王弟が愛した娘ー音に響く運命ー現代パロ

Aster22

文字の大きさ
3 / 79

一口で、恋に落ちた。

しおりを挟む
一口で、恋に落ちた
屋上は好きだ。意外と人も来ない。空を眺めて、雲が動いているのを見ていれば、一瞬だけ空が近くなって現実から離れられる気がする。
「セラ」
聞こえて来た声は意外だけど意外じゃない。まさか本当に来るとは。
「レオくん」
「昼はもう食べたのか?」
「うん、食べたよ。レオくんは?」
「俺も食った。ここで何してるんだ?」
「うーん、空を見てボーッとしてる。」
「楽しいか?」
「楽しさは求めてないかなあ。」
「....お前が空を眺めていると本当に飛んでいってしまいそうだ。」
「人を何だと思ってるの?私は紙じゃないよ。」
「分かってるよ。例えだ。」
そう言いながらレオは隣に腰を下ろした。もっとうるさいタイプかと思っていたのだが隣にいる彼は意外にも静かだ。
「ピアノ弾くんだって?」
「うん、まあ....」
「なんだ、言いたくないのか?」
「なんか恥ずかしいじゃない。」
「そうか?聴いてみたいけどな。」
「もし機会があったらね。レオくんは楽器は.....」
「やらんな。」
「だよね。イメージと違う」
「姉貴がやってたけどな。よく発表会に連れて行かれた。」
「お姉さんいるの?」
「俺とそっくりのな。同族嫌悪だ。妹は可愛いが。」
「兄妹って不思議よね。近すぎてどうしていいか分かんない気がする。」
「お前もいるのか?」
「私は妹と弟がいるよ。」
「仲良いのか?」
「どうかなあ...弟はいいけど、妹の方は微妙かも。」
「性格的に?」
「あんまりにも似てないからかな。妹は愛嬌あるしね。」
「お前もあるだろ。」
「私のどこに愛嬌なんてあるのよ。」
「お前は十分可愛いと思うが。」
....これだから学園の王子様とやらは怖い。こうやって何人の女を落として来たんだ。
「.....眼科行く?」
「何でそうなる。お前自分が高嶺の花だって言われてるの分かってないのか。」
「全員おかしいんじゃないの。私はそこら辺の雑草よ。」
「....お前自己評価が滅茶苦茶だぞ。」
「何とでも言って。私は本と漫画で平和に生きてるから。あ、そうだ。」
いつもは1人で食べるのだが折角来てくれたからにはお裾分けしてあげよう。
「これ、食べる?」
少し高いが美味しいチョコレート菓子だ。屋上に来た時だけ食べる密やかなご褒美だった。
「食べるって....お前、誰に向かって言ってるか分かってんのか?」
「誰って....レオくん以外いないじゃない。」
「その菓子はうちの会社が作ってる菓子だ。」
「へ?そうなの?」
それはなんと間抜けなことをしたのだろう。なんだか恥ずかしくなってしまう。
「....好きなのか?」
「....屋上来る時だけの贅沢品なの。本当に美味しいよ。発案してくれた人に感謝しといて。」
「そう言っておこう。なんだ、好きならいくらでも持って来てやるのに。」
「それはダメ。」
「なんで?」
「こういうのは特別だから美味しいの。毎日食べたら有り難みが薄れちゃう。」
「何だよそれ....仕方ないな、ならこれから新作の味見はお前に頼むか。」
「ほんと!いいの!」
そんな役得、許されるのだろうかと思っても言葉は正直だ。
「なんだ、そんな顔できんのかよ」
そっくりそのまま返してあげたい程の優しい顔をしている。
「期待しとけよ。今度持って来てやるから。」
「うん、楽しみにしてる。」
溢れた笑顔に、レオの優しい目が残った。



顔が、赤くなってなかったか。
(まさかあんな顔するなんて思わないだろ...)
子供みたいな無邪気な顔。それもうちの菓子を気に入ってくれてるなんて。
チョコなんて分けてくれなくていいからあの顔をずっと分けていて欲しい。
「あれ、レオ顔赤いよ?」
「言うな。」
「何かあったの?セラと」
「そんな期待するようなことはない。ないはずだ。」
「なに、まさか笑顔見ただけでそんな顔になったなんて言わないでよ?」
「クシェル、黙れ....」
「学校一の色男がこんなに初心な顔するとは....流石は"高嶺の花"ってところかな?」
自分が、沼に落ちていく自覚があった。空を眺める横顔を綺麗だと思った。フラットに人も、物も捉える目は、レオにとって中々得られない物だった。妹の方が愛嬌がある。そう言った顔は少し傷ついていた。傷も含めて全部守ってやりたい――――
かつての女たちに湧いたことのない庇護欲が顔を出す。
『そこら辺の雑草よ。』
本気とも卑下とも取れるその言葉。俺にとったら。
やっと見つけたこの世に一輪の花だ。


あの日の後、レオは本当に新作らしいお菓子を持って来た。
「ほら、食べてみろ。」
柔らかいクッキー生地に硬いチョコ。絶妙な甘さでこれまたセラの好みを確実に突いている。
「美味しい.....!誰か制作担当に私の好みを知ってる人がいるの??」
「そんなわけあるか。....こんな顔が見れるなら毎日持ってくるのに。」
味わうのに夢中で最後の方は何を言っているのか聞き取れなかったがレオは嬉しそうだ。自分の会社のお菓子が喜ばれているのだから当然かもしれない。
「これ、ほんとに先食べていいの?私後でなんか請求されたりしない?」
「むしろ味見代を支払いたいくらいだな。もう一個いるか?」
「いる!」
何とも幸せだ。屋上で菓子を食べる時間がささやかな息抜きだったが、人がいても息抜きになるとは思わなかった。
「んー、美味しい。レオくんてもっとしんどいイメージだった。」
「?なんでだよ。」
「なんか...ごめん、偏見だ。思ったより楽だなってこと。」
「それならいいけど。お前こそ、誰にでもこんなに緩いのか?」
「いや?美味しい物食べると緩むよねえ。」
「酒でも飲んだみたいに....あんまり気抜くなよ。特に男の前で。」
「レオくん男じゃない。」
「俺はいいんだよ!他の男。簡単に手出してくるやつも多いんだから。」
「自分のこと棚に上げてない?」
「俺は合意の上でしか....っておい、言わせるな。」
「ははっ冗談だよ。心配してくれてありがとね。」
「はぁ.....ほら、最後食べろ。もうすぐ授業だろ。」
「うん。あ、でも味見ならちゃんとレポしなきゃだね。」
「お前のその反応が十分レポだから気にするな。」
「そう?」
美味しいお菓子は本当にお酒みたいだ。気が抜けて、ついつい喋ってしまう。レオはセラの言うことを否定しない。初日こそ少しイラッとしていたが、その後はあの優しいような困ったような顔でいてくれる。そのことに、どこか安心している自分がいた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

ヤクザのお嬢は25人の婚約者に迫られてるけど若頭が好き!

タタミ
恋愛
関東最大の極道組織・大蛇組組長の一人娘である大蛇姫子は、18歳の誕生日に父から「今年中に必ず結婚しろ」と命じられる。 姫子の抵抗虚しく、次から次へと夫候補の婚約者(仮)が現れては姫子と見合いをしていくことに。 しかし、姫子には子どもの頃からお目付け役として世話をしてくれている組員・望月大和に淡い恋心を抱き続けていて──? 全25人の婚約者から真実の愛を見つけることはできるのか!?今、抗争より熱い戦いの幕が上がる……!!

皇宮女官小蘭(シャオラン)は溺愛され過ぎて頭を抱えているようです!?

akechi
恋愛
建国して三百年の歴史がある陽蘭(ヤンラン)国。 今年16歳になる小蘭(シャオラン)はとある目的の為、皇宮の女官になる事を決めた。 家族に置き手紙を残して、いざ魑魅魍魎の世界へ足を踏み入れた。 だが、この小蘭という少女には信じられない秘密が隠されていた!?

借りてきたカレ

しじましろ
恋愛
都合の良い存在であるはずのレンタル彼氏に振り回されて…… あらすじ システムエンジニアの萩野みさをは、仕事中毒でゾンビのような見た目になるほど働いている。 人の良さにつけ込まれ、面倒な仕事を押しつけられたり、必要のない物を買わされたり、損ばかりしているが、本人は好きでやっていることとあまり気にしていない。 人並みに結婚願望はあるものの、三十歳過ぎても男性経験はゼロ。 しかし、レンタル彼氏・キキとの出会いが、そんな色の無いみさをの日常を大きく変えていく。 基本的にはカラッと明るいラブコメですが、生き馬の目を抜くIT企業のお仕事ものでもあるので、癖のあるサブキャラや意外な展開もお楽しみください!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

精一杯のエゴイスト

宮内
恋愛
地方都市で地味に働く佐和。以前の恋のトラウマに縛られて四年も恋愛から遠ざかる。そんな佐和に訪れた出会い。立ち止まる理由ばかりを探しても止まらない想いの先にあるものは。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...