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森の学校編

1.森の学校

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 フィンランド東部の森の中。
 白樺や松やトウヒが生い茂り、枝葉の合間から太陽の光が地面に落ちる。明るい森には鳥たちのさえずりが響いている。
 夏のフィンランドは湿度が低く、暑くて汗をかいても汗が肌に張りつかない。さらに、森の中は街中と比べて、ひんやりとした空気が広がっている。
 森に住む鳥たちが枝に留まり地上を見下ろす。そこには、小さな小さな小熊が二匹いた。
 ひとりは小熊の妖精ヌーッティ。もうひとりは、ヌーッティの友人の小熊の精霊キルシ。
 キルシは首に巻いた桃色のスカーフを縛り直し、身だしなみを整えると、視線をヌーッティへ移した。
「準備はよろしくて?」
 尋ねられたヌーッティも首に巻いた宝石のついたりぼんの形を整えると、
「もちろんだヌー」
 ドヤ顔をキルシに向ける。
 キルシはひと呼吸置いて、うたを歌い始める。そして、
「わが前に示せ、われらが学び舎の姿を!」
 キルシの命に応えて、前方に空間の歪みが生じた。
 歪みはオーロラのような光を帯びていた。やがて、その光が収まると、巨大な石造りの城のような建造物が現れる。
 その建造物は高い城壁に似た壁に囲われていた。そして、壁には三つの円柱の塔が等間隔に建ち、ヌーッティたちの前方にはアーチ状の入り口がひとつある。また、壁を超えて、中の賑わいが外へ漏れていた。
「ここが、くまの妖精や精霊たちが通う学校!」
 ヌーッティは独り言つと、ごくりと息を呑んだ。
「さあ、行きますわよ」
 キルシが先頭に立ち、ヌーッティに手招きをした。ヌーッティは「ふんす!」と気合を入れると歩き出す。
 そびえ立つ壁のアーチ状の入り口をくぐり、ふたりは中へ入る。石造りの壁の中はひんやりとした空気で満たされていた。壁の中を少し歩くと、中へと通じる入り口に守衛室があった。その部屋の前で、二人の守衛たちが椅子に腰掛け談笑していた。もちろん、守衛のふたりも熊の精霊である。
「ごきげんよう、守衛さんたち」
 キルシが守衛の二人に向かって挨拶をした。守衛たちは帽子を取ると、
「こんにちは、キルシ。そっちの子が、あのヌーッティかい?」
「ええ、そうよ。こちらがヌーッティよ」
 紹介されたヌーッティは首を少し傾げた。
「やあ、ヌーッティ。はじめましてだね。私は守衛のヨーナスだよ。よろしくね」
 男性の守衛がヌーッティへ挨拶をすると、隣に座っている女性の守衛がヌーッティへ手を差し出した。
「はじめまして。私はピーアよ。よろしくね」
 ヌーッティは差し出されたピーアの手を取ると、
「ヌーッティだヌー。世界一可愛い小熊の妖精さんだヌー」
 自慢も兼ねた自己紹介をした。それを聞いた二人の守衛は優しい微笑みをヌーッティへ向ける。
「それじゃあ、校舎へ行きますわよ。校長先生たちがお待ちのはずよ」
 キルシに促され、ヌーッティは軽くお辞儀をすると、キルシのあとに続いて、壁の中へと入っていく。
 壁の中には大きな校庭と二階建ての石造りの簡素なデザインの校舎があった。校舎の奥には、壁よりも高い塔がひとつ建っている。
 広大な校庭では多くの小熊の精霊たちが遊んでいる。ヌーッティたちは校庭を突き進み、校舎の入り口を目指した。ときどき、キルシの友だちたちに声をかけられ、自己紹介をしつつ歩みを進めた。
 やふがて、大きな観音開きの扉の前に立つと、片側を開けて、ふたりは校舎の中へ足を踏み入れる。
 校舎の中も始業前の賑わいを見せていた。
 ヌーッティは周囲をきょろきょろ見回しながら、キルシに尋ねる。
「校長先生のお部屋はどこだヌー?」
「一階の奥の部屋よ」
 二人は足早に廊下を歩き、やがて、校長の部屋の前に着いた。扉の前に立つキルシは、コンコンとドアをノックした。すると、
「どうぞ、入っておいで」
 優しい口調の返答が扉の奥から返ってきた。キルシはドアを押し開けると、そこには、部屋の中央の大きなデスクに座っている黄みがかった毛並みの年老いた熊の精霊と、両側に老年の男性の熊の精霊と、若い女性の熊の精霊がそれぞれ立っていた。
「ようこそ、わが学校、ペトゥケルヤルヴィ・ユフテイスコウルへ」
 デスクに座る校長がにこりと笑った。
 こうして、ヌーッティの学校生活が幕を開けるのであった。
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