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ヌーッティ危機一髪

3.お月見

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 月が空に浮かび、ヌーッティはトゥーリとアキと三人でカーテンを開けた窓から夜空を眺めていた。
 月光が差し込むアキの部屋では天井にあるライトを消していた。その代わり、柔らかい光のスタンドライトと、火を灯した大小いくつかのキャンドルの明かりが部屋を照らしていた。月明かりも入ってきているので暗くはなかった。
 アキはワーキングデスクの前にある椅子に腰掛け、ヌーッティとトゥーリはベッドの上に座っていた。
 ヌーッティは窓からアキへ視線を移す。
「ススキは食べられないヌー?」
「食べられないよ」
 間髪入れずにアキにとトゥーリが答えた。
「お月見は月を眺めるんだよ」
 トゥーリがヌーッティに説明した。
 ヌーッティは首を傾げ、
「お月さまを見てもおなかいっぱいにはならないヌー」
 トゥーリは目を細めてヌーッティを見やる。
「どうしていつも『おなかいっぱい』が考えの基準になるの? お月見を始めてまだ三分も経ってないんだよ?」
「お団子を見てるだけはつまらないヌー。トゥーリはなにもわかってないヌー」
 ヌーッティは肩をすくめ、ため息をこぼした。
 トゥーリもため息を吐いた。
 そんな二人のやりとりを見ていたアキは柔い微笑みで笑った。
「お月見しながら団子でも食べよっか」
 ヌーッティの目が輝いた。
「食べたいヌー!」
 両手足をばたつかせヌーッティは全身で嬉しさを表した。
「一階へ行って用意してくるから少し待ってて」
 アキは椅子から立ち上がり、部屋を出て一階のキッチンへと向かった。
 程なくして自室へと戻ってきたアキは、大きめな皿に積まれた団子と、取り分け用の小皿三枚、あんこやきな粉が入った丸い器二つ、あんこやきな粉を取る時に使うスプーン二つ、牛乳が入った小さなグラス二つとコーヒーの入ったマグカップ一つをトレーに乗せて持ってきた。
 トレーをデスクの上に置くと、ベッドの上にいたヌーッティはベッドから下りて床を走り、デスクの引き出しを足場にしてデスクの天板の上へとよじ登った。対してトゥーリは一跳躍でベッドからデスクの上へと到着した。
 ヌーッティはグラスを手に取ると、
「お月見パーティーの始まりだヌー! 乾杯するヌー!」
 グラスを上へと持ち上げた。
 トゥーリもグラスを持つと、アキもマグカップを手に取り、
乾杯キッピス!」
 三人それぞれグラスとマグカップを軽く当てた。
 ヌーッティは牛乳を一気の飲み干すと、素早い動きで小皿を取り、団子をいくつも乗せた。その上にあんこをたっぷりとかけた。
 その様子を横目で見ていたトゥーリは、
「それ、全部食べられるの?」
「このくらいじゃヌーのお腹はいっぱいにならないヌー!」
 トゥーリは何の返答もしなかった。ただ、呆れた表情を浮かべているだけであった。
 アキはコーヒーを一口飲むとマグカップをデスクに置いた。
「がっついて食べて喉に詰まらせないようにな」
 ヌーッティは頷いて答えて見せただけで、団子を食べることに夢中であった。アキは内心、話を聞いてないなぁと思った。
 ヌーッティはあっという間に小皿に取り分けた団子を食べ切った。
 ちらりとヌーッティはトゥーリの団子が乗った小皿を見る。
 その視線に気づいたトゥーリは、
「だめだよ。こっちのお皿はわたしとアキの分だよ。ヌーッティのじゃないよ」
 それを聞いたヌーッティは小皿から窓辺に飾られている団子に視線を移す。
 しばらく沈黙があった。
「食べるヌー!」
 沈黙をぶち破ったのはヌーッティであった。
 ヌーッティが窓の方へ駆け出した。
「ヌーッティ⁈」
 トゥーリの手はヌーッティに届かなかった。
 ヌーッティは窓のところに置かれたベッドサイドテーブルをよじ登った。素早い動きであっという間に天板の上にたどり着いた。
「食べちゃだめー!」
 トゥーリの制止はヌーッティの耳に届かなかった。
 ヌーッティは両手を使って団子を二つ取る。
「いただきますだヌー!」
 食べるが早いか、ヌーッティは団子をひとかじりした。
 もぐもぐもぐもぐと、ヌーッティは団子を次々に食べる。
 幸せそうな笑顔でむさぼり食べるヌーッティ。
 何個目かの団子を口に丸飲みした瞬間、ヌーッティの手が止まった。
 顔は赤くなり、数滴の冷や汗が浮かぶ。
「ヌーッティ?」
 動かなくなったヌーッティを不審に思い、アキは声をかけた。
 だが、ヌーッティからの応答はなかった。
 何かを察したアキは急いでヌーッティの側へ寄る。
 見れば苦悶の表情を浮かべているヌーッティがいた。
「もしかして喉に詰まらせたのか?」
 恐る恐る尋ねたアキの問いにヌーッティは目で答えた。
 アキの顔に焦りの色が現れる。
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