― 閻魔庁 琥珀の備忘録 ―

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- アルファード王国と黒い獅子 -

『朧げな記憶と謎の声』

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――――――‥ 
――‥ 

…夢を見た。

それは朧げで遠い昔の記憶で、


『――‥ どうして…ッ なぜ、ですか…。
こんなこと…っ 誰も望んでいなかったのに』

―― 絶望に嘆く声。

『なぜ、私だけ置いて逝ってしまったのですか…』


『……こんなことになるくらいなら、貴方を失う辛さを知るくらいなら…

貴方と出逢わなければよかった。

そしたら…

貴方の未来はまた変わっていたかもしれないのに』


悲壮感漂う表情で嘆く声は自分と似ていて、だけど、その姿は自分とは似ても似つかない。神官服に身を纏った顎下に掛かるか掛からないか程よい長さに切られた白銀の髪、少し縁が大きめの眼鏡を掛けた少年は、神殿前で膝を着いて泣き崩れていた。

神殿とその少年の前で途切れた元は大地であっただろうその先は… 
大洪水の水によって土や建物が抉られ、崖のようになっていた。…周りには何もない。あるのは唯一生き残った少年と、その後ろに佇む神殿。

街は街にあらず、全て水に呑まれてしまっていた。

その光景を見ている自分がいた。……どうして、でしょうか。胸が… 鼓動が… 五月蝿い。唇が震えるのはどうしてなのでしょうか。……私はこの先を知っている。こうなった経緯も… いや、違う!!私はこんな記憶、知りません…!!

胸が苦しい…ッ

なぜ、悲しいんでしょうか。涙が止まらない…

辛くて辛くて堪らなかった。…耐えられなかった。――‥ だから、あの日。 ……あの日?私は何を…ッ?

とてつもない不安と『どうして』と『なぜ』という言葉が頭を支配していく――。

苦しくて、辛くて悲しくて…

今までに知らない感情で埋め尽くされていく自分に『あの時と同じ』絶望を感じて、だから 『また』自分に関わる全ての記憶を消そうと思った。

無意識に古の言葉を綴る…

けれど、

途中でそれは中断された。

『――‥それだけはいけないね』

優しく諭すような声が心地よい闇と一緒に訪れる。

―――――――‥ 
――‥ 

「ぅ゙…ッ」

何故でしょう。このパターンはなぜかデジャヴを感じます。

ゆっくり目を開けると、慣れない陽の光に思わず目を腕で覆う。そのときに目に… 違和感を感じた。そっと指先で拭ってみると、それは水滴で。

今の今まで地獄で、ライやエイたちの裏切りの仕打ちにさえ泣いたことがなかったのに… 信じられなかった。

「私は… 泣いていたのでしょうか?」

首を傾げる。

けれど、夢を見て泣いていたのかと言われると… 正直なところ、何かを見ていた気がする。けれどそれだけで、どんな夢を見ていたのかその内容も全く覚えていなかった。まるで、霞みが掛かったように頭がボーッとする…。

思い出せそうで思い出せない。…思い出そうとすると何故か頭がズキズキする。

それでも、あと少しで思い出せそうだと思ったときだった。

ひんやりとした手で目を覆われたのは――。

『…まったく、君も強情だね』

――‥ どうしてだか、はじめて聞くはずなのに前にも聞いたことがあるような気がする艶やかなテノールの声…。

『今度こそ、おやすみ…。いい夢が見られるように』

その優しげで落ち着く声に、自分の意思に反して瞼が下りていく。…そして、気づく間も無く、私の意識は深い眠りに堕ちて行った。
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