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第93話 『橘家の夜 後編』

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Scene.05 告白と乱入

 結の表情がふっと翳り、隼人の問いに頷いた。
 「……隼人くん、鋭い!」

 少し間を置き、結は覚悟を決めたように口を開いた。
 「これは隼人くんだから話すんだけど、私とお姉ちゃんは異母姉妹なの。お父さんとお母さんは再婚同士で……お父さんの連れ子だった人がお姉ちゃん」

 その告白に隼人は目を細め、じっと結を見守った。
 「……なるほどな」

 結は視線を落とし、指先をぎゅっと握り締める。
 「昔は荒れてたけど……今は更生して、凛ちゃんの学校の情報技術科の先生をしてるの。人呼んで“波工のヤンクミ”って」

 その瞬間、勢いよくドアが開いた。
 「ええっ!!玲子先生って結のお姉さんなの!?」

 「り、凛ちゃん!?」
 ビックリして立ち上がる結。

 「お前な……聞き耳立てるなんて行儀悪すぎだろ!」
 滅多に声を荒げない隼人が、妹を叱った。
 「今結がどんな気持ちでこの話をしてると思ってるんだ!」

 「ご、ごめんね、結……それに兄貴も……」
 しゅんと肩を落とす凛。

 結は慌てて間に入った。
 「いいよ、気にしないで。……隼人くんも、あまり叱らないであげて?」

 隼人は息を吐き、腕を組んだまま凛を見やる。
 「……まぁ、結がそう言うなら。だが凛、今後は気を付けろ」

 「……うん。本当にごめん」

 結はそっと微笑んだ。
 「せっかくだし、凛ちゃんも一緒に話そ? もうここまで聞いちゃったら、逆にモヤモヤするでしょ?」

 「……いいの? 二人の話にあたしが入っても」

 「内緒にするような内容じゃないしね。ほら、座って」
 結が促すと、凛は少し気まずそうに腰を下ろした。



Scene.06 姉の影

 「……何処まで話したかな。ああ、そうだ。お姉ちゃんは更生してから、今度はシスコンになっちゃって。私に色々干渉してきたの」

 結は自嘲気味に笑い、視線を落とす。
 「高校の時の伊達眼鏡や地味な髪型くらいならまだ可愛い方。でも……東京の短大の時は最悪だった」

 「……最悪って?」凛が恐る恐る尋ねる。

 「短大は女子校だったから、地味子から解放された私はそこそこ友達も出来て楽しくしてたんだ。でも寮に入れなくて仕方なくアパートで独り暮らししてたら、なぜか近所の男の人達が、私を避けるようになったの」

 「それって……」隼人が眉をひそめる。

 「そう。お姉ちゃんが裏で東京在住の昔の仲間に頼んで、近所の男性を脅して回ってたの。たまたま現場を見つけて問い詰めたら、あっさり白状して……。私、頭に来てお姉ちゃんと大喧嘩しちゃった」

 「そ、それは……」凛が絶句する。

 「その話を聞いたお父さんが激怒して、『結と一緒に住まわせられるか!』って。結果、お姉ちゃんだけ家を追い出されちゃった。……まぁ自業自得だけどね」

 その口調は淡々としていたが、結の指先は膝の上で震えていた。



Scene.07 姉妹の距離感

 凛はしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。
 「……何か、玲子先生との微妙な距離感の理由、今分かった気がする。そういえば玲子先生、この前も結の彼氏の話にすごい食いついてたよね」

 「そうなのか?」隼人が結を振り返る。
 「……当然、反対されるんだろうな」

 「兄貴……」凛が心配そうに見つめる。

 「大丈夫だ」隼人は静かに言った。
 「結は大事な俺の彼女だし、腹をくくるだけだ。結のお姉さんに殴られようが何されようが食らいつく。結と一緒になるには、それくらいの覚悟が必要だろうからな」

 「兄貴……やっぱりあたしの兄貴は最高の兄貴だね」凛が誇らしげに笑う。

 「隼人くん……カッコいいよ。本当にありがとう」

 結の瞳が潤む。

 「でも安心して。お姉ちゃんは悪い人じゃないの。生徒想いで、凛ちゃんや悠真ちゃんを助けてくれたし。ただ……私に対してだけ行き過ぎちゃうの。もし隼人くんに手を出そうとしたら、私が絶対させないから」

 「……そうか。頼りにしてるぞ、結」

 「うん!」



Scene.08 小さな夜の奇跡

 三人で雑談を重ねるうち、結は次第にまぶたを閉じ始めていた。気がつけば隼人の肩に寄りかかり、静かな寝息を立てている。

 「……まぁ、凛とのタンデムツーの後にこんな夜更かしだ。無理もないか」
 隼人は苦笑しながら、そっと結をお姫様抱っこする。

 その姿を見た凛が、口の端を上げた。
 「……一緒に寝ないの?」

 「お前な……俺だって男だぞ。好きな女と同じ部屋で一晩なんて、収まりつかないだろ。とりあえずお前の部屋に運ぶ」

 「はーい」凛は肩をすくめながらついていく。

 運ばれる途中、隼人がふと思い出したように呟いた。
 「そういえば結のお姫様抱っこ、俺より先に悠真がしたらしいな」

 「兄貴、悔しい?」凛がニヤリと笑う。

 「ん? いや……お前ら仲睦まじいなって。ただ“初めて”を奪われるのは……悔しいというより複雑だが」

 「兄貴……」凛は小声で呟き、ふと真剣な顔になる。
 「初めてと言えば……結局、結とはしなかったね」

 「お前な……俺が疲れてる恋人に体を求める鬼畜に見えるか? 我慢してたんだから褒めろ」

 「……兄貴。世の中の男が皆兄貴みたいに紳士だったら、あたしも男性恐怖症にならずに済んだのかな」

 その一言に、隼人の表情が一瞬だけ和らぐ。
 「……俺が紳士かは分からん。だが、お前はお前で悠真って良い相手を見つけただろ。少なくとも、お前達はお似合いだと俺は思う」

 凛は目を潤ませ、小さく「……ありがとう、兄貴」と呟いた。



Scene.09 眠れる姫と王子の想い

 凛の部屋に到着し、隼人は結をそっとベッドに寝かせた。
 「……相変わらず散らかってるな。結が起きたら驚くだろうな」

 「余計なお世話!」凛が頬を膨らませる。
 「でも……可愛い顔して寝ちゃってまぁ」

 隼人はドアに手を掛け、振り返った。
 「……凛」

 「なに?」

 「寝込みを襲うなよ?」

 「しないわよっ!!」

 隼人は声を立てて笑い、「どうだか……おやすみ」と言って自室に戻っていった。

 残された凛は、眠る結の隣にそっと横になる。
 「……やっぱり可愛い」

 その額に軽く口づけし、囁く。
 「おやすみ、結」

 小さな灯りの下で、夜は静かに更けていった。

To be Continued...
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