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01:魔女の瞳

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 一度は鼓動を止めた我が子を、救い上げた事は過ちだったのだろうか?

 幸せを願い、手を離した事が、更なる悲劇を招いたのだろうか。

 愛しい子供の叫びが、胸を穿つ。

 ──愛していた。

 ──愛されていた。

 ──何よりも大切だった。

 ──命に代えても、守りたかった。

 ──この世界は、優しく、生きるのは悲しい。

 ──《あたりまえ》を望んでいた。

 ──明日も今日が続く事を。

 ──愛する人と歩む未来を。

 ──人は、死して土に還る。

 ──摂理に反した私たち医者は、罰を受けたのでしょうか?

 嗚呼⋯⋯そんな風に思わないで。貴女は何一つ間違えていない。誰よりも正しく生きて来たのだから。

 私は瞳を開け、全ての幻想を遮断した。大丈夫。この子なら乗り越えられる。私とは違うのだから。痛みも悲しみも覚悟の上で、《受け入れること》を選び取れたのだから。

 金色の髪に緑の瞳。似ても似つかない姿に生まれ変わった、可愛い我が子。

 さよなら、オリヴィエ・クラヴリー。

 この世界に生きる、全ての偽りの魔女たちよ。

「行ってらっしゃい」

 遠ざかる背中が、淡く滲んだ。

 また独り、この場所に取り残される。人の領分を超えた、叶わぬ願いを叶えた代償が、私を此処へ繋ぎ止める。

 見守ることしか出来ない。もう二度と、願いは届かないと知りながら、祈る事をやめられない。

「幸運を⋯⋯」

 最後の言葉は、常闇に千切れて消えた。

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