366日の奇跡

夏目とろ

文字の大きさ
43 / 103
[第4章]雪解けと和解

07 浅葱side (副会長)

しおりを挟む
「あはは、思ったよりも綺麗になってるじゃん」

 鈴音から引き継いだ鷹司の部屋に上がり込み、まるで他人事のようにそう口にした。まあ、ホントに他人事なんだけどね。

「ほっとけ」

 最近、ようやく人間味が出て来た鷹司は投げやりにそう言って、ソファーに仰向いて身を沈める。その向かいに腰掛けたはいいが、

「キッチン借りていい?」

 この部屋じゃろくにお茶も出て来ないことを思い出して、僕はおもむろに腰を上げてキッチンに向かった。

 学生寮のキッチンの家電や調理器具、食器類は備え付けのものがあり、料理をする者はそれに好みのものを買い足して使っているらしい。僕は全く料理はしないから、専らお茶を淹れるためと飲み物を入れておくためだけに使っている。
 意外にも鷹司は、生徒会の仕事を始めてから自炊するようになったらしかった。羽柴が使った後の部屋には茶葉があったはずだけど……、

「あ、あったあった。鷹司のやつ、もしかして自分で買い足したのかな」

 そう思って少し笑ってしまった。

「お待たせ。頑張ったねえ。床が見えてる」

 一度鈴音が使ってた頃に来たことがあるが、その時は足の踏み場もないほどに汚れていた。鈴音は僕と違って外食の他にもコンビニやスーパーマーケットでも買い物してるらしく、お菓子の袋やアイスのカップ、脱ぎ散らかした服やタオルが散乱していた。
 鈴音はセレブとは程遠い仲間がいたから、外部生やそこそこの家柄の生徒が利用しているコンビニなんかも利用していたんだろう。

 鷹司は、僕もだけど、実家にいると掃除することもない。掃除はハウスクリーニング専門の使用人が学校に行っている間にしてくれるし、間食も高級店の和菓子や洋菓子だったりフルーツだったりがわざわざ言わなくても時間になると自分の元へ運ばれて来る。
 そんなことがあり、いまだに僕はコンビニに行ったことがない。ペットボトルも僕の部屋にはなく、冷蔵庫の中には瓶入りのペリエやミネラルウォーターだけが入っているだけだ。

 実家にいると喉が渇いたと言えば飲み物が運ばれて来るし、僕も鷹司も自宅のキッチンに入ったことがなかった。それが中等部になって寮生活になると、自分でしなきゃいけないことも出て来るようになり。
 ただ、掃除はハウスクリーニングを頼めばいいし、洗濯物は特別棟一階ロビーのコンシェルジュに登校前に預けておくと帰宅する頃にはクリーニングされたものを受け取ることが出来る。外食は特別棟のロビーの片隅に高級料亭やそれなりに名の知れた店の出張所とも言える支店があり、和食から洋食、多国籍料理まで有名店の味を楽しむことが出来た。

 それらはホテルのルームサービスのようにデリバリーも出来て、食べたものはそのままワゴンに戻して外に出しておくと取りに来てくれる。クリーニングと同じく自宅にいる時とは違って自分で手配しなきゃいけなくて、それが僕らエリート組の社会勉強のようなものになっていた。因みにお会計は学食や行き着けの店と同じように、直接親に行くシステムになっている。

 鷹司も生徒会の仕事を始める前は僕と同じだったのに、仕事を始めてから料理以外にも掃除や洗濯まで自分でするようになった。僕もだけど、洗濯機の存在さえ知らなかったお坊ちゃまの鷹司に影響を与えたのは外ならぬ羽柴で、今はデリバリーで食材を手に入れているけどそのうちスーパーマーケットで自ら食材を選んで来そうな勢いだ。
 そんな中、廊下の隅に積み上げられていたポリ袋が何個だったか思い出していたその時、

「あれ?」

 リビングの窓の向こうにあるべきものがないことに気がついた。

「鷹司、あれどうしたの?」
「あれ?」
「天体望遠鏡」
「ああ。あれか」

 どうやら羽柴の部屋に置いて来たらしいと苦笑う鷹司に慌てた様子はなく、

「僕が羽柴の部屋に行って貰って来ようか?」
「いい。重いだろ、あれ」

 そう言うと、見もしないだろうテレビをつけた。

「だってあれは……」

 あの天体望遠鏡は僕らが出会う前、初等部に入学する前に鷹司がお父さんに買って貰った大切なものだ。それは鷹司のお母さんの美佐子さんが病気で亡くなった直後のことで、世話役の前田さんから『奥様は星になられたんですよ』と教えられた鷹司が星を見たいとねだって買って貰ったものだと聞いている。
 確か当時の最新型のモデルで、月のクレーターもはっきり見える高価なものだ。それなのにそれを覗いた鷹司にお母さんの星が見たいと言われ、前田さんは一つの星じゃなく美佐子さんの誕生日の星座がよく見えるように設定したらしかった。その星の群の中の一つがお母さんの星だと教わり、毎日寝る前に鷹司は望遠鏡を覗いていた。それからしばらくして美佐子さんが病死したことを自覚した後も、鷹司は変わらず同じ星座だけを飽きもせず眺めていたっけ。

「羽柴が使えばいい。俺は見る暇もないが、今の羽柴には星を見る余裕ぐらいあるだろ」

 そう言った鷹司はまた苦笑って、僕が淹れた紅茶にそっと口をつけた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

Q.親友のブラコン兄弟から敵意を向けられています。どうすれば助かりますか?

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
平々凡々な高校生、茂部正人«もぶまさと»にはひとつの悩みがある。 それは、親友である八乙女楓真«やおとめふうま»の兄と弟から、尋常でない敵意を向けられることであった。ブラコンである彼らは、大切な彼と仲良くしている茂部を警戒しているのだ──そう考える茂部は悩みつつも、楓真と仲を深めていく。 友達関係を続けるため、たまに折れそうにもなるけど圧には負けない!!頑張れ、茂部!! なお、兄弟は三人とも好意を茂部に向けているものとする。 7/28 一度完結しました。小ネタなど書けたら追加していきたいと思います。

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

腐男子ですが何か?

みーやん
BL
俺は田中玲央。何処にでもいる一般人。 ただ少し趣味が特殊で男と男がイチャコラしているのをみるのが大好きだってこと以外はね。 そんな俺は中学一年生の頃から密かに企んでいた計画がある。青藍学園。そう全寮制男子校へ入学することだ。しかし定番ながら学費がバカみたい高額だ。そこで特待生を狙うべく勉強に励んだ。 幸いにも俺にはすこぶる頭のいい姉がいたため、中学一年生からの成績は常にトップ。そのまま三年間走り切ったのだ。 そしてついに高校入試の試験。 見事特待生と首席をもぎとったのだ。 「さぁ!ここからが俺の人生の始まりだ! って。え? 首席って…めっちゃ目立つくねぇ?! やっちまったぁ!!」 この作品はごく普通の顔をした一般人に思えた田中玲央が実は隠れ美少年だということを知らずに腐男子を隠しながら学園生活を送る物語である。

幼馴染み

BL
高校生の真琴は、隣に住む幼馴染の龍之介が好き。かっこよくて品行方正な人気者の龍之介が、かわいいと噂の井野さんから告白されたと聞いて……。 高校生同士の瑞々しくて甘酸っぱい恋模様。

坂木兄弟が家にやってきました。

風見鶏ーKazamidoriー
BL
父子家庭のマイホームに暮らす|鷹野《たかの》|楓《かえで》は家事をこなす高校生。ある日、父の再婚話が持ちあがり相手の家族とひとつ屋根のしたで生活することに、再婚相手には年の近い息子たちがいた。 ふてぶてしい兄弟に楓は手を焼きながら、しだいに惹かれていく。

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

処理中です...