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揺らぐ隣国、抗う男
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揺らぐ隣国、抗う男
「父上は?」
「アマリエル様のところです。」
「またか...」
母の元へ向かうアラリックの足取りは重い。
「母上、ご気分はいかがですか。」
「ああ、アラ...エスは?」
「何やら所用がある様です。直ぐにお戻りになるでしょう。」
観劇を観に行っているなど、どうして言えようか。
「貴方だけね...こうして私の元を訪れてくれるのは。」
「母上を想う方は多くいらっしゃいます。皆気遣っているだけです。」
「貴方は優しい子だわ...何故貴方が初めに生まれなかったのかしら...」
「私が父上、兄上を支えます。母上は心配なさらず、療養に専念してください。」
「ありがとう、アラ。」
「私は仕事に戻りますが、夕刻頃また来ます。お食事を出来るだけ取ってください。」
「ええ、貴方もよ。」
度重なった流産、離れた父王の愛に心を病んだ母は今でこそ落ち着いて話せるようになったが、最初の頃は死んだように落ち込み、とても話せる状態ではなかった。
食事も取らず、一時は生死も危ぶまれたあの時から8年――――
アラリックは公務で王宮を離れる時以外は毎日母の元に通い続けている。
「アラ」
「エルナ」
「カリスティネ様のところか?」
「ああ。」
「調子はどうなんだ?」
「一時に比べれば落ち着いた。痩せてかつての面影は見る由もないがな。」
「私も見舞いたいところだが...私などが行っても余計に身体を悪くするだけだろうからな。」
アラリックと同い年の王女、エルドレーナは側妃の娘だ。軍国コアルシオンの名に恥じぬ強さを持つ彼女は今や国の将軍として剣を振るっている。
「気持ちだけ受け取っておこう。父はまだ...」
「アマリエル様のところだ。...まさか父のこんな情けない姿を見ることになるとは思っていなかったよ。」
「私もだ。麻薬の件で話がしたいのだが...これでは話にならないな。」
「その件ならこちらも困っているんだ。流行らせたのはカルディアだと言って聞かん。あの国と戦したところで無意味だというのに。」
「ああ、分かっている。俺の方でも手は打っているんだがな。父と兄があの調子では本当に戦が始まりかねない。」
「....アラ、お前が王になれ。」
「急に何を言い出すんだ。反逆と捉えられても仕方ないぞ。」
「私は本気だ。私の軍は私の命ならば動くぞ。」
「そう言う問題ではない。ただでさえ麻薬や噂で民は過敏になっている。そんな時に王位継承問題まで起きてみろ。この国は破綻する。」
「....分かっている。あまりにも歯痒くてな。」
エルナの言いたいことは分かる。アラリックですらその方がいいと思うくらいだ。実際、今やアラリックを王にと推す声は日増しに大きくなっている。
「ご兄妹で仲のよろしいことですな。」
「アンツェルーシュ...」
「そう睨まないでいただきたい。この情勢です。王宮内が分裂していては国が纏まりませぬ。」
「その通りだがな。お前がカルディアとの開戦を望んでいるとの噂もあるぞ?」
軍の半数の実権を握る宰相、アンツェルーシュ。笑みを張り付ける顔とその腹の内はなにを考えているのか。
「おや、姫様。私がそのような火種を望むとお思いですか?何せ王があの様な状態なのです。」
「王が側妃に溺れてから国を支えてくれていることには感謝している。だがカルディアと戦をすると言うのであれば私は降りるぞ。」
「それは心許ないですな。姫様の軍はコアルシオン随一との評判だ。しかし...カルディアの方から攻めて来れば姫も降りるわけにはいきますまい。」
「もしそんなことがあればな。あちらの王は戦を嫌う。戦を始めるなどとは思えん。」
「そうでしょうな。あくまでもしもの話です。」
食えない男だ。宰相として有能なこの男を追放する理由はなかったが、アラリックはどうしてもこの男が好きになれない。
「してアラリック殿下。」
「何だ?」
「カルディアの王弟殿とは親交がお有りでしたな。」
「ああ、少しな。それがどうかしたのか?」
「こんな時だ。王弟殿を呼んで友好を国に示してはいかがかな?そうすれば民の開戦を望む声も薄れましょう。」
「...彼は今休養中だ。戻られ次第考えよう。」
「おや、休養のことまでご存知の仲でしたか。それでは尚更だ。ご多忙でお疲れでしょう。たまにはご友人とゆっくりお食事でもなされれば良い。」
どこか引っ掛かる言い方だが、言っていることは間違ってはいない。この男とこれ以上話すのは避けた方が賢明だ。アラリックはそう判断した。
「お気遣い痛みいる。だが私は問題ない。王弟殿の件は検討する。」
「そうしてくだされ。」
立ち去るアンツェルーシュが去ったのを確認してから、エルナが言う。
「アラ、あの男に気を許すなよ。いい噂も聞くが、どこか胡散臭い。」
「分かっている。レオが休養中だと言ったのは不味かったな...」
「何か知っているのか?」
「麻薬の件で協力している。誰にも言うなよ。」
「当たり前だ。しかしレオを呼ぶのは悪くない気もするがな。無駄に顔と外面がいい。民は喜ぶかもしれん。」
「それは確かにそうだがな。あいつは容量もいい。」
「少し見習ったらどうだ?お前は真面目すぎだ。」
「性格だ。仕方ないな。....いかん、俺は仕事に戻る。」
「私もだ。またな。」
「父上は?」
「アマリエル様のところです。」
「またか...」
母の元へ向かうアラリックの足取りは重い。
「母上、ご気分はいかがですか。」
「ああ、アラ...エスは?」
「何やら所用がある様です。直ぐにお戻りになるでしょう。」
観劇を観に行っているなど、どうして言えようか。
「貴方だけね...こうして私の元を訪れてくれるのは。」
「母上を想う方は多くいらっしゃいます。皆気遣っているだけです。」
「貴方は優しい子だわ...何故貴方が初めに生まれなかったのかしら...」
「私が父上、兄上を支えます。母上は心配なさらず、療養に専念してください。」
「ありがとう、アラ。」
「私は仕事に戻りますが、夕刻頃また来ます。お食事を出来るだけ取ってください。」
「ええ、貴方もよ。」
度重なった流産、離れた父王の愛に心を病んだ母は今でこそ落ち着いて話せるようになったが、最初の頃は死んだように落ち込み、とても話せる状態ではなかった。
食事も取らず、一時は生死も危ぶまれたあの時から8年――――
アラリックは公務で王宮を離れる時以外は毎日母の元に通い続けている。
「アラ」
「エルナ」
「カリスティネ様のところか?」
「ああ。」
「調子はどうなんだ?」
「一時に比べれば落ち着いた。痩せてかつての面影は見る由もないがな。」
「私も見舞いたいところだが...私などが行っても余計に身体を悪くするだけだろうからな。」
アラリックと同い年の王女、エルドレーナは側妃の娘だ。軍国コアルシオンの名に恥じぬ強さを持つ彼女は今や国の将軍として剣を振るっている。
「気持ちだけ受け取っておこう。父はまだ...」
「アマリエル様のところだ。...まさか父のこんな情けない姿を見ることになるとは思っていなかったよ。」
「私もだ。麻薬の件で話がしたいのだが...これでは話にならないな。」
「その件ならこちらも困っているんだ。流行らせたのはカルディアだと言って聞かん。あの国と戦したところで無意味だというのに。」
「ああ、分かっている。俺の方でも手は打っているんだがな。父と兄があの調子では本当に戦が始まりかねない。」
「....アラ、お前が王になれ。」
「急に何を言い出すんだ。反逆と捉えられても仕方ないぞ。」
「私は本気だ。私の軍は私の命ならば動くぞ。」
「そう言う問題ではない。ただでさえ麻薬や噂で民は過敏になっている。そんな時に王位継承問題まで起きてみろ。この国は破綻する。」
「....分かっている。あまりにも歯痒くてな。」
エルナの言いたいことは分かる。アラリックですらその方がいいと思うくらいだ。実際、今やアラリックを王にと推す声は日増しに大きくなっている。
「ご兄妹で仲のよろしいことですな。」
「アンツェルーシュ...」
「そう睨まないでいただきたい。この情勢です。王宮内が分裂していては国が纏まりませぬ。」
「その通りだがな。お前がカルディアとの開戦を望んでいるとの噂もあるぞ?」
軍の半数の実権を握る宰相、アンツェルーシュ。笑みを張り付ける顔とその腹の内はなにを考えているのか。
「おや、姫様。私がそのような火種を望むとお思いですか?何せ王があの様な状態なのです。」
「王が側妃に溺れてから国を支えてくれていることには感謝している。だがカルディアと戦をすると言うのであれば私は降りるぞ。」
「それは心許ないですな。姫様の軍はコアルシオン随一との評判だ。しかし...カルディアの方から攻めて来れば姫も降りるわけにはいきますまい。」
「もしそんなことがあればな。あちらの王は戦を嫌う。戦を始めるなどとは思えん。」
「そうでしょうな。あくまでもしもの話です。」
食えない男だ。宰相として有能なこの男を追放する理由はなかったが、アラリックはどうしてもこの男が好きになれない。
「してアラリック殿下。」
「何だ?」
「カルディアの王弟殿とは親交がお有りでしたな。」
「ああ、少しな。それがどうかしたのか?」
「こんな時だ。王弟殿を呼んで友好を国に示してはいかがかな?そうすれば民の開戦を望む声も薄れましょう。」
「...彼は今休養中だ。戻られ次第考えよう。」
「おや、休養のことまでご存知の仲でしたか。それでは尚更だ。ご多忙でお疲れでしょう。たまにはご友人とゆっくりお食事でもなされれば良い。」
どこか引っ掛かる言い方だが、言っていることは間違ってはいない。この男とこれ以上話すのは避けた方が賢明だ。アラリックはそう判断した。
「お気遣い痛みいる。だが私は問題ない。王弟殿の件は検討する。」
「そうしてくだされ。」
立ち去るアンツェルーシュが去ったのを確認してから、エルナが言う。
「アラ、あの男に気を許すなよ。いい噂も聞くが、どこか胡散臭い。」
「分かっている。レオが休養中だと言ったのは不味かったな...」
「何か知っているのか?」
「麻薬の件で協力している。誰にも言うなよ。」
「当たり前だ。しかしレオを呼ぶのは悪くない気もするがな。無駄に顔と外面がいい。民は喜ぶかもしれん。」
「それは確かにそうだがな。あいつは容量もいい。」
「少し見習ったらどうだ?お前は真面目すぎだ。」
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「私もだ。またな。」
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