60 / 103

第60話 『 運命の日 〜しまなみブルーの長い一日〜 PART2』

しおりを挟む
 Scene.03 疾走の決意と対峙

 時を少し遡る。悠真が父と対峙していたまさにその頃――

 水野邸へと続く静かな県道を、2台のバイクが颯爽と走っていた。

 ジスペケの軽やかな排気音。その背後には、ずんぐりとしたフォルムのハンターカブが続く。
 前を走るのは瀬戸結、後ろは伊吹彩花。互いに息の合った走行ラインだった。

 「しかし思い切ったなぁ~。あの二人のためとはいえ、ちょっと入れ込み過ぎちゃうん?」

 インカム越し、彩花の声が軽く響いた。

 「そうかも。でも……それでも、いいと思ってる」

 結の声は、落ち着いていたが、確かな意志に満ちていた。

 「私、昔は自分に自信がなかったんだよ。覚えてる? 彩花さん、前に言ってたでしょ?『ウチの会社入ったとき、頼りなさそうって思っとった』って」

 「あー……そないなこと言うたかも知れんな~」

 照れ笑い混じりの返事。

 「でも今は違うやろ? 結ちゃん、立派に変わったで」

 「……私自身はまだまだだけど。でも、あの頃よりは強くなれたって思う。バイクや、隼人くん。それに凛ちゃんや、彩花さんや、悠真ちゃん――仲間が私を変えてくれたの」

 「……」

 「だからね。私はもう、今の日常を失いたくない。みんなで走って、笑って、たまに喧嘩もして、でも一緒にキャンプして……そんな風に、一緒に前に進んでいきたいの」

 結の声は少し震えていたが、それでも迷いはなかった。

 「それを守るためなら、私にできることは何でもする。今回だけは、私が前に出る番だって思ったの」

 インカムの向こうで彩花は小さく笑う。

 「……結ちゃん、ほんま立派になったなぁ。……ウチが男やったら惚れてまうかも」

 「……やめてよ、からかわないで」

 結は少し笑いながらも、視線は水野邸へと向けていた。

 「でも、昨日も言うたけど……突撃やなんて、ホンマ思いきったな~。普通、根回しとか作戦とか考えるんちゃう?」

 「うん。でも……悠真ちゃんのお父さん、武道家でしょ?」

 「せやな。確か、段持ちって聞いたで?」

 「だから通じると思ったの。策じゃなくて、気持ちでぶつかる方がいいって。正面から、正直に。逃げずに話すしかないって……そう思って」

 「……うん、なるほどな。あ、見えてきた。あれが水野邸やね」

 二人のバイクは、ゆっくりと減速し、水野邸の前で止まった――その瞬間。

 「結さんっ!!」

 駆け下りてきた一人の少年が、表の通りに飛び出してきた。

 「悠真ちゃん!?」

 結が驚きと共にヘルメットを外す。

 目の前に現れた悠真は、荒い呼吸のまま駆け寄ってくる。
 その目には、強い焦りと決意が入り混じった光が宿っていた。

 「凛が! 凛が大変なんです!!」

 その言葉に、結の全身が電流に打たれたかのように強張った。

 「……!」

 すぐに事情を察した結は、ジスペケのハンドルに手をかけた。

 「悠真ちゃん、乗って!」

 「えっ!?」

 「乗って! 時間がないんでしょ!?」

 「で、でもっ……それ、結さんの大事なバイクじゃ……!」

 「大丈夫。悠真ちゃんなら壊さないって、信じてるから」

 「でも……っ!」

 「それに、もし壊れたとしても……私、後悔しないと思うの。今は、それよりも大事なことがある」

 「……結さん……!」

 涙を滲ませながら、悠真は深く頷いた。

 「ありがとう……! ありがとう!!」

 そう言って結の差し出したヘルメットを受け取り、ジスペケに跨がる。

 エンジンが唸りを上げると同時に、悠真の身体は風を切って駆け出していった。

 「……結ちゃん、ええの?」

 隣で彩花が尋ねる。

 結は、風にさらわれたジスペケの背中を見つめたまま、静かに答える。

 「……私、最近ね。悠真ちゃんの後ろを走ってると、凛ちゃんを重ねてしまうことがあるんだ」

 「……それって……」

 「今の悠真ちゃん、多分……私よりずっと、上手いよ」

 「……」

 「だから、大丈夫。あの子なら、絶対に――間に合う」

 そう話す結、だが心の中で。

 (もう!一体あの人何やってるのよ!)

 その目には怒りが宿っていた。結はスマホを取り出し、LINEを立ち上げ、ある人物に短く連絡を送る。

 “お願い。動いて”

 「……これで、よしっと」

 「誰に送ったん?」

 「ん~。"波工のヤンクミ"って呼ばれてる人?」

 「…………そんな二つ名持っとる人と知り合いやなんて、結ちゃん、あんた何者!?」

 「え? ただのOLだけど?」



 くすっと笑ってウインクする結に、彩花が盛大にズッコケそうになった。

 「それ、誰もが一度は言ってみたいセリフや!」

 「ふふ。……でも、凛ちゃんのことは悠真ちゃんとあの人に任せればきっと大丈夫。私たちは、今やるべきことを――」

 その時、背後から人の気配がした。

 振り向いた結の目の前に立っていたのは――

 「……悠真くんのお父さん、ですよね?」

 背筋を伸ばし、静かに頭を下げる結。

 「はじめまして。瀬戸結と申します。今日は……お話があって、伺いました」

To be Continued...
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。 「だって顔に大きな傷があるんだもん!」 体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。 実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。 寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。 スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。 ※フィクションです。 ※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...