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【番外編2】望、多波を攻める(3.望のペッティング)

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多波さんがお風呂から出てくると、毎晩恒例のスキンシップタイムになった。湯気を立てる巨体が、私をヒョイと抱きかかえる。

「ベッド冷たいから、離れるなよ」

そう言うと、多波さんは私を抱っこしたまま、ベッドの中に潜り込んだ。あぐらをかいて、その上に私をちょこんと乗せる。

ふふっ・・・かまくらみたい

優しい温もりに包まれながら、思った。ちょうど真上に、彼の顎がある。手を伸ばして、触れてみる。

じょり、じょり・・・

顎から頬に向かって撫で上げると、髭が紙ヤスリみたいに私の掌を掻いた。

「髭、朝より伸びた?」

「まぁ、そうだな」

「多波さん、端っこ、いつも剃り残してますよ」

「ぬ!?気を付ける・・・」

どこだろう?という風に、彼は顎を何度も撫で回した。初めて会った時も剃り残しがあったけれど、ずっと気がついていなかったらしい。

「そのままで、いいですよ。私、好きですよ。剃り残し・・・ふふっ」

ぎゅううううう~~!!

「わぁああ!!」

巨体に、力一杯抱きしめられる。たくましい腕の中で、もがいていると、今度はおでこにキスの嵐がやってきた。くすぐったくて、身をよじって抜け出そうとしたけれど、体に力が入らない。完全に、されるがまま。私は頬を染めながら、彼から熱烈なハグとデコキスをたっぷり貰った。

暫くして、多波さんは満足したらしく、抱擁を解いた。私の顎をゆっくり持ち上げる。目の前で、大きな瞳が、瑞々しく揺らめいている。

あ・・・

空気が変わった。

目を閉じる。温かな弾力が、唇に落ちてくる。

「ん・・・」

彼は、そっと口を重ねていた。

口が離れて理性が戻ると、不意に、いっちゃんの言葉が脳裏に蘇った。

――彼にやったげたら、喜ぶヨォ・・・

その声に、全身の産毛が静電気を帯びたように、ざわめく。

勝手に動き出す、私の手。ソロソロ、ゆっくり、多波さんの厚い体を包んだシャツを下る。ズボンに指先が触れる。股に差し掛かり、生地に指を沈める。布越しに肉茎に触れた。

「なっ!?!?」

多波さんは、素っ頓狂な声をあげた。狼狽する彼を見て、我に返り、手を引っ込める。

「あ・・・嫌ですよね。ごめんなさい」

「い・・・嫌じゃない。無理しなくていい」

「無理してません!私がしたいんです!やってみたいんです!その・・・」

急に恥ずかしくなって、言葉が途切れた。やけに熱のこもった声になってしまった。でも、ここまで来たら引き返せない。口をモゴモゴさせながら、単刀直入に要望を伝えた。

「直接・・・触っても・・・いいですか?」

「へ・・・」

硬直する多波さん。ピクリとも動かない。どうやら石化したらしい。

・・・ダメだよね

半ば諦めていると――

ゴクリ

巨体の喉仏が、力強く上下した。多波さんは意を決したように、ズボンとトランクスを下ろし、下半身を曝け出した。胡坐を崩したような姿勢になると、少し腰を前に出して、遠慮がちに言った。

「・・・これで・・・いいか?」

「ありがとうございます」

多波さん、照れてる・・・かわいい

目の前に、彼のモノが佇んでいる。大きい・・・気がする。顔を近づけて、眺める。じっくり、まじまじと。

・・・こう・・・なってるんだ

彼が下を脱ぐのは、いつも行為の最中だった。耽っている時、私は余裕がない。だから、こんなに間近で見るのは、初めてだった。

肉茎は既に半ば勃っていた。じっと見つめていると、どんどん上向きになっていった。

・・・あれ?

ソレはムクムクと膨張して、真っ直ぐに伸び上がり、少しだけ右に傾いて止まった。

・・・勃つと、こうなるんだ

「す、すまん・・・慣れないんだ・・・」

くぐもった声で弁解しながら、彼は両手で顔を覆った。リンゴみたいに真っ赤だ。太い指の隙間から見える頬も、大きな耳たぶも、みんな真っ赤。

「いえ・・・大丈夫です」

言いながら、私も自分の頬に手を当てる。

・・・熱い。鏡で見たら、きっと多波さんと同じくらい赤いかも。

頬から手を離して、そそり勃った彼のモノに指を近づけていく。裏筋を人差し指と中指で、そっとなぞる。多波さんは食いしばった歯の隙間から、艶やか呻き声を漏らした。

「うッ・・・」

わ・・・多波さんの声・・・いつもと違う

彼は、伏し目がちに俯き、広い手でシーツを鷲掴みにしている。呼吸も浅い。

見たことのない彼の表情に、ふつふつと好奇心が湧いてくる。

「男の人って、興奮するから勃つんですか?それとも、触るから勃つんですか?」

多波さんは一瞬、驚いたように目を見張った。でも、視線を逸らしつつ、教えてくれた。

「・・・どっちもだな」

「コレって、普段、重くないんですか?」

「重くはないな・・・なぁ、もう・・・いいだろ」

「あ!ちょっと待ってください!最後に一つだけ・・・」

いっちゃんに教わった秘伝のなんとかを、試したい。今にも張り裂けそうな彼自身を、私は手で包み込んだ。多波さんの眉間に悩ましい溝が刻まれる。ブルリ。巨体が震える。ひときわ大きく。

えーっと・・・まず、こうやって・・・こーやって動かして・・・

いっちゃんの手の動きを思い出しながら、そそり立つ肉茎を擦り上げる。手を動かすたびに、肉厚な表皮が一緒に動く。上下する皮の下に、硬く張り詰めた芯が息づいている。

ゴシゴシゴシゴ・・・

ビュルリ!!

3回半擦ったところで、白濁とした液体が視界を濁した。

パタパタパタ・・・

白い液体が、私の顔に点々と落ちる。

え・・・

「だああああーーー!!!」

多波さんの絶叫が、部屋に轟く。彼はベッドサイドのボックスティッシュを鷲掴みにすると、箱の中身を全部取り出して、私の顔を力強く擦った。

ゴシゴシゴシゴシ!!!

「ブふゅ!?」

変な声が出た。それでも、顔面を往復するティッシュは止まらない。

「大丈夫か!!すまん!」

多波さんの慌てぶりを見て、自分の置かれた状況をようやく理解した。

あ・・・出ちゃったのか、多波さん。まさか、こんなに早いなんて・・・あれ?いつも、こんなに早くないよね??というか、動画の量はフィクションって言ってたのに、負けないくらい、飛び出したような・・・

「気持ち悪かっただろ!?風呂行った方がいい!」

この世の終わりのように、多波さんはオロオロしている。

ねちょり

ん?・・・

自分の掌を見ると、白い体液が残っていた。顔を近づけて嗅いでみる。

くんくん・・・

悠々と海を泳ぐ、白く細長い生物が、脳裏に浮かんだ。

「イカ?」

「やめろ!ばっちい!!」

彼は、新しいティッシュを音速で持ってきて、私の手を光速で拭き上げた。

「別に、いいですよ。多波さんのですし」

「よくない!」

冷や汗を浮かべた赤ら顔で、多波さんは凄んだ。それがなんだか可笑しくて、つい口角が上がってしまう。

「フフッ、だって・・・んむっ!」

唇が乱暴に重なった。早急すぎる勢いで、彼は口内に入り込み、クチュクチュとかき乱す。

「ふはっ・・・」

唇が離れると、一筋の唾液が互いの唇を繋いだ。

「もう・・・いいだろ」

恥ずかしい。リンゴ色に染まったいかつい顔が、そう言っている。彼は俯いて目を伏せた。瞼の細い隙間から覗く羞恥に濡れた瞳が、キラキラと瞬いている。

可愛い・・・

そう思ったけれど、少し後悔した。

「ごめんなさい。調子に乗りました。多波さんって、自分で行くのは得意だけど、来られるのは苦手なんですね」

「そういう・・・訳じゃない・・・」

いじけたような反論に、私は口を尖らせた。

「じゃあ、どういう訳ですか?」

「のっ・・・望が触るからだ!」

なんだ、その嬉しい返答は。

今の一言で、さっきの後悔が吹き飛んで、引っ込めたはずの欲望がドッと溢れ出した。

「友達の話はともかく!私も何かしたいんです!多波さんにも、その・・・もっと気持ちよくなって欲しいんです!」

「んな!?」

これ以上、赤くならないと思っていた彼の顔は、更に真っ赤になった。火に炙られた鉄みたいに。

「もう少しだけ、触っちゃダメですか?」

上目遣いで、お願いしてみる。

「ぐゥ・・・」

彼は、結んだ口から唸り声を漏らすと、目を固く閉じて、頭をボリボリ掻いた。しばらくして、観念したように肩を落とし、口を開いた。

「・・・わかった」

多波さんはシャツを脱いで、ベッドに仰向けになった。真っ白なシーツの上に、美しい男体が横たわっている。分厚い胸板、綺麗に割れた腹筋、弓のような足、男性を象徴したような肉体だ。眩い光景に、鼓動が高鳴る。

早速、胸板の突起を、指でつついてみる。

「・・・うっ」

多波さんの喘ぎ声。太く、響く、喉から絞り出すような声。その声に誘われるように、胸板の突起を繰り返しこねた。

ツン

突起が立ち上がる。赤く熟れた実ように。

「ふぁわ・・・!」

男の人でも反応するんだ!わぁ・・・どんどん固くなってる。ふふふっ・・・コッチしかいじってないのに、コッチも固くなった。面白いなぁ・・・

固くなった突起を、そっと指で弾く。艶やかで弾力のある実は、弾いたとたん起き上がる。なんだか起き上がり小法師みたい。

「多波さんって、ココ触られるの好きだったり・・・多波さん?」

「ふッ・・・グっ・・・」

多波さんは、荒々しい息を吐きながら、唇を噛み、体を震わせていた。細くなった目が、潤んでいる。必死で、切ない表情。私が突起に触れるたびに、彼のつま先がシーツを小刻みにかく。美しくベッドメイクされたシーツが、どんどん乱れていく。

官能的な彼の表情が、私の体を突き動かす。胸の突起から手を離し、腹筋の溝に指を這わせた。

スルスルスル・・・

「うぁ!むぐっ・・・」

今度は、掌で首筋を一直線になぞる。

ヒュー・・・ッ

「うぐっ・・・ふッ・・・ッハ」

多波さんの視線は、空中を彷徨っている。目の焦点が合っていない。

適当に触っただけなのに、こんなになるなんて・・・

不思議に思っていると、多波さんは男性的な艶っぽい声で囁いた。

「全部・・・いい」

えぇ!?

衝撃の発言が飛び出す。

「望が触るから・・・」

「・・・え」

「愛を感じる」

えー・・・

点になる、私の目。

・・・ごめん。愛というより、好奇心でやってた。

なんだか多波さんに申し訳なくなって、この後、いつも通りのエッチをした。

***番外編3へ続く***
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