花の王国

花淵 菫

文字の大きさ
1 / 1

01:幸せな世界

しおりを挟む
 ──真っ当に生きようとする度に、世界は私を拒むんだ。

 どうしようもない事だ。本当に、どうしようもなかったのだ。

 私が物乞いの子に産まれたのは、誰のせいでもない。早くに親を亡くしたことも、妹と二人、取り残されたことも、誰のせいでもないのだ。

 だから、私が目の前の男を刺してしまったことも、仕方の無いことだ。

 ただ、薬が欲しかっただけ。もっと安ければ、買えた。いや、私がお金を持っていれば買えた。貧しい私が悪いのだ。

 そして、そんな私に、相場の倍以上の値で売りつけようとした男も悪い。

 誰もが悪人になり得る世界で、笑って逝くには、強くなければならない。ただ、それだけのことだ。

「いただきます」

 薬を拾い、血に濡れた上着を脱ぎ捨てた。死体はそのままでも構わない。この掃き溜めでは、毎日誰かが死んでいる。誰も気にしない。

(早く家に帰らないと⋯⋯)

 身体が重かった。本当は分かっている。私自身も、同じ病に冒されていると。

「⋯⋯」

 愛する人の名前は、寒空に溶けて散った。

────
「おはよう!!!!」

 バタバタとやかましい音に目を覚ました。何か良くない夢を見ていた気がする。

「お姉ちゃん!! 起きてー!! もう九時!!!」

「⋯⋯眩しいよ、ビーチェ」

 いきなりカーテンを開けられて、目を閉じた。瞬間、今度はシーツを剥ぎ取られた。

「何するのよ!」

「お姉ちゃんが言ったんでしょう?! 九時に起こしてって!」

「もうちょっと⋯⋯」

「だーめーでーす!! パンとスープが冷めちゃう!」

「⋯⋯分かった、分かった」

 しっかり者の妹には敵わない。身体を起こした傍から、小さな手が私の髪の毛をすいた。

「今日の髪型は?」

「お任せで」

「服は?!」

「⋯⋯白いワンピースに、刺繍のスカート」

「了解!」

 ビーチェはクローゼットを漁り、準備をした。その間に私は寝巻きを脱ぎ、目脂を摘んで弾き飛ばした。

(良かった。今日は体調が良い)

 胸も痛まないし、咳も出ない。これなら、買い物を存分に楽しめそうだ。天気も良い。なんて素晴らしい一日だろう。

「はい、出来たー!」

 ビーチェは、私の髪を二つに束ねていた。少し幼く見える髪型だが、私は中々気に入っている。

「ありがとう」

「えへへ」

 蕩けそうな笑顔を浮かべる妹。私の大切な家族。何よりも尊い存在。

 両親は幼い頃病死していたが、周囲の人間にも恵まれ、私たちは幸せだ。

「大好きだよ」

 私は、ビーチェを抱き締めた。

「大好き」

 私の幸せそのもの。本当は、白いブラウスも、流行りの刺繍のスカートも要らない。ただ、この子が傍にいてくれるだけで、心が満たされるんだ。

 食事を済ませると、二人一緒に家を出た。偶々通りがかった馬車を拾い、乗せて貰う。

 森を抜けて、遠い町へ。

 時を刻む大時計を、囲む様に並ぶ家々。木漏れ日揺れる、初夏の日差し。暖かな風に包まれ踊る、花の歌声。

 青い鳥も憩う広場。時を刻む針の音色に、寄り添い生きる、優しい笑顔。思い思いの歌を胸に。

「着いたー!!」

 ビーチェは馬車から飛び降り、すかさず私に手を貸してくれた。

「ねえねえ、何処から回る? ドレスのお店? ケーキのお店?」

「そんなに焦らないでよ」

 吐息混じりにたしなめると、ビーチェは腰に手を当てて胸を張った。

「今日を世界で一番幸せな日にするの!!」

 言葉通りに、ビーチェは私を連れ回す。

 流行りのドレスを扱った店、紅茶とケーキを楽しんで一休み。それから、手軽に買える髪飾りの店を見て周り、夕刻には、広場で明るい歌姫の歌を聴いた。

 その歌声には、願いを叶える不思議な力があるらしい。

 でも、私には必要無い。もう充分幸せだから。

 行きと同じ馬車に揺られて、小さくて、暖かい家に戻る頃には、夜が迫っていた。

 穏やかな白い月明かり。踊る星の煌めき。

 嗚呼⋯⋯どんな憂いも、悲しみも、何一つ無いこの世界で、誰もが幸せを願い祈る。

 明日も今日が続く様に。

────
 どうしようも無かった。妹は、既に息をしていなかった。まだ、温かいのに。温もりが残っているのに。もう、この世にはいない。

 私は何のために人を殺めたのだろうか?

 一人で生きて行く勇気などない。このまま、じっとしていれば、やがて私も同じ病に蝕まれて行く。それで良い。

 仕方がなかったんだ。これは運命なんだ。誰のせいでもなくて、きっと神様が決めた事なんだ。

「⋯⋯」

 声が出なかった。もう二度と、その名を口にする事はないだろう。

────
「おはよう!!!!」

 バタバタとやかましい音に目を覚ました。何か良くない夢を見ていた気がする。

 ──おかしい。

「お姉ちゃん!! 起きてー!! もう九時!!!」

「⋯⋯眩しいよ、ビーチェ」

 いきなりカーテンを開けられて、目を閉じた。瞬間、今度はシーツを剥ぎ取られた。

「何するのよ!」

「お姉ちゃんが言ったんでしょう?! 九時に起こしてって!」

 ──何かが狂っている。

「もうちょっと⋯⋯」

「だーめーでーす!! パンとスープが冷めちゃう!」

「⋯⋯分かった、分かった」

 しっかり者の妹には敵わない。身体を起こした傍から、小さな手が私の髪の毛をすいた。

「今日の髪型は?」

「お任せで」

 ──何かを忘れている。

「服は?!」

「⋯⋯白いワンピースに、刺繍のスカート」

「了解!」

 ビーチェはクローゼットを漁り、準備をした。その間に私は寝巻きを脱ぎ、目脂を摘んで弾き飛ばした。

(良かった。今日は体調が良い)

 胸も痛まないし、咳も出ない。これなら、買い物を存分に楽しめそうだ。天気も良い。なんて素晴らしい一日だろう。

「はい、出来たー!」

 ビーチェは、私の髪を二つに束ねていた。少し幼く見える髪型だが、私は中々気に入っている。

「ありがとう」

「えへへ」

 蕩けそうな笑顔を浮かべる妹。私の大切な家族。何よりも尊い存在。

 ──狂っている。

 両親は幼い頃病死していたが、周囲の人間にも恵まれ、私たちは幸せだ。

「大好きだよ」

 私は、ビーチェを抱き締めた。

「大好き」

 私の幸せそのもの。本当は、白いブラウスも、流行りの刺繍のスカートも要らない。ただ、この子が傍にいてくれるだけで、心が満たされるんだ。

 ──じゃあ、この虚しさは何?

 食事を済ませると、二人一緒に家を出た。偶々通りがかった馬車を拾い、乗せて貰う。

 森を抜けて、遠い町へ。

 時を刻む大時計を、囲む様に並ぶ家々。木漏れ日揺れる、初夏の日差し。暖かな風に包まれ踊る、花の歌声。

 青い鳥も憩う広場。時を刻む針の音色に、寄り添い生きる、優しい笑顔。思い思いの歌を胸に。

 ──時計時計時計時計。

「着いたー!!」

 ビーチェは馬車から飛び降り、すかさず私に手を貸してくれた。

「ねえねえ、何処から回る? ドレスのお店? ケーキのお店?」

「そんなに焦らないでよ」

 吐息混じりにたしなめると、ビーチェは腰に手を当てて胸を張った。

「今日を世界で一番幸せな日にするの!!」

 ──貴女の笑顔が胸を刺す。

 言葉通りに、ビーチェは私を連れ回す。

 流行りのドレスを扱った店、紅茶とケーキを楽しんで一休み。それから、手軽に買える髪飾りの店を見て周り、夕刻には、広場で明るい歌姫の歌を聴いた。

 その歌声には、願いを叶える不思議な力があるらしい。

 でも、私には必要無い。もう充分幸せだから。

 ──おかしいほどに。

 行きと同じ馬車に揺られて、小さくて、暖かい家に戻る頃には、夜が迫っていた。

 穏やかな白い月明かり。踊る星の煌めき。

「違う!!!」

 気付けば、買ったばかりの、ガラス細工を床に叩きつけていた。

「おかしいおかしいおかしい!!! 昨日は何をしていたの?! 一昨日は?! 私には⋯⋯私には」

 過去が無い。未来も思い描けない。

 此処は何処で、妹は誰?

「お姉ちゃん」

 ビーチェが、悲しげに首を傾けた。

「どうしたの?」

「⋯⋯貴女⋯⋯誰?」

 疑念は、無意識の内に魂を蝕み、私を暗闇へ引き摺り込もうとしていた。

「明日が来れば、今日を忘れてしまう!! それだけは確か!! おかしいよ!! だって私は!!」

 病弱なはずなのに、これだけ声を振り絞っても、疲れない。あれだけ恐れていたのに、咳き込む事も無い。

「今日の私を覚えていられない!!」

「⋯⋯気付いちゃったんだ」

 ビーチェは肩をすくめた。

「扉は何処でも良いんだよ。でも、出たら、今日へは戻れない。本当に良い?」

「ビーチェ。貴女は⋯⋯」

「気付いている人、他にもいるの。でも、出て行く人はいない。きっとお姉ちゃんには、すごく大切な何かがあったんだね」

 ビーチェは、変わらず幼い笑みを浮かべた。

「その想いが本当なら、どの扉の先にも道があるよ」

 私は弾かれた様に、寝室への扉を開いた。

 瞬間、全てを理解した。簡単な事だ。私が望んだのだ。だから、こうなった。

────
 命の灯火が消えたその瞬間、私は全てを思い出した。

 神様なんて存在しない。人は、死ぬと、この真っ暗な空間に連れて来られる。望もうとも、望まざろうとも。

 そして、生と次の生を結ぶ一本道の間にある、扉の門番に聞かれる。

 ──次の人生で、一つだけ望みを叶えるなら?

 声の主は、白髪の少女。彼女は自分を魔女だと言った。生きている間に、摂理を捻じ曲げる様な、叶わぬ願いを叶えた代償に、この常闇に独り閉じ込められているらしい。

 私は何度も同じ願いを叫んだ。

 ──あの子のお姉ちゃんになりたい。

 けれど、何回生まれ変わっても⋯⋯違う国、違う時代、違う人種に生まれても、上手く行かないのだ。

 疲れていた。それでも、願いは一つだけ。だから、あの子のお姉ちゃんになる事を願った。

 本当なら、二人、幸せに生きられる様に願いたかった。本当なら、両親に愛されたかった。本当なら、恵まれた家庭に生まれたかった。

 でも、一つだけだから⋯⋯何よりも大切なあの子の存在を望んだ。

 それ以上を望むのなら、自分が魔女になるしかない。この暗闇に、独り取り残されて、愛する人の魂が廻り続ける様を、見守る事しか出来ない。

 妹にも、別の姉が出来て、きっと私の事を忘れてしまう。魔女は⋯⋯何百年も、その苦しみに囚われている。

 それは、嫌だった。だけど、生きる事にうんざりしていた。

 ──じゃあ、抜け道はあっちよ。

 魔女に指し示された方へ真っ直ぐ歩き続け、気付けば⋯⋯。

────
 幸せの国。

 嗚呼⋯⋯どんな痛みの記憶も、何一つ無いこの世界で、誰もが「彼女」を愛し、慕う、時の魔女の物語。

 私が望んだのだ。

 嗚呼⋯⋯どんな憂いも、悲しみも、何一つ無いこの世界で、誰もが幸せを願い祈る。

 明日も今日が続く様に。

 同じ一日を繰り返す、不可思議な世界。

「ねぇ、お姉ちゃん」

 何日、何年寄り添ったのか分からない声が、背中に響いた。

「お姉ちゃんの一日は幸せだった?」

 幸せだったよ。

「私はちゃんと、妹をやれていた?」

 うん。とても優しくて、しっかりしていて、私を甘やかしてくれる、完璧な妹だった。

 振り返ってしまえば、きっと進めなくなる。本当に、幸せな一日だった。頬に、熱い雫が伝った。

「⋯⋯ビーチェ。貴女は誰だったの? 貴女は、病弱な姉が欲しい、誰かだったの?」

「私は、貴女の望み。この国の全て。誰かにとっての希望そのもの」

 視界が暗転し、目の前に魔女の姿があった。彼女は、驚いた顔をしていた。

「本当に抜け出したのは、貴女が初めてよ」

「あんな世界はおかしい!! 現実じゃない!! 私たちは救われていない!!」

「気付いてもね、抜け出せる子はいないのよ」

 魔女はビーチェの姿に変わり、空に手を翳した。あの、幸せな世界が映し出される。

「例えば、劇作家。作品を酷評され続けて命を断った人。台本を書き上げたその瞬間だけは、傑作を生み出した感覚に酔いしれ、満ち足りた気分でいられた。彼は気付いている。毎日気付き続けている。物事を深く考える、頭の良い人だから。でも、翌朝になれば、全てを忘れて、幸せに浸れるから」

 また風景が変わる。

「例えば、広場の歌姫。あの子、本当は人形なのよ。人間になる為に、必要な何かを探し続けている。願いを叶える、不思議な歌声が枯れるまでに、それを見つけられ無ければ、意志のない物に戻ってしまうの。でも、今のあの子は、何の憂いも無く歌い続けられる。人の役に立てる事を、心から喜んでいるわ」

 魔女は腕を下ろした。

「他にも、貴女と触れ合っていない、沢山の子達がいるわ。みんな、心に深い傷を負って此処に来た。私は助けたいの。私の様に暗闇に縛り付けられるだけでは無く、偽りであっても、陽の光の中で笑い合える様にしてあげたかった」

 その言葉を聞き、私は初めて、魔女が、何かとても、悲しい存在に思えた。彼女も人間だったのだ。何か理不尽な目に遭い、運命を変えようと足掻いたのだろう。

「貴女はどうして魔女になったの?」

「姉がいたのよ。とても強い人だった」

 彼女は視線を逸らし、微笑んだ。

「男勝りな人で、何時でも私を守ってくれた。貧しい暮らしだったけれど、姉だけが、私の救いだった。何度も何度も、私の姉になってくれた。その因果から逃れて欲しくて、私の事を忘れてくれる様に願ったの。此処へ来ても、思い出さない様に」

「⋯⋯そんな」

 胸に痛みが奔った。魔女は、私の瞳を見詰めた。

「だけど、貴女は”妹”を望んだ。良くこれまで、折れずに廻り続けて来れたと思ったわ。病弱で、頼りなくて⋯⋯心強い姉を望む、ひ弱な妹と寄り添い続けた。私が輪廻から外れても、貴女の想いは⋯⋯運命は変わらなかった」

 気付かなかった。話を聞いても、思い出せない。私の妹は、ずっと一人だ。私が、そう思う様に、彼女が願ったのだ。

「ごめん⋯⋯。ごめんね!」

 きっと、あの無邪気な”妹”の姿が、魔女の望んだ本来の姿なのだろう。

「私⋯⋯思い出せない! やっぱり、私の妹は⋯⋯ごめんなさい!!」

「うん。仕方ないよ。これは、私が受けている罰だから」

 魔女は、私をそっと抱き締めてくれた。

「貴女が、別の魂のお姉ちゃんになった姿を、何度も何度も見て来た。ずっと、ずっと苦しい道を歩き続けていた姿も。私は何も出来なかった。だから、少しの間だけど、おままごとが出来て楽しかったよ」

 魔女は、そっと身体を離すと、本来の務めを果たすべく、口を開いた。

「今の貴女は、もう幸せの国には戻れない。進むしか無い。⋯⋯願いは一つだけ。何時もと同じ。何を願う?」

 これじゃあ、同じ事の繰り返しだ。

 何を願えば良い? 何を望めば、救われる?

「私の願いは」

────
 真っ当に生きようとする度に、世界は私を拒むんだ。

 どうしようもない怒りが湧いた。何故自分たちばかりが、こんな仕打ちを受けなければならないのか。

 間違っている。

「エルサ、静かに荷物を纏めて」

 間違っているんだ。私はまだ良い。だけど、こんなに幼い妹が、道端の石ころの様に扱われ、痩せ細って行く世界は、間違っている。

 母さんも、母さんだ。最下層の娼婦だったにも関わらず、子供を二人も産んだ。

 父さんだって、病気で生い先短いと知っていたなら、酒にお金を注ぎ込まず、少しでも残してくれれば良かったのに。

 どうして、子供が子供の人生を背負い、泥水を啜る様に生きなければいけないんだ。

「お姉ちゃん? どうしたの?」

 エルサは眠そうに目を擦った。

 このままじゃいけない。

「エルサ、良く聞いて。このままじゃ、私たち、死んじゃう。食べるのにも、寝る場所を守るのにもお金が必要で、子供の私は十分に稼げないの。お腹が空いているでしょう? 本当は悲しいでしょう? 怒りが堪えられないでしょう? 安全な場所に逃げるの」

「あんぜん?」

 親の顔も知らない妹は、その言葉の意味すら分かっていない様だった。そんな事さえも教えてあげられなかった、私が悪いのだ。

 同時に、この状況を作った親や社会、全部、全部が悪いのだ。

「大事な物、この袋に入れて」

 麻の沙汰袋を差し出すと、エルサは首を横に振った。私はやるせない気持ちでそれを腰に括り付け、屈んだ。

「おぶってあげる」

「うん」

 エルサは小さな腕を懸命に伸ばして、私にしがみついた。

 家を出た。

 西の森には、大きな修道院があるはずだ。年の割に頭の働く私は、地図が読めたし、大人たちの会話を完璧に理解出来た。

 星の無い空の下、希望を求めて走り出す。

 神様なんていない。

 だけど、私の事を見守っている人がいる。生まれた時から、はっきりと記憶に残っていた。

「ビーチェ」

 もう一人の妹。私に幸せをくれた人。

 何度も名前を呼んだ。道を踏み外さない様に。罪を認める様に。

 全部私が悪かったのだ。自分と妹のためなら、何を犠牲にしても良いと、心に言い聞かせて来た。

 本当は分かっていたんだ。私も間違っていたのだと。だから、救われないんだ。何度繰り返しても。だけど、今度は変えてみせる。

 私のたった一つの願い。

────
「貴女を覚えていたい」

 私の言葉に、魔女の瞳が揺らいだ。

「貴女⋯⋯ううん。此処で起きたことを覚えていたい」

「そんなことで良いの? 貴女自身の幸せを願う事も出来るのよ?」

「それじゃあ、私の妹になりたかった誰かの人生は、どうなるの? 私の幸せだけじゃ、あの子の人生まで、保証がない」

「⋯⋯う⋯⋯うわぁぁぁぁ」

 ビーチェは、子供の姿で泣き声を上げた。

「私⋯⋯私⋯⋯貴女の妹になりたかったよぉ!! 本当は、忘れて欲しく無かったぁ!! 私が⋯⋯私が妹になりたかったよぉ!!!」

「うん。⋯⋯うん」

 私は、ずっと傍に寄り添っていてくれた魔女を抱き締めた。

「今度は上手くやる。真っ当に生きて、あの子を救えたら、祈るよ」

 ──貴女の、この日々が、何時の日にか終わる様に。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

因果応報以上の罰を

下菊みこと
ファンタジー
ざまぁというか行き過ぎた報復があります、ご注意下さい。 どこを取っても救いのない話。 ご都合主義の…バッドエンド?ビターエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...