王弟が愛した娘 —音に響く運命—

Aster22

文字の大きさ
125 / 181

誰かを好きになるということ。

しおりを挟む
誰かを好きになるということ
「セラ様、お手を。」
オルヴェインは至れり尽くせりだった。手を取り馬車に乗せ、休みの時には辛くないかと毛布を差し出してくれる。
「オルヴェイン様、そこまでしていただかなくて結構ですわ。楽にしてください。」
「なりません。私がセラ様に快適に過ごしていただきたいのです。必ずお守りします。ご安心ください。」
 一点の、曇りもない言葉。もし私がレオを知らなければただの親切な人だと思えただろう。だけど、この人の言葉と目はただの親切でないことを明確に示している。
(これ本当にレオ様がいなかったらまずかったわ....揺れてるところだった。)
「セラ様、少し火に当たられますか?採れた肉も焼けています。」
「ではいただきます。」
 肉を、あの時もこうやって並んで食べた。レオの、年相応な笑顔を初めて見た気がした時。
「ご気分が優れませんか?肉はあまりお好きではない?」
「い、いえ。そんなことはありませんわ。肉も美味しいのです。少し、過去を思い出してしまいました。」
「...…誰か、想う方がいらっしゃるのですか?」
 どう答えるべきか迷った。いないと言えば嘘になる。だけどいると言えばこの人を傷つけてしまうんじゃないだろうか。
 そう思った時に気づいた。誰かを好きになることを傷なしでは成り立たないのだと。オルヴェイン様は優しい方だ。もしかして、運命が違い、私が先にこの方に会っていたら惹かれていたかもしれない。でも、運命は違う。私はレオ様に会って、彼に恋をした。そしてそれは何かに変えられてしまうような小さなものでもなくなっていた。
「……そうですね。ある人の笑顔を、思い出していました。」
「……家族ですか?」
「……いいえ。違う、私にとって特別な方です。」
 オルヴェインの幼い顔が一瞬震えた。それを見ると、セラの胸も痛んだ。
「……そうですか。貴女に想われるなんて幸せな人だ。」
「私は、そんなに出来た人はありませんわ。」
「いいえ。貴女は強い人だ。あのような場で、あの音を鳴らせる強さを持つ者はいない。身体に痛みを抱えながら、顔色ひとつ変えず踊りきれる者も。私は、貴女の強さを美しいと思ったのです。」
「……ありがとうございます。正直、とても緊張していました。ファーストダンスの相手がオルヴェイン様でよかったと思っていたのです。」
「そう思っていただけたのなら光栄です。もう近いですが、最後まで、貴女を守ります。」
「ありがとうございます。」
 馬車に戻ろうとする背を、イザークが呼び止めた。
「オルヴェイン殿も、悪くはないと思うけどね。」
「イザーク様..…聞いてらしたのですか?」
「ちょっとね。でもセラが誰かを拒否してまで想うなんてすごいことだ。」
「私は……分かっていませんでした。誰かを好きになるという意味を。」
「そうだね。セラは、自分を女として見たことがなかっただろう?これからきっと、オルヴェイン殿以外にも現れる。耐えられそうかい?」
「耐えねば……ならないのです。私は、1人の人を選びました。」
「うん。応援しているよ。さ、冷えるから馬車に乗りな。」
「ありがとうございます、イザーク様。」
 『連絡がこない』
 大丈夫、必ず迎えに行くから――――
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

愛とオルゴール

夜宮
恋愛
 ジェシカは怒っていた。  父親が、同腹の弟ではなく妾の子を跡継ぎにしようとしていることを知ったからだ。  それに、ジェシカの恋人に横恋慕する伯爵令嬢が現れて……。  絡み合った過去と現在。  ジェシカは無事、弟を跡継ぎの座につけ、愛する人との未来を手にすることができるのだろうか。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

好感度0になるまで終われません。

チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳) 子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。 愛され続けて4度目の転生。 そろそろ……愛されるのに疲れたのですが… 登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。 5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。 いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。 そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題… 自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。

ヤクザのお嬢は25人の婚約者に迫られてるけど若頭が好き!

タタミ
恋愛
関東最大の極道組織・大蛇組組長の一人娘である大蛇姫子は、18歳の誕生日に父から「今年中に必ず結婚しろ」と命じられる。 姫子の抵抗虚しく、次から次へと夫候補の婚約者(仮)が現れては姫子と見合いをしていくことに。 しかし、姫子には子どもの頃からお目付け役として世話をしてくれている組員・望月大和に淡い恋心を抱き続けていて──? 全25人の婚約者から真実の愛を見つけることはできるのか!?今、抗争より熱い戦いの幕が上がる……!!

結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ
恋愛
倉敷紗々(30歳)、独身。両親に結婚をせがまれて、嫌気がさしていた。 仕方なく、結婚相談所で登録を行うことにした。 本当は、結婚なんてしたくない、子供なんてもってのほか、どうしたものかと考えた彼女が出した結論とは? ※BL(ボーイズラブ)という表現が出てきますが、BL好きには物足りないかもしれません。  主人公の独断と偏見がかなり多いです。そこのところを考慮に入れてお読みください。 ※番外編に入り、百合についても語り始めました。  こちらも独断と偏見が多々あるかもしれないのでご注意ください。 ※この作品はフィクションです。実際の人物、団体などとは関係ありません。 ※番外編を随時更新中。

天才魔術師の仮面令嬢は王弟に執着されてます

白羽 雪乃
恋愛
姉の悪意で顔半分に大火傷をしてしまった主人公、大火傷をしてから顔が隠れる仮面をするようになった。 たけど仮面の下には大きい秘密があり、それを知ってるのは主人公が信頼してる人だけ 仮面の下の秘密とは?

【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~

ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。 騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。 母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。 そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。 望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。 ※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。 ※表紙画像はAIで作成したものです

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

処理中です...