てる。

 「伝わるで、ちゃんと」



🌸彩花のプレゼン指南

 「まず一個目、“共感”。相手の立場になって考えること。
 『ご心配なのはよく分かります』って、ちゃんと口にすること」

 「二つ目、“覚悟”。
 自分がただの友達とかじゃなく、どこまで悠真ちゃんと関わってるかを言葉で示す。
 これは、体裁より“心の熱”や」

 「最後、三つ目、“尊重”。
 最終的には、悠真ちゃん自身の意志を一番に置く。
 親でも先生でも代わりに決めるんやない。本人がどうしたいか、それを支える存在であるって言うことや」



 「……なんか、すごい。彩花さんって、いつもこんなこと考えながらお客さんと話してるの?」

 「当たり前やろ~。ウチら、“口だけの営業”ちゃうで。
 相手の心に届くように言葉を重ねるんが、営業の本質や」

 結は、頬を染めながらぎゅっと胸の前で手を握る。

 「……ありがとう。ちょっと、自信出てきた」

 「そんで? 一人で行くつもりなん?」

 「え……うん、そのつもりだけど」

 「……よし。じゃ、ウチも有給取るわ」

 「えっ!? い、いいの? 彩花さん、仕事……!」

 「こちとら今日中に見積もり三本片付けたら明日は暇やねん。
 それに、結ちゃんがそこまで本気で動くんやったら──ウチも乗ったるわ」

 「彩花さん……!」

 「どうせやったら、ウチが横で“アポ取り営業”の真似事でもしよか?
 玄関でチャイム押すだけでも心強いやろ?」

 「……うんっ!」



 風が吹いた。
 春の街を通り抜ける風が、どこか清々しかった。

 その風の中で、ふたりの背中はまっすぐ前を向いていた。



 明日――運命の一日。
 それは、ただの“説得”なんかじゃない。

 “仲間の未来”を、誰より信じている者たちが挑む、
 決意の一歩だった。

To be Continued...
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