王弟が愛した娘 —音に響く運命—

Aster22

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一瞬の熱、すれ違う心

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一瞬の熱、すれ違う心
一瞬、幻覚でも見たのかと思った。
それくらいあり得ないことだった。
セラが、自らキスするなんて。
遠慮がちに触れられた唇は短く、離された。
セラ自身、己の行動に戸惑っているように見える。
それでも十分だった。理性を飛ばすには。
気づけばセラはレオの下にいた。止めもしないセラを見下ろし、服に手をかけようとした。
セラの委ね切った目を見た瞬間、我に返った。
(俺は...何をやっている。)
あの時と同じ失態はしないと言ったばかりだ。婚前関係でも結び、子でも成せばセラの名誉は失墜し、結婚どころではなくなる。
「...レオ様?」
「...お前が悪いぞ。あれは予想外だった。」
「...レオ様は、傷のある女はお嫌ですか?」
「は?」
待て。何かが違う。
「私の身体には多くの傷があります。女として見られなくても当然です。」
「何を言って――――」
セラの目から溢れる涙。正さなければならないと思うのに、何から伝えていいのか分からなかった。
「申し訳ありません。忘れてください。1人にしていただけるでしょうか。」
「違う、セラ。俺はそんなつもりじゃ...」
「分かっています。私がおかしいのです。頭を冷やす時間をください。」
そこまで言われて、何も言えなかった。ただ無言で部屋を出るレオを、セラは見ようともしなかった。
 
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