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愛は、待つこと
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愛は、待つこと
『親でもなければ同じ18なのよ……そんな人に、頼めるわけないでしょう……』
泣きそうな声で、絞り出すように言われたその言葉が悪意のあった言葉でないことぐらい知っている。それでも、レオを否定する言葉としては十分だった。何も、言えなかった。何を言っても傷つけてしまう気がしたから。きっとセラは今頃泣いているだろう。分かっていても、戻ることは出来ない。それがもどかしくて、悔しかった。守りたい。幸せになって欲しい。笑顔でいて欲しい。どれも間違った欲ではないはずなのにその欲は二人の関係を壊してしまう。
ご飯が喉を通らなかった。何かあったことを察した女たちは今日ばかりは何も言わなかった。
部屋に戻り、なされた会話を反芻する。無視、した方がよかったのだろうか。あんなことになるくらいならセラの夢に気づかないフリをしていた方がよかったのか。だけどきっと、それではセラのあの満ち足りた顔を見ることは出来ない。セラだって分かっているのだ。諦めていた夢が手を伸ばせば届いてしまうことに。それが彼女を惨めな気持ちにさせる。
俺は、どうすればいい?
その問いに答えるかのようにドアのノックが鳴った。
「……誰」
「僕だよ。入ってもいいかい?」
父親が部屋に入ってくるなどいつ以来だ。別に関係が悪いわけじゃない。ただ性格が違い、なんでも穏やかに受け止めてしまう父親に少し、苦手意識があるレオが避けているだけ。
「なんでここにいるんだと言いたげな顔だな」
「そりゃあ……」
「セラちゃんと、喧嘩でもしたかい?」
図星だった。最もあれだけ食べず喋らずならだれが見ても明らかかもしれないが。
何も言わないレオに父は変わらぬ穏やかな声で続けた。
「セラちゃんは、喧嘩したことがあるのかな?」
考えもしなかった。喧嘩したことのない人間がこの世にいるなど。でもセラならありえない話じゃない。人の顔を読み、常に人を傷つけないことを意識して生きてきた。そんな彼女なら……
「もしないとしたら、随分信頼されているね。」
「なんでそうなるんだよ。」
「感情を見せないセラちゃんが喧嘩になるくらいの本音を見せた。どういうことか分かるかい?」
「……俺は頼りない、他人の男だ。」
「そこで不貞腐れたら勿体ない。チャンスだと思え。感情を見せないセラちゃんがお前にはそれだけ正直でありたくて、甘えたいと思わせたんだ。」
「……それなら正直に言えばいい。」
「出来ると思うかい?親に虐待され続け自分の望みなど殆ど口にしたことのないような子が。」
返す言葉もなかった。レオは不貞腐れていただけだ。セラが、素直に自分に甘えてくれなかったことに。
「……でも俺はセラの傷を掘り返した。何も言う資格なんてない。」
「何も言う必要はない。ただ伝えればいい。君を愛していて、頼って欲しいんだと。いつまでも待っていると。そして、いつも通り愛せばいい。お前が変わらず、揺れないことだ。それが彼女にとっての安心になる。」
「……なんで父さんがそんなこと分かるんだよ。」
「……昔、同じ苦労をしたからね。お母さんには、内緒だよ。」
母の、昔話は殆ど聞いたことがない。母は、話したがらなかった。何も聞かないのが家族の暗黙の了解だった。
「お母さんはね、酷い虐待に遭っていた。出会った当時は随分荒れていてね。何度殴られそうになったか分からないよ。」
「……よくそんな女好きになったな。」
「お前と同じく一目ぼれだ。僕に似てないのにやっぱり親子だ。」
いつもなら反論したくなる言葉にも今日は反論する気にならなかった。
「僕たちはセラちゃんを娘として迎える気でいる。その前に逃げられるんじゃないぞ。」
「もう遅くないことを願ってるよ……」
「大丈夫だ。あの子はそんなに弱い子じゃない。」
そう言う父は自信に満ちていて、レオはまた負けたような悔しい気分になった。
『親でもなければ同じ18なのよ……そんな人に、頼めるわけないでしょう……』
泣きそうな声で、絞り出すように言われたその言葉が悪意のあった言葉でないことぐらい知っている。それでも、レオを否定する言葉としては十分だった。何も、言えなかった。何を言っても傷つけてしまう気がしたから。きっとセラは今頃泣いているだろう。分かっていても、戻ることは出来ない。それがもどかしくて、悔しかった。守りたい。幸せになって欲しい。笑顔でいて欲しい。どれも間違った欲ではないはずなのにその欲は二人の関係を壊してしまう。
ご飯が喉を通らなかった。何かあったことを察した女たちは今日ばかりは何も言わなかった。
部屋に戻り、なされた会話を反芻する。無視、した方がよかったのだろうか。あんなことになるくらいならセラの夢に気づかないフリをしていた方がよかったのか。だけどきっと、それではセラのあの満ち足りた顔を見ることは出来ない。セラだって分かっているのだ。諦めていた夢が手を伸ばせば届いてしまうことに。それが彼女を惨めな気持ちにさせる。
俺は、どうすればいい?
その問いに答えるかのようにドアのノックが鳴った。
「……誰」
「僕だよ。入ってもいいかい?」
父親が部屋に入ってくるなどいつ以来だ。別に関係が悪いわけじゃない。ただ性格が違い、なんでも穏やかに受け止めてしまう父親に少し、苦手意識があるレオが避けているだけ。
「なんでここにいるんだと言いたげな顔だな」
「そりゃあ……」
「セラちゃんと、喧嘩でもしたかい?」
図星だった。最もあれだけ食べず喋らずならだれが見ても明らかかもしれないが。
何も言わないレオに父は変わらぬ穏やかな声で続けた。
「セラちゃんは、喧嘩したことがあるのかな?」
考えもしなかった。喧嘩したことのない人間がこの世にいるなど。でもセラならありえない話じゃない。人の顔を読み、常に人を傷つけないことを意識して生きてきた。そんな彼女なら……
「もしないとしたら、随分信頼されているね。」
「なんでそうなるんだよ。」
「感情を見せないセラちゃんが喧嘩になるくらいの本音を見せた。どういうことか分かるかい?」
「……俺は頼りない、他人の男だ。」
「そこで不貞腐れたら勿体ない。チャンスだと思え。感情を見せないセラちゃんがお前にはそれだけ正直でありたくて、甘えたいと思わせたんだ。」
「……それなら正直に言えばいい。」
「出来ると思うかい?親に虐待され続け自分の望みなど殆ど口にしたことのないような子が。」
返す言葉もなかった。レオは不貞腐れていただけだ。セラが、素直に自分に甘えてくれなかったことに。
「……でも俺はセラの傷を掘り返した。何も言う資格なんてない。」
「何も言う必要はない。ただ伝えればいい。君を愛していて、頼って欲しいんだと。いつまでも待っていると。そして、いつも通り愛せばいい。お前が変わらず、揺れないことだ。それが彼女にとっての安心になる。」
「……なんで父さんがそんなこと分かるんだよ。」
「……昔、同じ苦労をしたからね。お母さんには、内緒だよ。」
母の、昔話は殆ど聞いたことがない。母は、話したがらなかった。何も聞かないのが家族の暗黙の了解だった。
「お母さんはね、酷い虐待に遭っていた。出会った当時は随分荒れていてね。何度殴られそうになったか分からないよ。」
「……よくそんな女好きになったな。」
「お前と同じく一目ぼれだ。僕に似てないのにやっぱり親子だ。」
いつもなら反論したくなる言葉にも今日は反論する気にならなかった。
「僕たちはセラちゃんを娘として迎える気でいる。その前に逃げられるんじゃないぞ。」
「もう遅くないことを願ってるよ……」
「大丈夫だ。あの子はそんなに弱い子じゃない。」
そう言う父は自信に満ちていて、レオはまた負けたような悔しい気分になった。
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